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1話 クロッセからの婚約破棄

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「お前との婚約は破棄させてもらう。これは決定事項だ」

「そ、そんな……!」


 突如、私は婚約者であるクロッセ・エンブリオ侯爵に婚約破棄を言い渡されてしまった。あまりにも信じられないことに、立ち眩みを起こしそうだ。


「なぜでしょうか? 理由は一体何なのですか……?」

「理由は別の女性と婚約することになったからだ。お前よりも地位の高い人物だよ」

「それって……」


 私よりも地位の高い者を選び直しているだけ……つまりはクロッセ様の浮気に他ならなかった。

「浮気でしょうか……?」

「だからなんだと言うのだ? たかが伯爵令嬢でしかないカミーユには何も出来ないだろう?」

「くっ……」


 クロッセ様は侯爵様になる。私の地位で何か反撃をしようものなら、簡単に潰されてしまうだろう。それ程にリスクが大きかった。泣き寝入りをするしかないのが現状かしら……。


「せめて慰謝料は払ってくださいね、クロッセ様」


 彼に対する愛情が一気に崩れた瞬間だった。今は憎悪しかない……ならばせめて慰謝料だけでも貰いたくなる。浮気で捨てられるなんて納得できないけれど、今の私には慰謝料のことを主張するしか出来なかった。

「何を馬鹿なことを言っている? 私は慰謝料を支払うつもりなどないぞ」

「な、なんですって……?」


 私は耳を疑ってしまった。慰謝料を支払わない……?


「誰に向かって口を利いているつもりだ。私はお前に慰謝料を支払うつもりはない、と言ったんだ」

「そんな! 慰謝料は理不尽な婚約破棄をした相手が支払う決まりのはずです! それを支払わないなんて……そんなことが許されるはずありません!」

「許されるんだよ……私の地位を駆使すればな。お前は自分が伯爵令嬢でしかない、ということをもう一度良く考えるべきだな」

「なっ……クロッセ様……!」

「うるさい奴だな……ほら、近衛兵に追い出されたくなければ、すぐに屋敷から出て行ってくれ。お前と話している時間が惜しいんだ」

「……!」


 クロッセ様は最早、私と話す気はないようだった。欠伸をしながら明後日の方向を向き、近衛兵に事後処理を任せようとしているのか、部屋に呼び出す始末だ。私の力ではクロッセ様は当然、近衛兵相手にも何も出来なかった。逆らった行動を取れば簡単に拘束されてしまうだろう。


「カミーユ、お前の身体を抱けなかったのは勿体なかった。愛人としてなら、今後も屋敷に来てくれて構わないぞ? 」

「ふざけないでください……」

「そうだろうな、あははははははっ!」


 醜い大笑いがクロッセ様の私室にこだましていた……私は耳を覆い隠し、そのまま部屋を後にする。悔しいけれど何も出来ない……大粒の涙を流しながら、彼の屋敷から出て行くしかなかったのだ。
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