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14話

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「やっぱり緊張するわね……」

「まあ、ミリーの気持ちはわかるよ。私も緊張しているからな……」


 私とルシエドは貴族の噂の流れを確認する為に、近場のパーティーに出席することにした。フェンリル子爵の長男であるマトリフ様の誕生日パーティーだ。

「結構規模が大きなパーティーなのね」

「そうだね。フェンリル家は子爵ではあるが、かなり上層への憧れが強いと聞く。こういった誕生日パーティーで自らの家系の経済力をアピールしているんだろうな」

「なるほど」


 上層への憧れや経済力のアピールは貴族を続けるのであれば必須の精神と言えるのかもしれない。常に向上心を持って事業などに臨まなければ、移り気な世の中に呑み込まれてしまうからね。私が生まれてからの10数年の間だけでも破産してしまった貴族が居たと聞いたこともあるくらいだし……貴族もなかなか大変なのかもしれないわね。


「さて、まあフェンリル家の向上心の話はそのくらいにして……ええと」

「そうね。噂の方はどうかしら……?」

「う~ん、見たところあまり囁かれている印象はないかな……」


 私も注意深く周りを見ているけれど、あんまり私達を見ている人々はいないみたいね。なんというか……平和だった。周囲は穏やかな時間が流れているような気がするし、最早、この手のパーティーの定番とも言えるバイキング形式の食事はどこも満杯だ。

 メイドや執事が充実しており、絶え間なく動いている証でもあると思う。まるで人間の血管の中を巡る赤血球のようね。例えがイマイチかもしれないけれど、私は周りを見ながらその景色を楽しんでいた。


「なんだか変な感じだわ。緊張感をもって臨んだというのに……」

「ははは。まあ、気持ちは分からなくはないけれど、こういう雰囲気も偶にはいいんじゃないかな?」

「そうかもしれないわね」


 最近が慌ただし過ぎたのだ。私はこの雰囲気を楽しむことにした。


「おや……これはルシエド様! それにミリー様も……! 私のパーティーに来ていただけるとは……光栄でございます!」

 そんな時、声をかけてきたのはマトリフ様だった。このパーティーの主役なる人物だ。


「マトリフ様……いえ、そのような言葉、勿体なく存じます」

「普通にしてくれて構わないぞ」


 ルシエドは流石に上流階級のため、マトリフに対して上からの発言だったけれど、私はあまり地位が変わらないので丁寧に接した。

「ありがとうございます。私には勿体ないお言葉です。しかし……大丈夫なのですか? お二人はその……一部の貴族の間で噂になっていると聞きましたが……」

 あら……やはり、このまま穏やかにとは行かないみたいね。
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