上 下
8 / 10

8話

しおりを挟む
「道具か……言い得て妙だな」

「な、何を言ってるんですか……?」


 イグリオ様は私の抗議にも特に気にしている素振りを見せていない。


「言い得て妙だと言ったんだ。確かにお前は道具と捉えることができる」

「ふ、ふざけないでください!」

「いくら伯爵様でもマリーを道具扱いはまずいんじゃないですか?」

「はっ、子爵家如きが何を言うか」


 フィルザからの言葉も全く悪びれている様子を見せないイグリオ様だった。


「お前達二人は所詮は子爵家。私は上位貴族の伯爵だ。そこには天と地の差があるのだよ」

「……天と地ですか」

「その通り、マリーは私と別れたいのだろうが、そんなことは許さん。お前はずっと私の物だからな」

「な、なにを……絶対に別れてもらいます!」


 私の渾身の言葉だったけれど、イグリオ様は首を縦に振ることはなかった。


「いいや、駄目だ。マリー……お前の全ては私の物だ。幼馴染であるその男に協力してもらったのだろうが、踏んだり蹴ったりだったな。所詮は子爵令息を味方につけても無意味なんだよ。これが現実というものだ。お前も自分の力がこの程度であると理解しているのだろう?」


 イグリオ様からフィルザへの言葉だった。フィルザは俯いている。


「……確かに俺の力だけでは、どうしようもないかもしれない。イグリオ様とマリーの婚約を止めることは出来ないだろう」

「その通りだ。わかったのならすぐに帰るのだな。今ならば許してやらんこともないぞ?」

「……」


 すると、私達に付き添っていた従者が立ち上がり、イグリオ様を見据えた。顔はフードで覆われている。大丈夫なのかしら……?


「おい、無礼だぞ。お前はマリーとフィルザの付き添い……護衛だろ?」

「……」

「私に歯向かってただで済むと思っているのか? お前をめちゃくちゃにすることくらい余裕なんだぞ?」


 そう言うとイグリオ様が連れていた執事達が立ち上がった。従者は明らかに不利な状況だ。


「執事に命令してお前を組み伏せるくらい……簡単だからな?」

「随分と力任せな発言をしているじゃないか、イグリオ。おおよそ、伯爵の発言とは思えない。ただのならず者にしか見えないぞ」

「……えっ? い、今の声は……」


 イグリオ様の表情が変わった。私も驚いている。今の声は……まさか。


「久しぶりだな、イグリオ。まさかお前の本性がこんなものだとは……非常に嘆かわしいぞ」


 そこに立っていた従者のフードの下。イヴァン・ファーロス国王陛下の顔があったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」 と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。 攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】恋を忘れた伯爵は、恋を知らない灰かぶり令嬢を拾う

白雨 音
恋愛
男爵令嬢ロザリーンは、母を失って以降、愛を感じた事が無い。 父は人が変わったかの様に冷たくなり、何の前置きも無く再婚してしまった上に、 再婚相手とその娘たちは底意地が悪く、ロザリーンを召使として扱った。 義姉には縁談の打診が来たが、自分はデビュタントさえして貰えない… 疎外感や孤独に苛まれ、何の希望も見出せずにいた。 義姉の婚約パーティの日、ロザリーンは侍女として同行したが、家族の不興を買い、帰路にて置き去りにされてしまう。 パーティで知り合った少年ミゲルの父に助けられ、男爵家に送ると言われるが、 家族を恐れるロザリーンは、自分を彼の館で雇って欲しいと願い出た___  異世界恋愛:短めの長編(全24話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった

岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】 「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」  シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。  そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。  アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。  それだけではない。  アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。  だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。  そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。  なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

もう一度婚約したいのですか?……分かりました、ただし条件があります

香木あかり
恋愛
「なあララ、君こそが僕の理想だったんだ。僕とやり直そう」 「お断りします」 「君と僕こそ運命の糸で結ばれているんだ!だから……」 「それは気のせいです」 「僕と結婚すれば、君は何でも手に入るんだぞ!」 「結構でございます」 公爵令嬢のララは、他に好きな人が出来たからという理由で第二王子レナードに婚約破棄される。もともと嫌々婚約していたララは、喜んで受け入れた。 しかし一ヶ月もしないうちに、再び婚約を迫られることになる。 「僕が悪かった。もう他の女を理想だなんて言わない。だから、もう一度婚約してくれないか?愛しているんだ、ララ」 「もう一度婚約したいのですか?……分かりました、ただし条件があります」 アホな申し出に呆れるララだったが、あまりにもしつこいので、ある条件付きで受け入れることにした。 ※複数サイトで掲載中です

処理中です...