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「テレーズ、私と別れて貰おうか」


 これが貴族学園の教室内で言われた言葉だった。言った相手は私の婚約者であり、アドマンド王国の第6王子殿下であるビスタ様だ。ちなみにテレーズは私のことで、私は伯爵令嬢という立場になっている。


「どうしてですか? いきなり……婚約破棄?」

「そういうことだ。まあ、付いて行けない事態だろうが仕方ないことなんだ」


 まさか教室内でビスタに振られることになるとは思っていなかった。でも、悲しい気持ちにはならない。別に彼のことが好きというわけではないから。彼との婚約が決まったのは数年前のことだ。まだ私もビスタも幼かった時に許嫁という形で婚約したのだ。

 それから一緒の学園に通うようになり、登校も一緒だったけれどビスタのことを好きになることは出来なかった。なぜだろうって? それは彼の性格が好きではなかったからだ。


「テレーズの立場としては、王子である私との婚約破棄は悲しいことだろうが……分かってくれるな?」

「困りますね。マイウ家にとってもマイナスイメージが付いてしまいますし……」

「それは仕方のないことだろう。私という至高の存在と婚約関係にあったことを誇りに思って生きて行ってほしい」


 ビスタは自分の地位にこだわり過ぎているのだ。だから、この数年間、何度も何度も高圧的な態度を取られた。私のことを下に見る発言も多かったわね。自分との婚約を神に感謝しろだとか本当に色々言われたわ。

 正直に言ってしまえば、第6王子なんて王家からすれば大した存在ではない。一応は王子という肩書きの為に、周りは敬語を使うけれど。だからこそ、ビスタを調子づかせる結果になったのだと思う。


「どうして婚約破棄なんですか?」

「私は幼馴染のマリア・フォーミルと結婚したいからだ」


 彼の話は幼馴染と結婚するから別れるというものだった。マリアという人物は確か高位貴族の人のはずだけれど、この学園内の生徒でもあったはず。ビスタとは幼馴染だったのね。幼馴染という点では私もギリギリそれになるはずでは? それにしても……。


「マリア様のことが好きなんですか?」

「その通りだ。彼女とは生まれた時からの間柄でな。本当の愛情に気付いてしまったのさ」


 その後、とても長い二人の馴れ初めを聞かされてしまった。別に興味なんかなかったけれど。まあ、その馴れ初め話を聞く限り、マリアのことを愛しているのは本当みたいだから仕方ないのかもしれない。しっかりと手続きを踏んでくれて慰謝料を渡してくれるなら……あれ、でもそんな理由で婚約破棄なんてできるのかしら? 


「しかし、私は王家の人間だ。1度決まった婚約を破棄にすることは容易ではない」

「ですよね。じゃあ、どうするんです?」

「心苦しいことだが、お前には敵になってもらう」

「えっ?」


 なんかビスタから聞こえてはいけない言葉が聞こえたような……あれ? 敵になるって言った?


「テレーズ、どうしてお前はマリアを虐めていたんだ? ん?」

「は? なんですかいきなり……」


 なにこの問い詰めは……それにビスタの表情が明らかに変化している。私がマリアを虐めていた? 何のこと?


「テレーズ、これは決して許されることではないぞ。しばらく投獄させてもらおうか」


 ビスタが意味のわからないことを話している。それと同時に教室に何人かの兵士が入って来た。この人たちってビスタの護衛の人では……どうして急に?
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