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13話 偽の婚約 その2

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「しかし、カーリー伯爵は相変わらずというか。私達が本当に婚約するのだと思っていらっしゃるようだな」

「それはそうだと思うわ。以前から、グランのことは気に入っていたみたいだし。私がシングマ侯爵令息と婚約したこと自体が意外だったようだからね」

「へえ、そうなのか」


 実際にお父様から聞いた話ではないけれど、私とグランの仲はお父様だって昔から良く知っている。


「ジャン・カーリー伯爵は私にとっても父親みたいな存在だからな。フローラのお父上ではあるけど、そのくらいの親しみは持っているつもりだ」

「そうなんだ、ならその……とても言いにくいことではあるんだけどさ」

「フローラ……?」


 私達は現在、シングマ侯爵令息の訪問に備えている。お父様を味方に付けて偽の婚約の準備は万端といったところだった。こういう場面で言うべきことではないのかもしれないけれど、雰囲気的に問題はなさそうだったので言うことにした。

「この一件が終わったら、本当に婚約を考えたりとか……」

「なっ、フローラ……!?」


 想像はしていたけれど、やはりグランはとても慌てているようだった。しまった……言うべきじゃなかったかもしれない。

「う、ううん……! 今のなし! 忘れて……!」


 私も急に恥ずかしくなり、言葉の取り消しを行うけれど……なぜか彼に腕を掴まれてしまった。私はその瞬間、動きが止まった。


「いいや、忘れることは出来ないな」

「ぐ、グラン……?」

「君の言葉通り、この一件が解決したら……本当に婚約の話を進めようじゃないか。私は君が相手ならば大歓迎だし。いや、こういう言い方は良くないな……君じゃないと嫌だと答えていただろう」

「グラン……」


 グランの告白はとても情熱的だった。私は顔が赤くなるのを感じていたけれど、そんなことが些細に思うくらいに嬉しかった。恥ずかしさよりも嬉しさの方がはるかに勝っている感じだ。

「わかったわ、グラン。では、そのように致しましょう」

「よし、決まりだね。しかしそうなると……カルロス殿への対応として、偽の婚約を装う必要はないわけか」

「そういうことね」

「うわっ、フローラ!?」

「ふふふっ」


 私はグランの腕に自らの腕を絡ませ、体重を彼に預けた。グランは驚いていたけれど、しっかりと私を支えてくれる。この場面を見られでもしたら恋人以外の何ものにも映らないだろう。そのくらい普通の貴族同士では行わないことをやっているのだ。

 シングマ侯爵令息がいつ来ても、全く問題のない準備が整ったと言えるだろうか。なにせ本物の婚約になろうとしているのだから……。
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