10 / 15
10話 カルロス達との会話 その3
しおりを挟む
「とにかく、カルロス殿。あなたはもうフローラとは何の関係もないはずです。付き纏いにも近い行為は避けた方が無難かと思われますが? あなたの家にとってもね」
「グラン殿、伯爵令息の立場でよくそんなことが言えますな。なかなか勇気のある行動だと言えるでしょう」
「それは……」
自分は侯爵令息という立場だから、グランよりも上だと言っているようにしか見えない。シングマ侯爵令息ってこんな人だったっけ? グランは少し無言になってしまっていた。
「話を戻そうか、フローラ」
「は、話を戻す……? どういう意味ですか?」
「フローラ、私はとても悲しんでるんだよ。君がそんなに簡単に私のことを忘れてしまったことをね」
「いえ、忘れたというか……シングマ侯爵令息は、お隣のリディア様と婚約されましたよね?」
「シングマ侯爵令息……」
面倒臭い反応というのは、こういうことを言うのかもしれない。彼は明らかに、自分がカルロスと呼ばれないことを意識しているようだった。怒っているという程ではないかもしれないけれど、あまり良い気分でないことは確かなのだろう。
この反応はとても面倒かもしれない……だからといって「カルロス様」と呼ぶわけにもいかないし、グランに対しても申し訳ない気がしてしまうから。
「リディア嬢との婚約は、互いの国の仲を良くする為のもの……いわゆる国益を優先した、というものだ。その点に関しては、フローラにもちゃんと伝えているだろう?」
「それは聞いておりますが……」
「良かったよ。まあ、聡明な君のことだから、こんな短期間の間に忘れるなんて思ってはいなかったがね」
シングマ侯爵令息はとても満足気な表情をしている。今の会話を聞いているはずのリディア嬢も、特に嫌な顔をしている様子はない。彼女からしてみれば、シングマ侯爵令息がこういう態度を取ることは、想定内ということなのかしら?
私だったらすごく嫌だけど、リディア嬢とシングマ侯爵令息とは完璧な政略結婚なのだから、恋愛模様に関しては寛容なのかもしれない。
それにしても、シングマ侯爵令息の言葉は異常な気がするけれど……出来れば、リディア嬢に制止してもらいたい程だ。
「いいかい、フローラ」
「は、はい……なんでしょうか?」
「君は私のところへ戻って来るべきなんだよ」
「は?」
私は思わず素の声が出てしまった。こういうパーティーでの会話の場合、ある程度声色を作るものだけれど、それを忘れてしまったのだ。
「本来なら私ではなく、君の方からこういう話を持ち掛けてくるのが普通なのに。これではまるで、私が未練がましい男みたいに映るじゃないか。そういう風に映るのは女性の役目……伯爵令嬢であるフローラの役目だろ?」
「ええ……」
シングマ侯爵令息は何を言っているのだろうか……彼は私が引いていることに気付いていないのか。
「本当にそうですわね、カルロス様。ここはしっかりとおっしゃった方がよろしいのではなくて? グラン様の前で言うのは少々、失礼に当たるかもしれませんが」
「なに心配はいらないよ。私の方が地位は高いのだから。フローラ」
「なんでしょうか……?」
引いてしまっている私に、シングマ侯爵令息は追い打ちを掛けるようだ。もうあまり聞きたくはないんだけれど……こんな人を好きになっていたのかという幻滅が凄いし。
「私とヨリを戻して欲しいんだ。もう君を悲しませることはしないからさ、約束するよ」
ほらやっぱり幻滅が凄い……シングマ侯爵令息は、さっきまでの話を何も聞いていなかったわけね。
何から話せばいいのかすら分からなくなってしまう……はあ、と大きく溜息が漏れてしまっていた。
「グラン殿、伯爵令息の立場でよくそんなことが言えますな。なかなか勇気のある行動だと言えるでしょう」
「それは……」
自分は侯爵令息という立場だから、グランよりも上だと言っているようにしか見えない。シングマ侯爵令息ってこんな人だったっけ? グランは少し無言になってしまっていた。
「話を戻そうか、フローラ」
「は、話を戻す……? どういう意味ですか?」
「フローラ、私はとても悲しんでるんだよ。君がそんなに簡単に私のことを忘れてしまったことをね」
「いえ、忘れたというか……シングマ侯爵令息は、お隣のリディア様と婚約されましたよね?」
「シングマ侯爵令息……」
面倒臭い反応というのは、こういうことを言うのかもしれない。彼は明らかに、自分がカルロスと呼ばれないことを意識しているようだった。怒っているという程ではないかもしれないけれど、あまり良い気分でないことは確かなのだろう。
この反応はとても面倒かもしれない……だからといって「カルロス様」と呼ぶわけにもいかないし、グランに対しても申し訳ない気がしてしまうから。
「リディア嬢との婚約は、互いの国の仲を良くする為のもの……いわゆる国益を優先した、というものだ。その点に関しては、フローラにもちゃんと伝えているだろう?」
「それは聞いておりますが……」
「良かったよ。まあ、聡明な君のことだから、こんな短期間の間に忘れるなんて思ってはいなかったがね」
シングマ侯爵令息はとても満足気な表情をしている。今の会話を聞いているはずのリディア嬢も、特に嫌な顔をしている様子はない。彼女からしてみれば、シングマ侯爵令息がこういう態度を取ることは、想定内ということなのかしら?
私だったらすごく嫌だけど、リディア嬢とシングマ侯爵令息とは完璧な政略結婚なのだから、恋愛模様に関しては寛容なのかもしれない。
それにしても、シングマ侯爵令息の言葉は異常な気がするけれど……出来れば、リディア嬢に制止してもらいたい程だ。
「いいかい、フローラ」
「は、はい……なんでしょうか?」
「君は私のところへ戻って来るべきなんだよ」
「は?」
私は思わず素の声が出てしまった。こういうパーティーでの会話の場合、ある程度声色を作るものだけれど、それを忘れてしまったのだ。
「本来なら私ではなく、君の方からこういう話を持ち掛けてくるのが普通なのに。これではまるで、私が未練がましい男みたいに映るじゃないか。そういう風に映るのは女性の役目……伯爵令嬢であるフローラの役目だろ?」
「ええ……」
シングマ侯爵令息は何を言っているのだろうか……彼は私が引いていることに気付いていないのか。
「本当にそうですわね、カルロス様。ここはしっかりとおっしゃった方がよろしいのではなくて? グラン様の前で言うのは少々、失礼に当たるかもしれませんが」
「なに心配はいらないよ。私の方が地位は高いのだから。フローラ」
「なんでしょうか……?」
引いてしまっている私に、シングマ侯爵令息は追い打ちを掛けるようだ。もうあまり聞きたくはないんだけれど……こんな人を好きになっていたのかという幻滅が凄いし。
「私とヨリを戻して欲しいんだ。もう君を悲しませることはしないからさ、約束するよ」
ほらやっぱり幻滅が凄い……シングマ侯爵令息は、さっきまでの話を何も聞いていなかったわけね。
何から話せばいいのかすら分からなくなってしまう……はあ、と大きく溜息が漏れてしまっていた。
2
お気に入りに追加
2,298
あなたにおすすめの小説
【完結】私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました
冬月光輝
恋愛
キャメルン侯爵家の長女シャルロットは政治的な戦略としてラースアクト王国の第二王子ウォルフと婚約したが、ウォルフ王子は政略結婚を嫌ってか婚約者である彼女に冷淡な態度で接し続けた。
家のためにも婚約破棄されるわけにはいかないので、何とか耐えるシャルロット。
しかし、あまりにも冷たく扱われるので婚約者と会うことに半ばうんざりしていた。
ある日のことウォルフが隠れて必死に呪術の類のようなものを使おうとしている姿を偶然見てしまう。
調べてみるとそれは「魅了魔法」というもので、かけられた者が術者に惚れてしまうという効果があるとのことだった。
日頃からの鬱憤が溜まっていたシャルロットはちょっとした復讐も兼ねて面白半分で魔法にかかったフリをする。
すると普段は冷淡だった王子がびっくりするほど優しくなって――。
「君はどうしてこんなに可憐で美しいのかい?」
『いやいや、どうしていきなりそうなるのですか? 正直に言って気味が悪いです(心の声)』
そのあまりの豹変に気持ちが追いつかないシャルロットは取り敢えずちょっとした仕返しをすることにした。
これは、素直になれない王子と令嬢のちょっと面倒なラブコメディ。
「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です
朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。
ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。
「私がお助けしましょう!」
レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。
予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
婚約者は私より親友を選ぶようです。親友の身代わりに精霊王の生贄になった私は幸せになり、国は滅ぶようです。
亜綺羅もも
恋愛
ルビア・エクスレーンには親友のレイ・フォルグスがいた。
彼女は精霊王と呼ばれる者の生贄に選ばれる。
その話を聞いたルビアは、婚約者であるラース・ボルタージュ王子に相談を持ち掛けた。
生贄の事に関してはどうしようもないと答えるラース。
だがそれから一月ほど経った頃のこと。
突然ラースに呼び出されるルビア。
なんとラースは、レイを妃にすることを決断し、ルビアに婚約破棄を言い渡す。
ルビアはレイの身代わりに、精霊王の生贄とされてしまう。
ルビアは精霊王であるイクス・ストウィックのもとへと行き、彼のもとで死ぬことを覚悟する。
だがそんな覚悟に意味はなく、イクスとの幸せな日々が待っていたのであった。
そして精霊たちの怒りを買ったラースたちの運命は……
【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~
なか
恋愛
「ごめん、待たせた」
––––死んだと聞いていた彼が、私にそう告げる。
その日を境に、私の人生は変わった。
私を虐げていた人達が消えて……彼が新たな道を示してくれたから。
◇◇◇
イベルトス伯爵家令嬢であるラシェルは、六歳の頃に光の魔力を持つ事が発覚した。
帝国の皇帝はいずれ彼女に皇族の子供を産ませるために、婚約者を決める。
相手は九つも歳の離れた皇子––クロヴィス。
彼はラシェルが家族に虐げられている事実を知り、匿うために傍に置く事を受け入れた。
だが彼自身も皇帝の御子でありながら、冷遇に近い扱いを受けていたのだ。
孤独同士の二人は、互いに支え合って月日を過ごす。
しかし、ラシェルが十歳の頃にクロヴィスは隣国との戦争を止めるため、皇子の立場でありながら戦へ向かう。
「必ず帰ってくる」と言っていたが。
それから五年……彼は帰ってこなかった。
クロヴィスが居ない五年の月日、ラシェルは虐げられていた。
待ち続け、耐えていた彼女の元に……死んだはずの彼が現れるまで––
◇◇◇◇
4話からお話が好転していきます!
設定ゆるめです。
読んでくださると、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる