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4話 違和感 その1
しおりを挟む「ああ、本当だ。カルロス・シングマ侯爵令息だな」
グランも同じくカルロス様の存在に気付いた。向こうはまだ、こちらには気付いていないかな?
「婚約者なのに、一緒に参加したわけじゃないのか?」
「グラン……ええと、実は……」
ここまで来たら話をしないわけにはいかない。あんまり人に言える内容ではないけれど仕方ない。
「実は私とカルロス様は別れたのよ。婚約解消……という形でね」
「なんと……そうだったのか」
グランとしても意外な言葉が返って来たと感じたのか、驚きを隠せない様子だった。言っている私でさえ、まだまだ完全に割り切れないのだから。でも、カルロス様のことは忘れないといけない……そうでなければ、お互いに前へ進めないわ。
「婚約解消の理由は聞いても大丈夫なのかい?」
「えっ? それはまあ、大丈夫だけれど」
婚約解消の件を言ったのだし、その理由について話しても特に問題はないと思う。私としてもグランに話した方が気が楽になると思うし。
「それなら聞いても良いかな?」
「ええ、わかったわ。理由はカルロス様が隣国のスー侯爵家の令嬢と婚約することになったからよ」
「なるほど……別の貴族令嬢、しかも他国の人物との婚約か。そうなると、国益を優先したことになるのかな」
流石はグランね、察しが早いわ。私が言おうとしていたことを先回りして当てて見せていた。
「そういうことよ……私達はお互いに別々の道を歩むことで合意したっていうわけ」
だからこそ、カルロス様……いえ、シングマ侯爵令息のことはすぐに忘れる必要がある。過去に囚われていても良いことなんて、1つもないのだしね。そんな私の話をグランは神妙な顔で聞いてくれていた。
「そういうことか。それならば、カルロス殿への挨拶は控えた方が良いだろうな」
「そうね。私は以前はカルロス様と呼んでいたけれど、これからはシングマ侯爵令息とお呼びしようと思うの」
「ああ、それは良いと思うよ。別々の道を進むと決めた男女なのだし、一線を引くというのはとても重要だろうからね」
「ええ、やっぱりグランもそう思うわよね?」
「当然だよ。これはどちらが悪いという話でもないだろう。カルロス殿も君を振るのは苦渋の決断だっただろうし。国益を優先しなければならない時がある……上位貴族の宿命みたいなものだな」
上位貴族の宿命か……確かにそうなのかもしれない。シングマ侯爵令息は私との婚約解消を、とても残念に思っているようだったしね。そんな彼に報いる為には、私もへこたれずに前を見て進むことが非常に大切だと言える。
よし、頑張ろう!
「ところで、フローラ……不思議に思うんだが……」
「どうしたの、グラン?」
「いや、カルロス殿がこちらを睨んでいないか……?」
「えっ?」
私達の存在に気付いたのかしら? 確かにこちらを見ているようだけれど……グランの言うように睨んでいる。いえ、実際に睨んでいるのかは不明だけれど、怒っているような顔をしているのは事実だった。
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