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6話
しおりを挟む「こ、これは……レグリス王子殿下。ようこそお出でくださいました……」
「ああ、ジスパ殿。急に来てしまったことについては謝ろう」
「いえ、とんでもございません。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「そうだったな。あまり無駄話をするのもなんだし、単刀直入に言おうか。随分なことを仕出かしたな」
「ど、どういう意味ですか……?」
「わからないのか? 本当に?」
私は現在、レグリス様に連れられてモース伯爵家の屋敷に来ている。つまりは自分の屋敷だ。追い出されたけれど……私は変装して護衛に紛れているので、お父様は気付いていない。
「自らの血を分けた娘への虐待の数々……主に精神的虐待だろうが、それは決して許されることではないぞ」
「な、なぜ、そんなことを……」
「心当たりはあるようだな、ジスパ殿。残念だ」
「ユリアは……今、どうしているのですか?」
お父様は観念したのか、私の名前を出した。とても隠せることではないし、王子殿下相手に隠し事をすれば、不敬罪などの罪に問われるだろうからだ。
「ここに来ているさ。ユリア」
「はい、レグリス様」
「ゆ、ユリア……!」
私は変装を解いてお父様に顔を出した。お父様は意外なことだったのか、とても驚いているようだ。
「彼女は今王宮で保護させて貰っている。あの日が雨でなければ私はユリアを救えなかったかもしれない。今、彼女がここに居るのは運が良いことなんだ」
「王子殿下が……ユリアを救ったのですか?」
「ああ、お前が不必要としてユリアを追放したのは知っている。それだけではなく、長年に及ぶ虐待の数々もな」
「虐待……そんなことは。あれは私なりの教育でして……」
「馬鹿なことを言うな、ジスパ殿。部屋に軟禁している状態が教育なわけがあるか。それは立派な虐待……貴族としての責務を放棄しているとしか言いようがない」
「お、王子殿下……!」
「それだけでも十分な罪だが、追放はさらに許せんな。下手をすればユリアは死んでいたかもしれない。殺人罪と同じだと思え」
「殺人罪……? そんな! 私はただ娘の反省を促す為に追い出しただけです!」
ここに来てお父様の言い訳が酷かった。あの追放は明らかに私の命など無視したものだ。そういう言葉も浴びせられたし、他国にでも行けと言われている。反省を促す追放などでは決してなかった。それらは全て事前にレグリス様に伝えてある。
言い逃れできるわけがない。
「モース伯爵家には王家から使者を派遣し、これからしっかりと調査させていただく。その上でお前は……いや、お前達家族は裁判を受けることになるだろう」
「さ、裁判ですか……? そんな……!」
「貴族階級の剥奪は当然だと思っておけ。ユリアは私が王宮で育てる。もうお前達と関わることはないだろう。良かったじゃないか、それが狙いだったのだろう?」
「ゆ、ユリア……そんな……待ってくれ!」
レグリス王子殿下が味方についてくれたことで、私の立場はお父様と逆転している。他の家族含めて救済を申し出ることも出来るとは思うけど……。
「お父様、不肖な娘ですが、今まで育てていただいてありがとうございました。もう二度とお父様の前には現れませんのでご安心ください。さようなら」
「ユリア! 助けてくれ! 私が悪かった……もう二度とお前を蔑ろにしたりはしない! 約束する!」
自分の身が危険になることが分かったのか、お父様は土下座を始めた。でもそんなことで私の心が満たされるわけはない。決して許すことなどできない。
「お父様達はしっかりと法の下に罰を受けてください。その結果がどうなろうと……それが真実だと思います」
「ユリア……」
私からの精一杯の反抗だった。私はもうモース伯爵家の人間ではないのだから、情けを掛ける必要はない。お父様やお兄様達に会うことも今後はあり得ないだろうか。決してお父様と視線を交錯させることはなかった。
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