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「さあ、遠慮なく入ってくれ」
「ええと……は、はい」
私は王宮に招かれた。とても信じられないことだけれど事実だ。追い出された時の荷物はメイドの方が持ってくれている。クリアランス王国の専属メイドかと思われる。おそらくはどこかの貴族令嬢だろうか。私よりも位が高い家系かもしれない。まあ、今の私は貴族ではないんだけれど……。
レグリス様は私を綺麗な部屋に案内してくれた。この部屋はどういうところだろうか?
「レグリス様。このお部屋は……」
「とりあえず、ユリアが過ごす部屋だと思ってくれていい」
「えっ!? で、ですが……!」
いきなり王宮に連れて来られて、ただでさえ混乱しているのに、より混乱する事態になってしまった。つまりは私はこの部屋を自由に使っていいってこと? そんなことは……ないと思ったけれど、レグリス様の表情を見る限り事実としてありそうだ。
「わ、私なんかをこんな良いお部屋に泊めてもらうなんて……そんなっ!」
「遠慮しなくていいさ。これでも第二王子という肩書きがあるんだ。ユリアを匿うくらいは出来るさ」
「で、でも……そんな……」
「もちろん、タダというわけじゃないよ」
「そ、そうですよね……」
私は少し安心した。タダほど怖いものはないからだ。いくら、レグリス様の言葉だとしても信用できないことはある。
「ユリアには貴族として当然の教育を受けてもらう。今の君の習熟度合い次第ではあるが……まあ、2~3年はかかると思っていてくれ」
「え、ええ……!? 教育ですか……?」
「ああ。君はまともな幼少期を送っていないようだからな。知らない仲ではないんだ、その辺りのサポートはさせて欲しい」
「レグリス様……ですが」
とてもありがたい申し出ではあった。貴族教育をまともに受けられるなんて信じられないくらいだし。少し前まではどのように生活していくかを悩んでいたのに……2~3年はまともな教育を受けられるなんて夢みたいだ。
「どうかしたかい? ユリア」
「レグリス様……私はもう、モース伯爵家の人間ではありません。お金もほとんどありませんので……レグリス様のご恩にお返しすることが出来ないのですが……」
「その辺りは心配しなくて大丈夫だ。君が立派に成長してくれればそれが恩返しになるしね」
「さ、左様でございますか……」
「ああ。しっかりと教育を受けるのが恩返しだと思ってくれ。クリアランス王家としても、立派な貴族が台頭するのは願ったりだからね」
レグリス様はどうやら本気のようだ。本気で私に教育を受けさせてくれる気でいる。だとすると、それを否定してしまうのは逆に失礼に値した。
「ありがとうございます、レグリス様。必ずご期待に応える成果を出してみせます」
「ああ。だが、あまり気負い過ぎないようにな? 自分の身体を第一に考えてくれ」
「畏まりました」
なんだか信じられない光景だけれど……これもまた現実なのだ。人生、一寸先は闇とは言うけれど……一寸先は希望であることもあるらしい。
「ええと……は、はい」
私は王宮に招かれた。とても信じられないことだけれど事実だ。追い出された時の荷物はメイドの方が持ってくれている。クリアランス王国の専属メイドかと思われる。おそらくはどこかの貴族令嬢だろうか。私よりも位が高い家系かもしれない。まあ、今の私は貴族ではないんだけれど……。
レグリス様は私を綺麗な部屋に案内してくれた。この部屋はどういうところだろうか?
「レグリス様。このお部屋は……」
「とりあえず、ユリアが過ごす部屋だと思ってくれていい」
「えっ!? で、ですが……!」
いきなり王宮に連れて来られて、ただでさえ混乱しているのに、より混乱する事態になってしまった。つまりは私はこの部屋を自由に使っていいってこと? そんなことは……ないと思ったけれど、レグリス様の表情を見る限り事実としてありそうだ。
「わ、私なんかをこんな良いお部屋に泊めてもらうなんて……そんなっ!」
「遠慮しなくていいさ。これでも第二王子という肩書きがあるんだ。ユリアを匿うくらいは出来るさ」
「で、でも……そんな……」
「もちろん、タダというわけじゃないよ」
「そ、そうですよね……」
私は少し安心した。タダほど怖いものはないからだ。いくら、レグリス様の言葉だとしても信用できないことはある。
「ユリアには貴族として当然の教育を受けてもらう。今の君の習熟度合い次第ではあるが……まあ、2~3年はかかると思っていてくれ」
「え、ええ……!? 教育ですか……?」
「ああ。君はまともな幼少期を送っていないようだからな。知らない仲ではないんだ、その辺りのサポートはさせて欲しい」
「レグリス様……ですが」
とてもありがたい申し出ではあった。貴族教育をまともに受けられるなんて信じられないくらいだし。少し前まではどのように生活していくかを悩んでいたのに……2~3年はまともな教育を受けられるなんて夢みたいだ。
「どうかしたかい? ユリア」
「レグリス様……私はもう、モース伯爵家の人間ではありません。お金もほとんどありませんので……レグリス様のご恩にお返しすることが出来ないのですが……」
「その辺りは心配しなくて大丈夫だ。君が立派に成長してくれればそれが恩返しになるしね」
「さ、左様でございますか……」
「ああ。しっかりと教育を受けるのが恩返しだと思ってくれ。クリアランス王家としても、立派な貴族が台頭するのは願ったりだからね」
レグリス様はどうやら本気のようだ。本気で私に教育を受けさせてくれる気でいる。だとすると、それを否定してしまうのは逆に失礼に値した。
「ありがとうございます、レグリス様。必ずご期待に応える成果を出してみせます」
「ああ。だが、あまり気負い過ぎないようにな? 自分の身体を第一に考えてくれ」
「畏まりました」
なんだか信じられない光景だけれど……これもまた現実なのだ。人生、一寸先は闇とは言うけれど……一寸先は希望であることもあるらしい。
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