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1話 婚約破棄しない婚約者

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「ジオス様……私はもう限界でございます。この数カ月間、どんな気持ちでいたことか……」

「一体、どうしたと言うのだ、レオナよ。とりあえず落ち着くのだ」


 目の前に居る人物は私の婚約者であるジオス・クレイブン公爵。私が18歳に対して、彼は23歳と比較的若い。お父様が早くに引退した為に、若くして公爵になったというわけだ。ただ、その年齢から行動が軽く、二枚目な外見と権力の高さを持ち味に浮気を繰り返していた。

 まだ、婚約関係でしかない私にも身体の関係を要求して来たりと、到底、我慢できるものではなかった。

 だから私はこうして、婚約破棄をお願いしているのだ。


「婚約破棄をしてください、お願い致します!」

「おいおい、何を言いだすのだ……レオナ。婚約破棄だと……?」

「その通りです、婚約破棄です。してくれますよね?」

「一体、何が不満だと言うのだ?」


 彼はしらばってくれているのか、気付かない不利をしているのか……どちらかは分からないけれど、私にとってはどうでも良かった。彼は下ネタも酷く、到底、公爵様と呼べる品格ではない。その辺りもこの数カ月で分かったことだった。とにかく私はもう、彼との生活は考えられないのだ……。


「浮気癖やセクハラ紛いの態度、下ネタなど……言い出せばキリがありません! ご自分の胸に聞いてください!」

「な、なんだと……?」


 私の言葉に意外と狼狽えている様子のジオス様。本当に心当たりがなかったの?


「お前は私の妻になるのだから、セクハラは普通だろうが! 何を言っているのだ!」

「婚約段階にも関わらず、処女を寄越せと言って来たのは誰ですか!? 信じられない行為です!」

「うっ……それは……!」


 完全に私の言い分の方が正論だ。十分に婚約破棄まで持って行けるはず……! そう考えていたけれど……。


「浮気も決して許されることではありません! 婚約破棄をして慰謝料もしっかりと払っていただきます!」

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」


 まるで火山でも噴火したような怒号が、部屋中に響き渡った。ジオス様の叫び声だ。


「誰が婚約破棄などするものか! お前は私に恥をかかせるつもりか! この、クレイブン公爵家の当主に!」

「し、しかし……それは自業自得で……」

「五月蠅い! とにかく、婚約破棄など絶対にしないからな! お前は私の妻になるのだ! そして、クレイブン家の跡取りを生め!」

「そ、そんな……!」


 絶対に嫌だった……こんな人と一緒になって子作りをするなんて、絶対にゴメンだ。私は首を左右に振った。しかし……。

「お前に選択肢などあるわけがないだろう? 私は公爵なのだぞ? 逆らえばどうなるか、分かっているのだろうな」

「じ、ジオス様……!」


 これは脅しではないだろうか? 信じられない……ロクス王国の公爵ともあろう方が、このような真似をするなんて。権力の差が大きい……この時の私は悔し涙を流す以外には何も出来なかったのだ……。
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