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「メローナ、お前との婚約は破棄だ。私は新しい女性と一緒になるのでな」

「そ、そんな……トワイキン様!」

「お前の反論など聞くつもりはないので、すぐに出て行け。命令だ」


 私は婚約者である伯爵、トワイキン・ホース様に婚約破棄をされ、屋敷から追い出されてしまった。こんなことが現実に起こるなんて。本の中でしか起きえないことだと思っていたわ……。


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 私は婚約破棄の事情をお父様に報告。お父様は怒りを露わにしてくださったけれど、子爵であるお父様ではどうしようも出来ないことが判明してしまった。お父様が直接、トワイキン様に掛け合っても私の婚約が取り消されることはなかった。

 どうやらトワイキン様は15歳の伯爵令嬢と婚約し、結婚を考えているみたい。明らかに年齢を考慮しての判断なのでしょうね。私も19歳と決して歳はいっていないのだけれど。15歳の少女も4年後には19歳になると分かっての行動なのかしら。

 どのみち、私は深い悲しみを背負ってしまったのだ。


「メローナ、久しぶりじゃないか。元気にしていたかい?」

「あ、あなた様は……グレイ・アッシュベル侯爵令息……!」


 婚約破棄が決まってしばらくした後、幼馴染のグレイが私を訪ねて来た。久しぶりの再会だった……何年振りになるかしら? 背も私よりも大分、高くなっている。以前は同じくらいの背丈だったはずだけれど……時の経つのは早いものね。


「おいおい、なんだいその口調は。なんだか緊張しているみたいだけれど……こっちまで調子が狂うじゃないか。普通に話してくれないか?」

「で、でも……」

 グレイは侯爵令息で私は子爵令嬢でしかない。この差は非常に大きいと言える。それだけに、昔のように普通に話すことは難しかった。あの頃は身分の差なんて気にしていなかったからお互いに。

「地位の差を気にしているなら、俺が普通に話せと命令すれば、普通に話してくれるのかい?」

 グレイは何としても普通に話して欲しいようだ。ここまで言われては仕方ないわね。


「わかったわよ、グレイ。貴方には勝てないわね」

「ははは、ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ」


 私達の間で笑いが込み上げて来た。ようやく、以前の通りの幼馴染に戻ったといったところかしら?


「でも、どうしたの急に屋敷を訪ねて来たりして。お父様もビックリしていたわよ?」

「ああ、特に急用だったわけではないんだけどね。少し噂を聞いたものだから……その真相を確かめたくてね」

「その噂というのは?」

「ああ、何と言えばいいのか。ちょっと、聞きづらいことではあるんだけど、メローナ。トワイキン・ホース伯爵と別れたというのは本当なのかい?」


 やはりそのことだったか。分かってはいたけれど、グレイの元にも届いていたのね。まあ、嘘を吐いても仕方ない。私は素直に頷くことにした。
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