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 私の名前はエンリ・エネット。最近、ビルデ・フォース侯爵様と婚約することになった。家を挙げてお祝いムードになっていたのだけれど……。

 私は現在、ビルデ様の部屋に呼び出されている。


「さて、エンリよ。ベッドに横になるんだ。今日はたっぷりと可愛がってやろう」

「び、ビルデ様……? それって……」


 結婚前の行為は禁止されているはずだ。誰の子か分からなくなる可能性があるから。特に侯爵であるビルデ様なら絶対に理解しているはず。

「私達はまだ結婚をしていませんよ?」

「そんなことは些細なことだ。お前は私の慰み者になる為に婚約したも同然なのだからな」


 ベッドの周りには怪しい道具が散らばっていた。誰かほかにも犠牲になった人がいるのだろうか。それよりも慰み者って……一体、どういうこと?

「ビルデ様は私の身体だけを望まれているのですか?」

「当たり前だ。でなければ、誰が伯爵令嬢と婚約などするものか」


 伯爵令嬢はそこそこの地位ではあるけれど、侯爵様には及ばない。でも、まさか身体だけで婚約を決めるなんて。


「分かっているんだろう? さあ、早く私のものになってもらおうか」

「い、嫌です! そんなの! 酷過ぎます、ビルデ様!」

「なんだと!」


 ビルデ様の大声が部屋中に響き渡った。おそらく、廊下にも聞こえているはずだ。


「身体を捧げないというならば、お前との婚約など破棄だ! 今すぐに荷物を纏めてこの屋敷から出て行け! たわけ者が!」

「び、ビルデ様……!? そんな……!」


 その後、護衛を呼んだビルデ様……私を廊下に連れ出すと、勢いよくドアを閉めたのだった。まさか、こんなことが起こるなんて……とても信じられない。私は夢でも見ているのだろうか?



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「ビルデ様は大変お怒りでございました。エンリ様……申し訳ございませんが、我々の力ではどうすることもできません……」

「そうですか……」


 私を一応は宥めてくれた護衛の人達だったけれど、やはりビルデ様の機嫌を戻すことは出来ないようだった。

「ビルデ様のベッドの近くにあった奇妙な道具は……」

「あれで女性相手に楽しんでいるのです。ビルデ様の本性と言えるでしょうか……」


 とても信じられないことだった。外から見るビルデ様の印象とはまったく違うのだから。彼は他の貴族からも一目置かれているし、信頼もされているはずだ。私は彼の本性を垣間見てしまったようだ。


「私は自分の屋敷に戻ります……こんなところにはもう居られません」

「畏まりました、それではお送り致します」

「ありがとうございます」


 私は護衛の人に連れられて、馬車で自分の屋敷へと戻った。まさか、こんな形で婚約破棄が成立してしまうなんて……お父様たちになんて言えばいいだろうか。
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