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25話
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「クラレンス様、本当にボイド様は……公爵ではなくなったのですか?」
「そうだな、彼の罰はそのように決定したようだ」
ソアラ姉さまにボイド様の事実を聞いた後、私はクラレンス様と会っていた。彼が私の屋敷に来てくれている。公爵剥奪の事実確認と……私の言った冗談で、彼が酷い目に遭っていないかを確認するために。外観上は特に変化がないようで安心だった。
「カーティス家の権力の高さを利用して好き勝手行っていたので自業自得ではあるが……彼も災難だったな。ソアラ嬢を敵に回したのが最大の敗因だろう」
クラレンス様もボイド・カーティス様の罰にはソアラ姉さまが関わっていることを、認めているようだった。う~む、ソアラ姉さま恐るべし……ってところね。
「それから、クラレンス様。ソアラ姉さまから何かされませんでしたか!?」
「ど、どしたんだ? いきなり……」
クラレンス様は驚いている様子だったけれど、私としてはむしろ、そっちの方が気になっていた。
「ええとですね、実はその……」
かなり恥ずかしかったけれど、私はクラレンス様にソアラ姉さまに行った冗談の内容を話すことにした。
-------------------------
「なんと……あのソアラ嬢に、私と寝たというネタを披露したというのか……?」
「はい、申し訳ありませんでした……姉さまに一泡吹かせてみたくなったのです」
一泡吹かせてみたい、というよりは驚いた姿を見たくなってしまったと言った方が正しいけれど。一応、それは成功したけれど、一瞬だった気がする。
「う、うむ……それはいいんだが、もう少し内容を考えた方が良かったんじゃないのか?」
「まったくその通りでございます……」
ソアラ姉さまへの冗談は危険を伴う……それは十分に以前から分かっていたはずなのに。本当に失態だった、よりにもよって一番ソアラ姉さまが反応しそうな冗談を言ってしまったのだから。
「ソアラ嬢からは特に何も言われたり、聞かれたりはしていないさ。特に彼女の態度が変わったという話も聞かないな」
「そ、そうですか。それなら良いのですが」
「いや、そうでもないと思うぞ」
「クラレンス様?」
あれ? 気のせいかしら? クラレンス様の表情が変わっているような……。
「君との婚前交渉……確かに我慢出来ないとう時はある」
「く、クラレンス様……?」
「私も男だからな。愛する女性と二人きりになると、どうしてもそんな感情は生まれてしまうさ」
そう言いながら、彼は私の身体を抱いた。婚約しているのだから、これくらいは普通のことだけど、状況が状況だけにドキドキしてしまう。
「君がそんな話を私にするから、本気で襲ってしまいそうになるじゃないか」
「クラレンス様……す、少しくらいでしたら、フライングをしても良いと思いますけど……」
「レミュラ……」
何を言ってるんだろう、私は……本来はあまり好まれることではないけれど、ここまでクラレンス様の近くに居ると理性が飛んでしまいそうになる。このまま幸せなキスを私達は交わした。そして……そのまま、私はクラレンス様と隣の部屋のベッドへと向かうことには……ならなかった。
「おほほほほ、仲睦まじいお二人の邪魔をして申し訳ありません」
「ソアラ嬢……」
「そ、ソアラ姉さま……!」
私達がキスをしていた部屋に、いつの間にかソアラ姉さまが立っていたのだ。音もさせずに部屋へと侵入したみたいだ。
「今日は特別に私が二人分のコーヒーと軽食を用意いたしました。それでは、ゆっくりとお昼をご堪能くださいませ。おほほほほほっ」
ソアラ姉さまはメイドのような振る舞いを見せ、食事をテーブルにセットしている。素晴らしいお手並みだけれど、私達はそれどころではなかった。明らかにソアラ姉さまの瞳は「分かっているわね?」と釘を刺しているように見えたから……今はキスまではOKということか。
「ソアラ嬢、軽食とコーヒーの用意、感謝する」
「いえいえ。とんでもございませんわ、クラレンス王子殿下。それでは、レミュラのことをお願いしますわね?」
「ああ、任せておいてくれ」
ソアラ姉さまはそこまで言うと、笑顔を絶やさずに部屋から出て行った。なんだか周囲は、嵐が過ぎ去った後のような静寂に包まれている。
「あ、ははははは……なんだか、釘を刺されちゃいましたね……」
「ははは、確かにそうだな。彼女は本当にレミュラのことを大切に思っているんだろうね」
「そうかもしれないです」
ソアラ姉さまは私を心配してくれている、か。間違いが起きても大きな問題にならない可能性は高いけれど、それでも噂が広まってしまうと、私への印象が悪くなる。そういうのを懸念してくれているのかもしれない。
「さて、せっかくだしソアラ嬢が出してくれた食事をいただくとしようか。なんだか、良い雰囲気が一気に消えてしまったな」
「ふふ、そうですね」
先ほどまでの間違いが起きかねない雰囲気は息をひそめ、現在は爽やかな風が窓から流れ込んで来ている。その風に当たりながら私は悟った。本当のクラレンス様とのベッドインは、もう少し先になりそうだと。
私達が本当に結ばれる日まで……出来るだけソアラ姉さまの監視には遭わないように生きて行こうと思う。
おしまい
「そうだな、彼の罰はそのように決定したようだ」
ソアラ姉さまにボイド様の事実を聞いた後、私はクラレンス様と会っていた。彼が私の屋敷に来てくれている。公爵剥奪の事実確認と……私の言った冗談で、彼が酷い目に遭っていないかを確認するために。外観上は特に変化がないようで安心だった。
「カーティス家の権力の高さを利用して好き勝手行っていたので自業自得ではあるが……彼も災難だったな。ソアラ嬢を敵に回したのが最大の敗因だろう」
クラレンス様もボイド・カーティス様の罰にはソアラ姉さまが関わっていることを、認めているようだった。う~む、ソアラ姉さま恐るべし……ってところね。
「それから、クラレンス様。ソアラ姉さまから何かされませんでしたか!?」
「ど、どしたんだ? いきなり……」
クラレンス様は驚いている様子だったけれど、私としてはむしろ、そっちの方が気になっていた。
「ええとですね、実はその……」
かなり恥ずかしかったけれど、私はクラレンス様にソアラ姉さまに行った冗談の内容を話すことにした。
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「なんと……あのソアラ嬢に、私と寝たというネタを披露したというのか……?」
「はい、申し訳ありませんでした……姉さまに一泡吹かせてみたくなったのです」
一泡吹かせてみたい、というよりは驚いた姿を見たくなってしまったと言った方が正しいけれど。一応、それは成功したけれど、一瞬だった気がする。
「う、うむ……それはいいんだが、もう少し内容を考えた方が良かったんじゃないのか?」
「まったくその通りでございます……」
ソアラ姉さまへの冗談は危険を伴う……それは十分に以前から分かっていたはずなのに。本当に失態だった、よりにもよって一番ソアラ姉さまが反応しそうな冗談を言ってしまったのだから。
「ソアラ嬢からは特に何も言われたり、聞かれたりはしていないさ。特に彼女の態度が変わったという話も聞かないな」
「そ、そうですか。それなら良いのですが」
「いや、そうでもないと思うぞ」
「クラレンス様?」
あれ? 気のせいかしら? クラレンス様の表情が変わっているような……。
「君との婚前交渉……確かに我慢出来ないとう時はある」
「く、クラレンス様……?」
「私も男だからな。愛する女性と二人きりになると、どうしてもそんな感情は生まれてしまうさ」
そう言いながら、彼は私の身体を抱いた。婚約しているのだから、これくらいは普通のことだけど、状況が状況だけにドキドキしてしまう。
「君がそんな話を私にするから、本気で襲ってしまいそうになるじゃないか」
「クラレンス様……す、少しくらいでしたら、フライングをしても良いと思いますけど……」
「レミュラ……」
何を言ってるんだろう、私は……本来はあまり好まれることではないけれど、ここまでクラレンス様の近くに居ると理性が飛んでしまいそうになる。このまま幸せなキスを私達は交わした。そして……そのまま、私はクラレンス様と隣の部屋のベッドへと向かうことには……ならなかった。
「おほほほほ、仲睦まじいお二人の邪魔をして申し訳ありません」
「ソアラ嬢……」
「そ、ソアラ姉さま……!」
私達がキスをしていた部屋に、いつの間にかソアラ姉さまが立っていたのだ。音もさせずに部屋へと侵入したみたいだ。
「今日は特別に私が二人分のコーヒーと軽食を用意いたしました。それでは、ゆっくりとお昼をご堪能くださいませ。おほほほほほっ」
ソアラ姉さまはメイドのような振る舞いを見せ、食事をテーブルにセットしている。素晴らしいお手並みだけれど、私達はそれどころではなかった。明らかにソアラ姉さまの瞳は「分かっているわね?」と釘を刺しているように見えたから……今はキスまではOKということか。
「ソアラ嬢、軽食とコーヒーの用意、感謝する」
「いえいえ。とんでもございませんわ、クラレンス王子殿下。それでは、レミュラのことをお願いしますわね?」
「ああ、任せておいてくれ」
ソアラ姉さまはそこまで言うと、笑顔を絶やさずに部屋から出て行った。なんだか周囲は、嵐が過ぎ去った後のような静寂に包まれている。
「あ、ははははは……なんだか、釘を刺されちゃいましたね……」
「ははは、確かにそうだな。彼女は本当にレミュラのことを大切に思っているんだろうね」
「そうかもしれないです」
ソアラ姉さまは私を心配してくれている、か。間違いが起きても大きな問題にならない可能性は高いけれど、それでも噂が広まってしまうと、私への印象が悪くなる。そういうのを懸念してくれているのかもしれない。
「さて、せっかくだしソアラ嬢が出してくれた食事をいただくとしようか。なんだか、良い雰囲気が一気に消えてしまったな」
「ふふ、そうですね」
先ほどまでの間違いが起きかねない雰囲気は息をひそめ、現在は爽やかな風が窓から流れ込んで来ている。その風に当たりながら私は悟った。本当のクラレンス様とのベッドインは、もう少し先になりそうだと。
私達が本当に結ばれる日まで……出来るだけソアラ姉さまの監視には遭わないように生きて行こうと思う。
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