再婚約ですか？ 王子殿下がいるのでお断りしますね

20話

「クラレンス様、あっちです！　あっちに行ってみましょう！」

「待ってくれ、レミュラ！　そんなに走ると波にさらわれるぞ」

「その時はクラレンス様が颯爽と助けてくれると信じてますから、平気です！」

「やれやれ……信頼してもらえるのは嬉しいけど、責任重大だな」


　クラレンス様との食事会の後も、私達は順調に交際を続けていた。交際と言ってもカップルのように付き合っているわけではないけど。いえ、傍から見ると付き合っているように見えるのかな？　とにかく、私とクラレンス様は本日、海へ遊びに来ていた。

　休暇が偶然に重なったので、シェルブール家所有の別荘に泊まりに来ているのだった。ソアラ姉さまも一緒に居るから、おそらくは裏で姉さまが動いていたのだろうと思う。そして、フォックス・マゼラン大公殿下も今回は一緒だ。

　こんな方々が一同に会するなんていうのは、偶然ではなかなかあり得ないことだろう。多分ソアラ姉さまが偶然を装ってクラレンス様の予定表も弄りまわしたんだわきっと……。

　元々、私の予定を操作するのは簡単だろうしね。


「さて、レミュラが波にさらわれると本当に困るから捕まえておくとしようか」

「あっ、捕まってしまいましたね……」


　私は全力で走っていたのだけれど、簡単に追い付かれてしまった。流石はクラレンス様だわ。


「はははは、しかし、こうして自由に海を走り回るなんて何時以来だろうか……子供のころを思い出しても、記憶にないほどだ」

「左様でございますか」


　なるほど……やっぱり、第四王子としての教育は、クラレンス様から自由を奪っていたのかな？　私クラスの令嬢でも昔から学ぶことは多かったきがするし、王子殿下ともなればそれ以上でしょうね。民を統制する為のいろはを学んでいって……あ、頭が痛くなりそう。


「クラレンス様、大変だったのですね」

「いやまあ、自分の使命と考えていたので大変というわけではなかったよ。豪華な屋敷に住み、食事に困ることもないのだからな。しかし……ふと、一般人を羨ましく思う時はあった。彼らも彼らなりの苦労をしているということに、子供の頃は気付けなかったからな」


　クラレンス様は私を抱きながら話を続けている。彼の話には興味を惹かれるけれど、よく考えるとこの状態はとてもまずいのでは……絶対にソアラ姉さまが遠くから笑っているわ。あ、別荘の木陰のところから顔を出している！


「そういう意味では、ソアラ嬢に紹介されレミュラと出会えたことは、私にとっても嬉しかった」

「えっ？　クラレンス様……？」

　顔が赤くなってしまう……もう、カップルのじゃれ合いにしか見えてないだろうし。


「ソアラ嬢やレミュラのような貴族と出会ったのは、初めてかもしれない。より、一般人に近い感性を持った貴族とでも言えば良いのだろうか……そういった貴族は珍しい。そして貴重でもある」


　一般人に近い感性を持った貴族……か。そう言われてみれば確かにそうかもしれない。ソアラ姉さまの場合は、別の意味合いになりそうだけどね……。