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3話

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「ああ、私のレミュラ! 会いたかったわ!」

「ひゃあ……! ソアラ姉さま……く、苦しいです……!」


 ソアラ姉さまは私の部屋へと入るなり、いきなり抱き着いてきた。私よりも背の高い姉さまのハグは、ちょうど彼女の大きな胸に、私の口元辺りが収納される感じだ。というのは言い過ぎとしても、とにかくソアラ姉さまは私よりも大分背が高い。それに伴って凄い力で私に抱き着いてきたりする。

 決して嫌なわけじゃないけれど……う~ん、表現が難しいわね。


「姉さま、そろそろ離れてください。ライザもびっくりしていますので……」

「そんな……せっかく、久しぶりに会えたんだから……」

「久しぶりって言っても、2週間前にもお会いしたじゃないですか」

「私にとっては2週間は非常に長いのよ」

「そう言っていただけるのは嬉しいのですが……」


 ソアラ姉さまは屋敷を空けることが多い。その為、私達は偶にしか会えないこともある。その理由は、彼女がフォックス・マゼラン大公殿下の婚約者だからだ。フォックス様は元々は王家にも連なるお方だった。今はマゼランという家名を持ち、大公殿下という立場になっているけれど。その為、ソアラ姉さまは何かと屋敷を空けることが多くなっていた。

 王家にも信頼されているソアラ姉さま……同じシェルブール家の伯爵令嬢の身分とはいえ、私とは大違いね。

 背も高く美人でスタイルも完璧と言える。なんだかんだ言っても、貴族というのは立ち振る舞い……第一印象が80パーセントを占めると言われているらしい。そういう意味ではソアラ姉さまは本当に完璧と言える。貴族としての教養にも長け、勉学に勤しみ……決して努力を怠らない。なぜか護身術まで身に着けているらしいし。

 そして何より凄いのは、メリハリの部分だ。貴族として必要なことと、そうでないことをしっかりと自分の中で区分けしている。その為、料理や掃除洗濯などの家事全般はあまり得意ではない。それらをするのは使用人達の仕事だと割り切っている。

 これは決して見下しているわけではなく、区別をしている。自分がそれらを身に着けてしまうと、使用人達の仕事を奪い路頭に迷わせてしまうかもしれない。ソアラ姉さまはおそらく、そこまで考えていらっしゃる。


 尊敬すべき完璧なお姉さま……やや、私に対して甘いというか、優し過ぎるところがあるけれど。私に会う前に、お父様やお母様に会えばいいのに……と、少しだけ思ってみたり。

 シェルブール家の家庭内序列から言っても私を最後にするのは当然のことだ。まあ、現在はお父様もお母様も不在だから仕方ないのかもしれないけれど。

「こうして久しぶりに会えたのは嬉しいわ、レミュラ」

「は、はい姉さま。私もです」

「ただ……一体、何があったのかしら?」

「えっ、どういうことでしょうか……?」

「私に隠し事をする気? レミュラ、それは私が最も嫌うことだと知っているでしょう?」

「ね、姉さま……」


 私はライザに視線を合わせてみる。彼女は首を横に振っていた……どうやら、事情を知っている使用人達が姉さまに話したということはなさそうね。

「心配しなくても大丈夫よ、レミュラ。別に使用人達に口を割らせた、というわけじゃないから」

「な、なるほど……お見通しなんですね……あはは」

「ええ。あなたの表情を見れば、何か悲しいことがあったとすぐに分かるわ。レミュラ、話してくれないかしら? どのみち、隠し通すことが出来ないほどに大きなことなんでしょう?」


 流石はソアラ姉さま……もしかしたら、婚約者のボイド様の件であることも予想の範囲内に入れているのかもしれない。これでは隠し通すことは確かに不可能ね。

 というより、婚約破棄をされたんだから隠すなんて、元々、不可能なんだけれど……。


 私はとりあえず、ソアラ姉さまに本日起きたことの詳細を話すことにした。彼女がそれを聞いた時の反応は予想しないままで……。
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