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 私の名前はレミュラ・シェルブール。マークスタイン王国の伯爵令嬢であり、ボイド・カーティス公爵とは婚約関係にある。婚約が決まって3か月以上になるけれど、3か月前のシェルブール家はお祭り状態だった。今でも覚えている。

 お父様やお母様も喜んでくれていたけど、特にソアラ姉さまが喜んでくれていたのが印象的ね。

 そう……私にとっても非常におめでたい1日だった。ボイド様に一生お仕えし、公爵夫人として遜色ない働きを約束しなければならない。私は必死に自分を磨いていたつもりだった。でも……。


「あ~~、レミュラ。ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょうか? ボイド様?」


 その日、私はボイド様のお屋敷に滞在していたのだけれど、急に私の部屋へノックもせずに彼が入って来た。本来なら失礼に当たる行為だけれど……まあ、彼の屋敷なのだし少しは仕方ないのかもしれない。

 それよりも不思議だったのは……ボイド様の隣には一人の女性が居たことだ。確かこの方は……。


「ボイド様、この娘なわけ? へえ、ちょっとは綺麗にしてるみたいだけど、私の足元にも及ばないじゃない」


 むっ、誰だろう? この人は……おそらくは私よりも上の貴族なのだろうけど、初対面にしては失礼過ぎるような。貴族教育が出来ていないとかそういうレベルではない。人間的におかしい


「おいおい、イレーヌ。当たり前だろう? 侯爵令嬢であるお前より綺麗なわけあるかよ。たかだか伯爵令嬢ごときが」


「ぼ、ボイド様……? どういうことですか……?」


 イレーヌという女性と私のどちらの容姿が良いかなんていうのは、この際、どうでもいいことだった。それよりも……ボイド様は私のことを「たかだか伯爵令嬢」だと罵ったのだ。そちらの方がはるかに重要だった。


「ああ……この女性はイレーヌ・ミラー侯爵令嬢だ。私はこの娘と婚約することにした」

「ええっ!? ど、どういうことですか……!?」


 いきなりのボイド様の言葉に私は驚きすら超えて叫んでしまっていた。なぜ、いきなり婚約破棄の状態になっているの? え? どういうこと……?


「簡単な話だ。伯爵令嬢でしかないお前と結婚するよりも、イレーヌの方が身分も高く、今後にも活きて来る。そして、夜は満足させてくれるしな」

「なっ……!?」

 婚前交渉などご法度なので、私とボイド様はもちろん肉体関係ではない。でもこの二人は……。


「あはははっ! 駄目じゃないですか、ボイド様。こういう初心な子には刺激が強すぎますよ!」

「それもそうだったな、はははははっ!」


 顔を真っ赤にしてしまった私など無視するかのように、二人は大笑いをし始めた。な、なんてことを……信じられない本当に。これが……ボイド様の本性? 私はそんな彼の本性に気付かずに3か月も婚約関係を結んでいたなんて……。

「嫌だわ、小娘って本当に面倒くさいのよね。ヤキモチ妬いてますよ、ボイド様。色男は困りますよね」

「いやいやいや、まさにモテる男のステータスのようなものじゃないか」


 二人が完全に勘違いをしているのが悔しくて堪らなかった。誰がヤキモチを妬いているですって? しかし、この場は否定すればするほど深みに嵌る空気になっている。


「どうだ、レミュラ? 愛人関係ということであれば、私の傍に居ることを許可してやってもいいぞ? その代わり、しっかりと満足させてもらうがな。ふはははははっ!」


 もう駄目だ……私の中でのボイド様の印象は地に落ちてしまった。そして同時に、大きな後悔が襲い掛かってくる。こんな男に……どうして私は。3か月前のお祭り状態……あの時のことを思い出すと涙が止まらなくなってしまった。

「うう……うあぁぁぁぁ……! ボイド様、酷過ぎます……!」

「あらあら、泣かせちゃったじゃないのよ。鬱陶しいわね、本当に……」

「衛兵に連れ出させるか。おい、誰か居ないか!?」


 ボイド様もイレーヌも本気で泣いている私を見ても、全く悪びれる素振りを見せなかった。私はその後も涙が止まらなかったが、屋敷の衛兵達によって外へと連れ出される。

「申し訳ありません、お嬢様……これも仕事ですので……」


 屋敷の衛兵達の方がまだ人間味があったと言えるのかもしれない。きっちりと正門の外へ放り出されてしまったけど。シェルブール家の護衛や御者が私の元までやって来たけれど、私はまだ自分の身に起こったことが信じられないでいた。
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