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12話

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 私の前にかつての婚約者であったドルト様が現れた……浮気相手のエリーヌ様を連れて。こんな事態になることは、いずれは考えていたけれどあまりにも早すぎる。それに、この思い出の場所でこの二人に会ってしまうなんて。私はとても不快だった。


「なにか用ですか? ドルト様。話し掛けてほしくはないのですが……」

「おいおい、なんだその態度は? それが侯爵令息である私にする態度か? んん?」

「本当に失礼な娘ね。それがプラット伯爵家の家訓なのかしら?」


 ……私だって普通はこんな挨拶をするわけはない。自分達が私に何をしたのか、もう一度よく思い返してほしかった。まあ、この二人に言っても意味はないのだろうけれど。

「まあ、そんなことはどうでもいいさ。特別に許してやるよ」

「えっ?」


 そう言いながら、ドルト様は私の前に座って来た。その場所は……。


「お前はこのレストランがどういう場所か分かっているのか?」

「分かっているつもりですけれど……王太子殿下が作られた場所ですよね?」

「なんだ知っているんじゃないか。その通りだよ。お前みたいな奴にも情報は届いていたんだな。てっきり引き籠っているから、なにも知らないんじゃないかと思っていたよ」

「……」


 これ以上ないほどに酷い言葉が飛び交っているような……ものずごく言い返したいけれど、ここは堪えた方が無難だと思えた。口喧嘩になっては意味がない。彼と同じ土俵に立ちたくはないから……。


「なにか言うことはないのか? こんな場所に一人で来るなんて……どういう神経しているんだ?」

「本当ね、シンディ。一人で寂しく食事でもしに来たのかしら? それとも外の教会にお祈りするつもり? いい人に出会えますようにってね! あははははははっ!」

「ははは、それは傑作な話だな! はははははっ!」

「……」


 反論したいけれど、私はぐっと我慢することにした。大丈夫だ、私は間違ったことをしていない。悪いのは完全に前の二人なんだから。しかも、さらに悪さを重ねている二人……もう見ていられない。


「なんとか言ったらどうなんだ? 無視を決め込むとは……本当に失礼な奴だ」

「どうしてくれようかしら、この娘……なめているわよね」

「ずいぶんと楽しそうな会話をしているようだが……とりあえずは道をあけてもらえないだろうか?」

「!」


 そんな時、ドルト様の後ろから声が聞こえて来た。そこに居たのはもちろん……ラッド王太子殿下だ。私にとっては救世主様のご登場だった。二人からすれば死角からの登場だから気付かなかったわけね。さっきの会話も聞かれていたことに……。
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