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 ドルト様……なぜ、婚約破棄なんて……!


「ドルト様、一体、どういうことでしょうか? 婚約破棄? ご自分が何を言っているのか、分かっていますか?」

「ああ、分かっているとも。でもなシンディ、私はお前以上に好きな相手ができたのだよ」

「エリーヌ・スフィア侯爵令嬢ですよね……?」


 婚約者であるドルト・マード侯爵令息はニヤリと笑みを浮かべた。神経を逆撫でする感じだ。


「そうだな。伯爵令嬢でしかないお前とは格が違う相手だ。分かってくれよ、私も将来は侯爵という身分になるんだ。より、高位の者と付き合わなければならないんだから」

「そんな……」


 しかし、私は知っていた。エリーヌ様は何度もドルト様の寝室に入っていることを。


「浮気……ですよね? そうですよね?」

「まあ、シンディなら分かっているとは思うよ。何度か彼女の姿を見たんだろう? ははは、これは隠し切れなかった私の落ち度だな」


 嘘だ……ドルト様は最初から隠す気なんてなかった。そんなことは分かっている。浮気はかなり前から行われていた。でも、信じられないのは婚約者である私を捨てるという選択肢だ。そんなことをすれば、ドルト様の評判も悪くなるはずなのに……。


「どうするつもりですか? 婚約破棄なんてしたら……噂になりますよ?」

「わかっているさそのくらいは。まあ、私くらいの地位になれば、その噂を終息されることも容易い。その辺りはお前も分かっているだろう?」


 悔しいけれどこれは事実だ。おそらくドルト様は自分の影響力をよく分かっている。自分がエリーヌ様と浮気をしたとしても、そこまでのダメージにならないことを知っているのだ。私がいくら反論したところで彼が全く罪の意識を持っていないのもそういうのが影響しているはず……。

 許せない……そして信じられなかった。

「婚約破棄は変わらないのですね? どうしても……浮気なんて最低な行為なのに」

「そうだな、シンディ。悔しいだろうけど変わらないんだ」

「……そうですか! わかりました!」

「私としてはその場で泣いてくれた方が盛り上がるんだが。やっぱり、女性の涙はそそるものがあるからね」


 最低は発言だった。誰が泣いてなんてやるものか。私はすぐにドルト様の部屋を出ることにする。そして、荷物をまとめて馬車を呼んで……すぐに彼の屋敷から出て行った。ドルト様はもちろん止めることは一切しない。むしろ出て行ってくれてありがたいだろう。浮気相手と好き勝手やれるのだから。

 私は決して涙を流さなかった……でも悲しさは想像以上に大きい。どうすればあんな酷いことができるのか。最後まで理解することが出来なかった……。
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