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69話 集合 その2

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 突然のジラークとレナの訪問。遠征に出た割にはかなり早い戻りだ。特にスコーピオン退治のレナはいくらなんでもあり得ない。

「ずいぶん早くない? とくにレナは」
「その通りですわ。まだ、スコーピオン退治は始まっていませんのよ」

 なおさらわからない。それでは急遽引き返したということになる。アーカーシャの危機でも感じ取ったということだろうか。アメリアはそんな表情をしていた。

「わたくしが戻ったのはある意味では偶然ですわ。時空乱流で戻って来ましたの」
「時空乱流……また、すごいので戻ってきたわね」

 アメリアは時空乱流と聞いて、レナがすぐに戻ってこれた理由は察しがついたようだ。ジラークも頭を抱えているがわかっている様子だ。美由紀やエミルは全くわかっていないのか、呆けた表情でテーブルに座っている。


「アメリア、時空乱流って?」
「春人……。まあ、簡単に言うと、目的の場所同士を繋げる異次元空間よ。そこを通れば、アーカーシャとグリモワール王国もすぐに行き来できるわ」
「えっ!? ていうことは国家間の移動とかめちゃくちゃ楽になるんじゃ……!」

 春人は時空乱流という魔法の概略を聞いて、興味津々に身体を弾ませた。そんな魔法があるのなら、馬車などは必要がなくなる。この上ないほどの交通手段であり、攻撃能力を持たない一般人からすれば、夢の魔法とも言える。だが、現実は甘くなかった。

「グリモワール王国しかその技術は確立していないわ。しかも、使用者はレナかルナだけしか多分使えないわね」
「お、おそろしいくらい限定的だな……」
「うふふふ、伊達に「最強の召喚士」という異名を持っていませんのよ? 春人さま」



 怪しく微笑むレナに春人はとても頼りがいを感じた。少し冷や汗も流している春人だが、レナの力を再認識した感じだ。

 時空乱流は使用できれば任意の場所同士を繋げることができる。もちろん、細かな規定は存在しており、ある程度、繋げる場所というのは決まっている。オルランド遺跡の内部などとは繋ぐことはできない。

 召喚術の応用技であり、グリモワール王国で時空乱流を作り出す。ただし、使用できる者は現代ではレナかルナだけとなっていた。それほどまでに高度な技術ということになる。

 レナは時空乱流を通って、アーカーシャの街まで来たことになる。スコーピオン討伐の依頼はまだ終えていなかった。


「時空乱流か……やれやれ、俺の経験はなんだったんだ? 自信をなくす会話はやめてくれないか」

 冗談交じりではあるが、ジラークは今までの自分の冒険者人生はなんだったのかとため息をついていた。レナ、春人、アメリアもジラークのそのため息には笑いが込み上げていた。

 彼は決して実力だけではない貴重な体験をその長い冒険者人生で培っている。そんなことはアメリアたちにもわかっていることだ。

「笑いごとではないぞ? 俺たち「ブラッドインパルス」はアシッドタワー探索を終えて戻って来たんだ。レナとはその時、偶々出会ったわけだが」
「アシッドタワー……そういえば、ジラークさん達が向かったんでしたね。なにかありましたか?」

 春人の質問にジラークは軽く頷いた。その表情は真剣になっている。

「最上階には鉄巨人が配備されていた」
「鉄巨人が……? もちろん倒したのよね?」
「ああ、強敵だったが……なんとかな」

 ジラークは外見的には傷があるようには見えない。この様子だとロイドと老師も無事だろう。アメリアはほっと一安心をする。

「ロイドと老師、3人で鉄巨人を2体撃破できた。まだまだ俺も捨てたものじゃないかもしれんな。まあ、それはいいとして……最上階ではこんな資料を見つけた」
「これって……!」

 ジラークが発見した資料は新たな歴史の1ページ。アルトクリファ神聖国ですら辿りついていない領域だ。ジラークもどこか達成感に満ちていた。

「新たなモンスター……? ケルベロスとフェンリル……」
「ジェシカの側近の……アテナとヘカーテ。そして、召喚士の死神「タナトス」……」

 アメリアと春人はそれぞれ、資料に記されたモンスターの名称を読み上げた。彼らの脳裏には以前に見た壁画のモンスターが思い浮かべられる。サイクロプスと鉄巨人を除く親衛隊のメンバー……全て揃っていたのだ。まさに勢揃いというところだろう。

「親衛隊の主軸ということだろう。ははは、笑えてくるな。メドゥにも会ってきたぞ」
「あ、そうなんだ。なら、ヘカーテとフェンリル達が遺跡から開放されているのは知ってるでしょ? 多分、アテナもオルランド遺跡から出てると思うわ」

 ジラークとアメリアは乾いた笑い声を漏らす。とてつもない脅威が外へと出たことになる。だが、焦ったところで何も始まらないとわかっているのだ。確実なのは、今アーカーシャの街は無事だということだけだ。

 アメリアがアテナが出ていると感じたのは予想ではあるが、これはミルドレア・スタンアークが敗北していることも予期してのことだ。まさに、彼女の予感は的中したことになる。

「資料ではケルベロスとフェンリルのレベルは720。タナトスが900か……異常だな。どうすればいい? こんな凶悪な戦力……」

 ジラークは乾いた笑いから、低い地声に切り替わっていた。記載されている数値がおかしい……鉄巨人が最強のモンスターとは、まさに笑い話である。

「アテナ……ヘカーテ……1200と書かれているわね」
「委員長?」

 興味が出ていたのか、気難しい顔をしているジラークたちの前にひょっこり現れたのは、先ほどまでテーブルに座っていた美由紀だ。アテナとヘカーテの姿を見ている。



「まあ、まだそこまで心配することではないと思うわ。サキア」
「はい、なんでしょうアメリア」

 テーブルに座っていたサキアはアメリアの声にすぐさま立ち上がった。春人の影ではあるが、これでは誰が主人かわからない。

「前に聞いたアビスだけど……レベルはどのくらいなの? 今更隠す必要ないでしょ?」
「それは、マスターである春人様がそのレベルに到達することを願っているのですか? さすがに不可能に近いレベルにはなりますよ? それでも聞きますか?」
「前のあんたの言葉はなんだったのよ……まあ、私が勝手に勘違いしたってことだけど」

 アビスはジェシカ・フィアゼスに付き従っていた影だ。そのレベルを知ることで当時のジェシカの強さを知ることができる。

「……いえ、正確には私にもわかりません。ただ、マスターでもそのレベルに到達することは困難を極めます」

 サキアはここでもアビスのレベルの吐露を避けた。いや、記憶が残っているのかはわからないが、敢えて意味深に言っているようにも感じられた。

「肝心な時に頼りないわね……もう。まあいいわ、じゃあ春人の現在のレベルは?」
「800程になります。私がちょうど鉄巨人クラスですので」
「よし、とにかく春人を中心に考えれば、なんとかなるわよきっと」


 わずかな期間で2倍ほどの強さに成長した春人。アメリアは彼を中心に捉え作戦を練れば、現状を打開できると考えた。概ね、その考えは合っている。と、いうよりもそれ以外では全滅という道に達するだけであった。


「800か……何時の間にそんなに強くなった? まったく若い者の成長は計り知れんな」
「素晴らしいですわ、春人さま」
「レナ、アンタも切り札をそろそろ解禁しなさいよ? 下手したら、人類滅亡のカウントダウンが始まったかもしれないんだから」
「うふふ、考えておきますわ」

 春人のレベルを聞いて、各々の反応は違っている。未だに底を見せていない者もいるようだ。そんな彼らを見ながら、サキアは静かに呟いた。

「アメリア、さすがに冷静な戦況分析です。あのレベルの敵にも怖気づかないとは。それに、どうやらこちらにも、1つ切り札が生まれそうですね」

 サキアが視線を送るその先……委員長である天音美由紀が居た。
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