69 / 119
69話 集合 その2
しおりを挟む突然のジラークとレナの訪問。遠征に出た割にはかなり早い戻りだ。特にスコーピオン退治のレナはいくらなんでもあり得ない。
「ずいぶん早くない? とくにレナは」
「その通りですわ。まだ、スコーピオン退治は始まっていませんのよ」
なおさらわからない。それでは急遽引き返したということになる。アーカーシャの危機でも感じ取ったということだろうか。アメリアはそんな表情をしていた。
「わたくしが戻ったのはある意味では偶然ですわ。時空乱流で戻って来ましたの」
「時空乱流……また、すごいので戻ってきたわね」
アメリアは時空乱流と聞いて、レナがすぐに戻ってこれた理由は察しがついたようだ。ジラークも頭を抱えているがわかっている様子だ。美由紀やエミルは全くわかっていないのか、呆けた表情でテーブルに座っている。
「アメリア、時空乱流って?」
「春人……。まあ、簡単に言うと、目的の場所同士を繋げる異次元空間よ。そこを通れば、アーカーシャとグリモワール王国もすぐに行き来できるわ」
「えっ!? ていうことは国家間の移動とかめちゃくちゃ楽になるんじゃ……!」
春人は時空乱流という魔法の概略を聞いて、興味津々に身体を弾ませた。そんな魔法があるのなら、馬車などは必要がなくなる。この上ないほどの交通手段であり、攻撃能力を持たない一般人からすれば、夢の魔法とも言える。だが、現実は甘くなかった。
「グリモワール王国しかその技術は確立していないわ。しかも、使用者はレナかルナだけしか多分使えないわね」
「お、おそろしいくらい限定的だな……」
「うふふふ、伊達に「最強の召喚士」という異名を持っていませんのよ? 春人さま」
怪しく微笑むレナに春人はとても頼りがいを感じた。少し冷や汗も流している春人だが、レナの力を再認識した感じだ。
時空乱流は使用できれば任意の場所同士を繋げることができる。もちろん、細かな規定は存在しており、ある程度、繋げる場所というのは決まっている。オルランド遺跡の内部などとは繋ぐことはできない。
召喚術の応用技であり、グリモワール王国で時空乱流を作り出す。ただし、使用できる者は現代ではレナかルナだけとなっていた。それほどまでに高度な技術ということになる。
レナは時空乱流を通って、アーカーシャの街まで来たことになる。スコーピオン討伐の依頼はまだ終えていなかった。
「時空乱流か……やれやれ、俺の経験はなんだったんだ? 自信をなくす会話はやめてくれないか」
冗談交じりではあるが、ジラークは今までの自分の冒険者人生はなんだったのかとため息をついていた。レナ、春人、アメリアもジラークのそのため息には笑いが込み上げていた。
彼は決して実力だけではない貴重な体験をその長い冒険者人生で培っている。そんなことはアメリアたちにもわかっていることだ。
「笑いごとではないぞ? 俺たち「ブラッドインパルス」はアシッドタワー探索を終えて戻って来たんだ。レナとはその時、偶々出会ったわけだが」
「アシッドタワー……そういえば、ジラークさん達が向かったんでしたね。なにかありましたか?」
春人の質問にジラークは軽く頷いた。その表情は真剣になっている。
「最上階には鉄巨人が配備されていた」
「鉄巨人が……? もちろん倒したのよね?」
「ああ、強敵だったが……なんとかな」
ジラークは外見的には傷があるようには見えない。この様子だとロイドと老師も無事だろう。アメリアはほっと一安心をする。
「ロイドと老師、3人で鉄巨人を2体撃破できた。まだまだ俺も捨てたものじゃないかもしれんな。まあ、それはいいとして……最上階ではこんな資料を見つけた」
「これって……!」
ジラークが発見した資料は新たな歴史の1ページ。アルトクリファ神聖国ですら辿りついていない領域だ。ジラークもどこか達成感に満ちていた。
「新たなモンスター……? ケルベロスとフェンリル……」
「ジェシカの側近の……アテナとヘカーテ。そして、召喚士の死神「タナトス」……」
アメリアと春人はそれぞれ、資料に記されたモンスターの名称を読み上げた。彼らの脳裏には以前に見た壁画のモンスターが思い浮かべられる。サイクロプスと鉄巨人を除く親衛隊のメンバー……全て揃っていたのだ。まさに勢揃いというところだろう。
「親衛隊の主軸ということだろう。ははは、笑えてくるな。メドゥにも会ってきたぞ」
「あ、そうなんだ。なら、ヘカーテとフェンリル達が遺跡から開放されているのは知ってるでしょ? 多分、アテナもオルランド遺跡から出てると思うわ」
ジラークとアメリアは乾いた笑い声を漏らす。とてつもない脅威が外へと出たことになる。だが、焦ったところで何も始まらないとわかっているのだ。確実なのは、今アーカーシャの街は無事だということだけだ。
アメリアがアテナが出ていると感じたのは予想ではあるが、これはミルドレア・スタンアークが敗北していることも予期してのことだ。まさに、彼女の予感は的中したことになる。
「資料ではケルベロスとフェンリルのレベルは720。タナトスが900か……異常だな。どうすればいい? こんな凶悪な戦力……」
ジラークは乾いた笑いから、低い地声に切り替わっていた。記載されている数値がおかしい……鉄巨人が最強のモンスターとは、まさに笑い話である。
「アテナ……ヘカーテ……1200と書かれているわね」
「委員長?」
興味が出ていたのか、気難しい顔をしているジラークたちの前にひょっこり現れたのは、先ほどまでテーブルに座っていた美由紀だ。アテナとヘカーテの姿を見ている。
「まあ、まだそこまで心配することではないと思うわ。サキア」
「はい、なんでしょうアメリア」
テーブルに座っていたサキアはアメリアの声にすぐさま立ち上がった。春人の影ではあるが、これでは誰が主人かわからない。
「前に聞いたアビスだけど……レベルはどのくらいなの? 今更隠す必要ないでしょ?」
「それは、マスターである春人様がそのレベルに到達することを願っているのですか? さすがに不可能に近いレベルにはなりますよ? それでも聞きますか?」
「前のあんたの言葉はなんだったのよ……まあ、私が勝手に勘違いしたってことだけど」
アビスはジェシカ・フィアゼスに付き従っていた影だ。そのレベルを知ることで当時のジェシカの強さを知ることができる。
「……いえ、正確には私にもわかりません。ただ、マスターでもそのレベルに到達することは困難を極めます」
サキアはここでもアビスのレベルの吐露を避けた。いや、記憶が残っているのかはわからないが、敢えて意味深に言っているようにも感じられた。
「肝心な時に頼りないわね……もう。まあいいわ、じゃあ春人の現在のレベルは?」
「800程になります。私がちょうど鉄巨人クラスですので」
「よし、とにかく春人を中心に考えれば、なんとかなるわよきっと」
わずかな期間で2倍ほどの強さに成長した春人。アメリアは彼を中心に捉え作戦を練れば、現状を打開できると考えた。概ね、その考えは合っている。と、いうよりもそれ以外では全滅という道に達するだけであった。
「800か……何時の間にそんなに強くなった? まったく若い者の成長は計り知れんな」
「素晴らしいですわ、春人さま」
「レナ、アンタも切り札をそろそろ解禁しなさいよ? 下手したら、人類滅亡のカウントダウンが始まったかもしれないんだから」
「うふふ、考えておきますわ」
春人のレベルを聞いて、各々の反応は違っている。未だに底を見せていない者もいるようだ。そんな彼らを見ながら、サキアは静かに呟いた。
「アメリア、さすがに冷静な戦況分析です。あのレベルの敵にも怖気づかないとは。それに、どうやらこちらにも、1つ切り札が生まれそうですね」
サキアが視線を送るその先……委員長である天音美由紀が居た。
0
お気に入りに追加
777
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる