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41話 トネ共和国の依頼 その1
しおりを挟む「春人~~、ずいぶん楽しそうね? ね?」
「あ、いや……あの、その……」
VIPルームのソファーにはバニーガール姿のアメリアも座っていた。丁度、春人の隣にはなっているが、ルクレツィアとは逆の隣だ。彼女と同じく生脚を大胆に出しているため、普段からは想像できない程、露出が大きい。
彼女のそんな大胆な格好は、ほとんど見たことがない春人にとって、今のアメリアは目の保養以外のなにものでもなかったが、それ以上に現在の状況は緊迫していた。
どうしよう? 春人は考える。自分の左隣には人気ナンバーワンの呼び声高いルクレツィア、右隣りにはそんな彼女に勝るとも劣らない美貌の持ち主のアメリアがいる。
ルクレツィアは仕事上、春人から離れることはしない。アメリアはもっとしないだろう。現にぴったりと彼に寄り添い、とても素晴らしい笑顔を向けている。
「春人、なにか言うこととかある?」
「いや……言い訳になっちゃうしね。探しに来てくれたのは、素直に嬉しく思うよ」
春人は率直な意見を述べた。ここにいること自体はなんら問題はないはずだ。春人は無理やり自分の中で言い聞かせる。しかし、アメリアには通じなかった。
「ったく、あんたはぁ……!」
「痛いって、アメリア……! つねるなよ……!」
アメリアもそれほど怒ってはいないのか、つねる動作は意外にも優しい。春人も大して痛くなかったが、とりあえず空気に合わせて大げさに言ってみた。
「ふんだ……エミルやサキアにも言うからっ」
「ええ……そ、それは……!」
「なによ? あの二人には知られたくないっての?」
アメリアは端整な顔を春人に近づけてくる。これには春人もたじたじになるが、彼は怯まずに続けた。
「違うよ、アメリアとは一番近い間柄だろ? ぱ、パートナーだし……知られても良いっていうのは、つまり近しい間柄だと思ってるからで」
「な……! なに言ってんのよ……!」
春人に近づいていたアメリアは、急に恥ずかしくなったのか、すぐに彼から離れた。顔は真っ赤になっているが。
「だ、だからまあ……ここまで来てくれたのは嬉しいよ。あ、あと……ごめん」
「別に春人は悪いことしてないでしょ……なんか、私もパートナーの領分、越えてたかなって不安だったの……」
「い、いや、そんなことないよ。アメリアに気にかけてもらえるのは嬉しいし」
「あ、そう?……わかった……そういうことなら……」
かなり良い雰囲気になっている春人とアメリア。ルクレツィアは彼ら二人を見て、自らの甘酸っぱい時代を思い出していた。彼女からすれば数年前の出来事になるだろう。
いつの間にか、アメリアの心に渦巻いていた怒りの炎は消えて、春人を責める感情もどこかへと行っていた。
そして、その隣のソファーでは……アルマークとイオが向かい合っている。
「アルマーク、どういうつもり? 幼なじみの私にも内緒でこんな店に来たりしてさ」
「ご、ごめんイオ……バーモンドさんに連れられた時は本当に知らなくて……そのあと、春人さんと合流して、この店に来たんだ」
「じゃあ無理矢理、連れて来られたの?」
イオは半ば安心したいかのような口調でアルマークに問い詰める。しかし、彼は首を横に振った。
「いや……僕もちょっと興味あって……」
「アルマーク~~~!」
「痛い! 痛いって、イオ~~!」
アメリアと同じくバニースーツ姿のイオはアルマークの頬を左右から力いっぱい引っ張った。アルマークは相当、痛そうにしており、彼女に許しを請うように何度も謝り続けていた。
「私~~は~胸さわら~~れ~た~。意外に上手~~」
メドゥはわざとなのか、そんなイオとアルマークのやり取りの間でも、彼らに聞こえるように言ってのける。アルマークの顔面は蒼白になり、イオはさらに般若の顔へと変貌した。
「アルマーク、後で全部聞かせてもらうからね?」
「え? ぜ、全部!?」
「そう! 全部!」
イオはそこまで言うと、明後日の方向を見てアルマークと視線を合わせようとしなかった。しかし、落ち込んでいるアルマークに厳しくし過ぎることができないのか、時折彼の様子を伺っている。非常に微笑ましい光景となっていた。
「いや~、あの二人の絆も強くなってるみたいで安心したよ」
「なにが絆よ、スケベ春人くせに」
「いたいっ!」
春人はいい感じにまとめられるかと思っての発言だったが、すぐにアメリアに否定された。彼女に耳を引っ張られたのだ。
「ほんじゃ、そろそろええか? 話はまとまったんやろ?」
春人やアルマーク達の向かいのソファーに一人で座るクライブ。にやにやと笑いながら、先ほどのやり取りを見ていたが、ここに来て本題へと舵を切り替えた。春人達もその雰囲気に気付き、VIPルームは真面目な雰囲気へと変化した。
「で? 私達に話したいことってなによ?」
アメリアはVIPルームへ来る前に、話があることをクライブから告げられていた。春人にはまだそのことを伝えてはいなかったが、春人もクライブが前に座っている状況で気づかないはずはない。話の本題、トネ共和国の最強の人物が話したい内容。春人とアメリアもクライブの言葉を待った。
「共和国の依頼で最大2000万ゴールドの依頼があるやろ? あれに関してや」
クライブの話の内容とは、以前に春人たちの間でも話題になった依頼の件だった。ポイズンリザードの軍勢の討伐だ。
「あの17年間放置されている依頼でしょ?」
「そうや、この間、暗殺者ギルドで討伐する話が出たんやけどな……無理やわ。レベル130のリザードが多すぎてどうにもならん。さらに、独自の生態系を築いているみたいでな、ボス格のリザードロードも複数体確認されとる」
トネ共和国の暗殺者部隊が匙を投げた依頼……それが何を意味するかは春人にも理解ができた。トネ共和国では既に完了することができない案件ということになる。
「どのくらいの数かはわかるの?」
「ポイズンリザードは少なくとも100体は居るな。リザードロードも10体は居るかもしれん。あくまでも予想や、正確には分からん。リザードロードのレベルが明確には不明な上にその数や。そもそも、ポイズンリザードの相手ができるんが、共和国で俺しか居らん」
その話を聞いて、アメリアは唸る。トネ共和国ではどのようにしたところで、リザード軍団の討伐は不可能だ。クライブのみが対抗できるというのでは話にならない。
「最近、その手の依頼、金額も上がってるわよね?」
「ああ、リザード軍団の壊滅は3000万ゴールドになったわ。あと、余談やけど北の砂漠地帯のグリモワール王国でもスコーピオンの軍勢が襲来しててな。4000万ゴールドの依頼になってるで」
「3000万と4000万……?」
破格の報酬額にアルマークとイオは驚愕した。春人も驚いてはいるが、敵のレベルを考えれば妥当、むしろ安いくらいかもしれない。
「グリモワールの方は、ヘルスコーピオンの軍勢ね……レベルは180で、猛毒の尻尾の一撃が強烈……偶然だけど、また毒ね。それから、メガスコーピオン、ギガスコーピオンという上位種の存在も確認されている。おそらく、現在出ている依頼の中では最高レベルの難易度じゃないかしら」
「アメリア、グリモワール王国って?」
「うん、春人は知らないよね。魔法の発祥地とも言われててさ、5000年以上の歴史を持つ大国よ。レナ、ルナの故郷でもあるんだけど。国家規模で対抗してるみたいだけど、かなりピンチとか聞いたことあるわ」
グリモワール王国は5000年以上の歴史は持つが、1000年前には一度、フィアゼスにより統治された国とされている。その後は独立を果たしたが、スコーピオンの軍勢に現在は押されているのだ。4000万ゴールドの依頼という時点でそれは容易に想像ができる。
また、レナとルナの故郷でもあり、彼女たちも偶に帰国はしている。最も、彼女たちは辺境の村出身である為、戦闘地である首都周辺に向かうことはあまりないが。
「レナとルナが今度、その依頼を引き受けるって言ってたわ」
「だ、大丈夫なのか? いくらレナさんたちでも……」
春人は相手の戦力を鑑み、アメリアに質問した。彼女は特に焦る素振りは見せない。
「大丈夫でしょ」
絶対の信頼……春人はアメリアからそんな雰囲気を感じ取った。自分には見えていないものがアメリアには見えている。
それは、以前から彼女たちを知っているアメリアだからこそ見えてくるものなのだろう。春人はそのように考え、レナを信頼するアメリアの言葉を信じた。
「さすがはアメリア・ランドルフや。イングウェイ姉妹に対する信頼……大したもんやで。それから、「ブラッドインパルス」と「シンドローム」。俺は好きやないけど、ミルドレア・スタンアークも遺跡に集中しとる。この地の守りは歴代最高やろな」
「なにが言いたいわけ?」
アメリアとしては彼の言葉の意図は理解できていた。しかし、敢えて質問をしたのだ。
「オルランド遺跡からの気配は相当増大しとる。それはお前らやったら感じ取れるやろ? それからアクアエルス遺跡からも、強烈な気配が漏れ出てるんや。俺の国には優秀な占い師が居ってな」
「強烈な気配……? 確かにオルランド遺跡にはそういう雰囲気はあったけど」
春人は以前から考えていた強大な魔物の存在を思い出していた。そういった気配をクライブも感じているのであれば、より信憑性は高くなる。
「アクアエルス遺跡は~~~残りは~~隠し~~エリアだけ~~」
メドゥの緊張感のない遅れた言葉がこだまする。その内部に何かが存在するということか。アメリアも嫌な予感を以前から持っていた遺跡ではあるが。
「あそこは壁画とかが、他と全く異なるからな。その隠しエリアの中には何があるんか……単純に強力なモンスターや宝……そんな単純なことならええんやけどな」
「オルランド遺跡も残りは、最深部と隠しエリアだけだわ。やはり真っ先に思い浮かぶのは鉄巨人かしら?」
「そうやな、その化け物が眠ってる。そう考えるのが妥当や。まあ、そんなわけで、アーカーシャに危険が迫っても万全の態勢で守れるようにしておかなあかんと言うわけや。結晶石の確保ルートが途絶えると、周辺三国も大ダメージやからな」
クライブはそう締めくくった。
彼としては、アーカーシャの街が危険に晒されるのは好ましい事態ではない。この街での収入と結晶石のルートからも、かなり重要な拠点だからだ。
そのルートの確保を最優先にするために、彼はアメリアたちと話しをしていた。単純にリザード達を放っておいても、共和国が滅ぼされかねないということも大きいが。
「ま、そんなわけで高宮春人。お前には宣戦布告や」
「は?」
「は? やないぞ。こんな美人をはべらしおってからに。お前の性根は叩きなおさないとあかん! お兄ちゃんは許さへんで!」
クライブは話題を一気に変えただけではなく、雰囲気すらも冗談交じりの状態に強引に持って行った。春人もアメリアも付いていけずに、苦笑いすら出来ないでいる。しかし、クライブとはこういった人物なのだ。
ルクレツィアはある程度分かっているのか、ため息をついていた。
「お前の強さも知っておきたいしな。どうや? 共和国最強の俺と殴りあう勇気はあるか?」
わかりやすい率直な挑発。
クライブはこの状態での春人の返答で、リザード討伐を頼むに値するかを計算していた。春人としては、そこまで考えが及んだわけではないが、本能が告げていたのか、
「わかりました、勝負しましょう」
と、あっさりと彼の挑発に乗ることになった。意図がわかっているアメリアも特に止めることはしない。
「ええ? この二人が戦うの? うそ……」
「うわ、どうなるんだろ。凄い楽しみですよ、春人さん! 頑張ってくださいね!」
イオやアルマークも各々驚いた口調で言葉を漏らした。またまた、春人はアルマークからの熱い視線を受ける。しかし、今度は戦闘だ……彼の真骨頂と言えるだろう。そこに震えはなかった。
クライブは上機嫌でVIPルームを出て行った。それに続くように春人も歩き出す。彼の後ろからは、それぞれアメリア、アルマーク、イオ、メドゥ、ルクレツィアと続いていた。
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