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27話 グリフォン討伐

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「状況はどうなっている?」
「街の西からはグリフォンが攻めて来てるみたいだね、そちらには「ビーストテイマー」と「ソード&メイジ」が向かっているよ」

 場所はアーカーシャの中央時計塔付近。「ブラッドインパルス」のジラークとロイドが会話をしていた。その隣にはオルゲン老師の姿もある。彼らは、アーカーシャの周囲の地形的な観点から、南の海岸付近からの侵攻を読んでいた。


 彼らの読みはまさに的中していたが、グリフォンの侵攻情報があるにも関わらず、全く私設部隊が攻めてこない状況に疑問が浮かんだ。

「おかしいの、グリフォンの襲撃も侵攻作戦の1つであるなら、私設軍の侵攻も同時刻に来るはずじゃが……」
「老師、アルゼルは先ほど「海鳴り」にてアンデッドになってたみたいっすよ。春人が倒したみたいですけど」

 ロイドは仕入れてきた情報をオルゲン老師に伝えた。性格にはアルゼルを倒したのはデスシャドーのサキアではあるが。

「ふむ、これはどういうわけじゃ?」
「おそらく……第三者の介入により、アルゼル・ミューラーの計画は未然に防がれた、というところでしょうな」

 そう言いながら、ジラークは南の方向に目をやっていた。その方向からは二人の人物が余裕の表情で歩いて来ている。特に敵意は感じられないのか、ジラークは武器を構えない。

「へいへいへい! あんたはSランク冒険者じゃねーかい? いきなり会えたぜ!」
「う~んが~い~い~」

 オルガとメドゥの二人はジラーク達と時計塔で邂逅を果たした。



-----------------------------------------------------------------------



「これが……グリフォンか!」

 春人とアメリアは街の西口に辿りついた。入り口の目の前には、グリフォンが5体配備されている。だが、既に死亡しているのか、目はモンスターのそれではなく、肌の色も紫がかっていた。

「こいつらもアンデッド化してるわね……ネクロマンサーによる仕業でしょうね」
「ええ、その通りですわ。しかし、レベル90のグリフォン5体を始末してアンデッド化させる程の者……相応の実力者ということになりましょう」

 アメリアの隣には「ビーストテイマー」の二人も配置されていた。そのほかにも冒険者はいるが、空気を読んでか後ろに下がっている。

「……どうしよう?」
「そうですわね、ルナ。わたくし達が先に参りましたので、先に行かせていただきますわ」

 そして、春人達の承諾を得ずにレナとルナは前に出て行く。意外と戦闘狂の二人を前にアメリアは頭を抱えていた。その表情は「しまった」と言っている。

「さて、参りますわよ。ブルードラゴン」
「……来て、アサルトバスター……」

 レナとルナ、それぞれモンスター名を告げた段階で、前方には魔法陣が展開され瞬時に巨大な物体が姿を現した。
 青き翼竜と黒き機械人形の出現である。

「あ、あんなモンスターを瞬時に召喚するなんて……! うそだろ!?」
「さすがはSランク冒険者だな……」
「いや、オレはAランクだぞ? 差があり過ぎじゃねーか?」

 春人の背後から聞こえる驚きの言葉の数々。彼らの中にはAランクの者もいるようだが、それでもレナ達との差を痛感しているようだった。
 ブルードラゴンのレベルは155、アサルトバスターも145に相当する。2体共、春人が賢者の森で仕留めたグリーンドラゴンの強さを超えていた。それを使役している為、Aランク冒険者ですら驚愕してしまうわけだ。

「行きますわよ、ルナ。といっても、わたくし達がなにかする必要はないけれど」
「………暇」

 レナとルナはグリフォンを前にしても高みの見物といった状態になっていた。ブルードラゴンとアサルトバスターはそれぞれ、自立行動でグリフォンに向かって行くためだ。レナ達に向かってくる者が居れば彼女らも反撃をするが、そんな心配は皆無だった。

「レナさん達……あんなに強いんだね」
「Aランク冒険者はある程度上限が決まってるわ。最大でもレベル60程度。それ以上は全てSランクの領域になるから……SとAで差が出るのは必然なの」
「なるほど」

 以前、春人の部屋で語っていた内容にも付随している。Aランク冒険者は通常はレベル50~60程度のモンスターを討伐することを考えられている。ただし、Sランクに上限はなく、レベル60~となっているだけである。文献上でもレベル400の鉄巨人が居ることを考えると、Sランク冒険者が担う幅は非常に大きい。
 同じSランクの中でも当然、差は生まれるわけだがAランクを脱していないアルゼルにSランク冒険者が負けるはずがないという原理はまさにそこにあったのだ。

「でもさ、レナとルナだけにやらせるのも癪だし。私達も仕留めましょうか」

 ブルードラゴンはハイパーチャージを使っていた。1分間は全能力が2倍になる。それは実質、レベルが2倍になることと同義だ。このままではグリフォンは全滅してしまう。アサルトバスターもミサイルを撃ち、グリフォンの1体を圧倒している。

「では、マスター。私が参ります」
「サキアはグリフォン以上……か。ま、わかっていたけど。春人、あんた凄いわね」
「う、うん?」

 アメリアは軽く小突きながら春人を称えた。春人自身はその意味を理解していない。

「あ、サキア。君は待機しててくれ。グリフォンは俺が行くよ」
「畏まりました。それでは、敵の攻撃は私が防ぎます」

 サキアは素直に春人の影に戻って行った。デスシャドーは主人の身を守る盾の役割を果たすこともできる。春人の防御をグリフォンが貫通できるはずはないが、サキアにとってそんなことは関係がなかった。

「ギュイイイイイ!」

 大きな甲高い声から発せられる竜巻は、春人目掛けて高速で走り出した。さらに、同時にグリフォンが2体、春人目掛けて物理攻撃を仕掛けてくる。

「やっぱり俺、強くなってるかな。このレベルのモンスターに恐怖を感じない」

 竜巻に巻き込まれた春人ではあるが、その突風は影になったサキアが全て弾き返した。そして、竜巻がかき消されたところに迫るグリフォンの爪。
 サキアは敢えて、その爪はガードすることはなかった。春人に命中した爪攻撃は、彼に少しのダメージも与えることはできない。

 あまりの事態に、アンデッド化をしていなければ、グリフォンは本能で逃げ去っていたかもしれない。それほどの事態だ、グリフォンの攻撃を受けてノーダメージなのだから。後方に待機している冒険者は開いた口が塞がらない。

「今度はこちらから行くぞ!」

 そして、抜き出されるユニバースソード。霞仕上げを思わせる美しい銀の刀身は春人の腕力により、超高速でグリフォン2体を切り裂いた。アンデッド化などまるで関係がないように、グリフォンの胴体は切断され、その場に崩れ去った。

「さっすが春人! ヤバいわよ、アンタ! 格好いいんじゃない?」

 2体のアンデッド化グリフォンを仕留めた春人に、上機嫌でアメリアは近づき彼の背中を強く叩いた。満面の笑みを浮かべながら。

「ああ、ありがとう、アメリア」
「うん。……あ、」
「ああ……」

 思わず目が合ってしまい、気まずい状態が蘇った。二人とも赤面しながら目を背ける。

「マスター、この状態はなにか駄目です」
「え? 駄目ですって? そんなこと言われても……」
「ダメったら、ダメです」

 サキアは急に駄々をこねる子供のようになり、人間の姿で春人に抱きついた。アメリアから離すように。アメリアはそんな光景に思わず笑い出してしまった。

「サキアって人間みたい」
「人間ではありません。ただし、マスターの欲求を、マスターが望む通りに叶えることができます。子供は産めませんが……歳も取らず、学習することも可能です。マスターの理想の格好なることも容易です。アメリアにはできないことをたくさんできます」
「ほほう、言ってくれるわね……」

 宣戦布告……神聖国や王国とは違う意味での言葉だが……一瞬だが、その場は凍り付いていた。

「なんか、俺が変態呼ばわりされている気がするんだけど……反論した方がいいのか?」
「何言ってんのよ、変態でしょ、春人は」
「待て待て、何も見て変態なんだ!? 俺は至ってノーマル……」

 春人はそれ以上言っても墓穴を掘るかもしれないので、敢えて言葉を止めた。女性の前でする話でもないし、どこまでをノーマルとするかは人に寄るからだ。


「とても素晴らしいですわ、春人さま」
「……すごい」

 残りのグリフォン討伐も完了したのか、レナとルナも春人の前に現れた。傍らにはブルードラゴンとアサルトバスターの2体も立っていた。

「その美しい剣から繰り出される一閃。わたくし、つい見惚れてしまいましたわ」
「そ、それはどうも……あはは」

 冗談半分なのか、本気なのかといった微妙なラインでの言葉に春人は苦笑いになる。レナは冗談を言って、こちらの反応を試す可能性があるからだ。

「レナとルナも力隠し過ぎよ。なにが「グリーンドラゴンは召喚できない」よ? それ以上の怪物召喚してるじゃない」

 アメリアはブルードラゴンを見上げながら言った。

「うふふ、ですのでグリーンドラゴンを召喚できないのは事実ですのよ? ブルードラゴンは可能でございますが」
「屁理屈ね」
「いいえ、事実ですわ」
「ルナはどう? どっちが正しい?」


 自分の非を認めないレナに対して、アメリアはルナに善悪の是非を委ねた。ルナは少し困っている。


「………レナが正しい、と思う。ごめん、アメリア」
「さすが、わたくしの妹ですわね。あの時の言葉だけを取れば、わたくしに非は全くなくてよ? アメリア、お分かりいただけまして?」
「はあ、もうわかったわよ……」


 レナの勝利宣言に、アメリアもため息をつきながらも認めざるを得なかった。そして、周囲はSランク冒険者によって達成された5体のグリフォン討伐に歓喜の声が広がっていた。街の住民も強力な魔物が中に侵入しなかったことを涙を流して喜んでいる。


「さすがは冒険者たちだ! アーカーシャ万歳! ソード&メイジ万歳!」
「ビーストテイマーのお二人も素敵すぎます!」
「はーるーと! はーるーと!」

 ソード&メイジとビーストテイマー。二つの冒険者パーティによって、グリフォンは討伐された。アーカーシャの守備態勢が万全であることを街の人々の心にも大きく刻まれる瞬間でもあった。春人はそんな大歓声の中を、生来の臆病な心を表に出しながら、恐縮した様子で帰って行った。
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