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26話
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「ウオッホン!! バルサーク・ウィンドゥ大公殿下、お呼び出しに応え参上いたしました」
ブライアン・クラウド……私のお父様は大きく咳払いをしながら、バルサーク様に挨拶をしていた。最初の大きな咳払いは牽制の意味合いがあるのかもしれない。あんまり意味を成してないような気がするけれど……。
「私の急なわがままに付き合っていただき、本当に申し訳ない。ブライアン殿、お越しいただいたことに感謝いたします」
「ありがとうございます、バルサーク様」
バルサーク様はあくまでも自分のわがままだと言っていた。それは完全に私に対してのフォローだと思う。お父様を呼んで欲しいと言ったのは私だし、バルサーク様は最初から呼ぶつもりはなかったのだから。でも、ここま敢えて口を出さないようにする。
バルサーク様の優しさに応えるのは、何も全て言葉に出して感謝の意を示せば良いというわけではないから。そんな時、エリーゼさんとヨハンさんの二人と目が合った。二人とも、軽くガッツポーズをしているようだ……私の内心を読み取って、「ナイスよ!」と言ってくれているのかな? まあ、偶然かもしれないけれど。
それからすぐに、引きつった様子のお父様は空いているソファに座った。やっぱり、緊張しているのかな? まあ、何が起きるかは分かり切っているでしょうからね。
「さて……ブライアン殿もお越しになったことだし、そろそろ始めようか、ローザ嬢」
「は、はい……バルサーク様!」
私は真剣な目で私を見ているバルサーク様に、同じような視線を返した。私自身も真剣になっているという証を見せたのだ。護衛のエリーゼさんやヨハンさんも静かに見守ってくれている……バルサーク・ウィンドゥ大公殿下は大きく深呼吸を始めた。
運命の一瞬というやつだろう。私もバルサーク様もきっと、同じように緊張しているはずだ。
「ローザ嬢……いや、ローザ」
「はい。バルサーク様」
「私と……婚約していただけないだろうか?」
予想通りの言葉が私の耳に届いた。お父様の表情は特に変わっていないようだったけれど、眉間のしわは嘘を吐けないようだった。ああ……私のことを大切に思ってくれているのは分かるけど……なんとおうか、複雑だった。でも、私はそんなお父様の前で言わなければならない。自分の率直な意見を……。
「バルサーク様」
「ローザ……何かな?」
「ありがとうございます、とても嬉しいです。でも……本当に、私でよろしいのですか? バルサーク様であれば、もっと相応しい令嬢の方々がいらっしゃるかと思いますが……」
これは私の本心だ。クラウド家は伯爵家でしかない……もちろん、貴族全体から見ればそれなりの地位ではあるけれど。大公殿下と一緒になるとなれば……少しだけ疑問が残るかもしれない。だからこそ、私はバルサーク様に質問をしたのだ。
「もちろんだ、ローザ。私には君しか考えられない」
「バルサーク様……ありがとうございます。バルサーク様との婚約……お受けさせていただきたいと思います」
「そうか……ありがとう、ローザ。私はとても嬉しいよ」
「はい、バルサーク様。私もとても幸せでございます……」
自然と目からは涙が出ていた。しかしこれは、悲しみの涙ではない。バルサーク様との婚約が決まった……これ以上ない程の幸せの涙だった。
ブライアン・クラウド……私のお父様は大きく咳払いをしながら、バルサーク様に挨拶をしていた。最初の大きな咳払いは牽制の意味合いがあるのかもしれない。あんまり意味を成してないような気がするけれど……。
「私の急なわがままに付き合っていただき、本当に申し訳ない。ブライアン殿、お越しいただいたことに感謝いたします」
「ありがとうございます、バルサーク様」
バルサーク様はあくまでも自分のわがままだと言っていた。それは完全に私に対してのフォローだと思う。お父様を呼んで欲しいと言ったのは私だし、バルサーク様は最初から呼ぶつもりはなかったのだから。でも、ここま敢えて口を出さないようにする。
バルサーク様の優しさに応えるのは、何も全て言葉に出して感謝の意を示せば良いというわけではないから。そんな時、エリーゼさんとヨハンさんの二人と目が合った。二人とも、軽くガッツポーズをしているようだ……私の内心を読み取って、「ナイスよ!」と言ってくれているのかな? まあ、偶然かもしれないけれど。
それからすぐに、引きつった様子のお父様は空いているソファに座った。やっぱり、緊張しているのかな? まあ、何が起きるかは分かり切っているでしょうからね。
「さて……ブライアン殿もお越しになったことだし、そろそろ始めようか、ローザ嬢」
「は、はい……バルサーク様!」
私は真剣な目で私を見ているバルサーク様に、同じような視線を返した。私自身も真剣になっているという証を見せたのだ。護衛のエリーゼさんやヨハンさんも静かに見守ってくれている……バルサーク・ウィンドゥ大公殿下は大きく深呼吸を始めた。
運命の一瞬というやつだろう。私もバルサーク様もきっと、同じように緊張しているはずだ。
「ローザ嬢……いや、ローザ」
「はい。バルサーク様」
「私と……婚約していただけないだろうか?」
予想通りの言葉が私の耳に届いた。お父様の表情は特に変わっていないようだったけれど、眉間のしわは嘘を吐けないようだった。ああ……私のことを大切に思ってくれているのは分かるけど……なんとおうか、複雑だった。でも、私はそんなお父様の前で言わなければならない。自分の率直な意見を……。
「バルサーク様」
「ローザ……何かな?」
「ありがとうございます、とても嬉しいです。でも……本当に、私でよろしいのですか? バルサーク様であれば、もっと相応しい令嬢の方々がいらっしゃるかと思いますが……」
これは私の本心だ。クラウド家は伯爵家でしかない……もちろん、貴族全体から見ればそれなりの地位ではあるけれど。大公殿下と一緒になるとなれば……少しだけ疑問が残るかもしれない。だからこそ、私はバルサーク様に質問をしたのだ。
「もちろんだ、ローザ。私には君しか考えられない」
「バルサーク様……ありがとうございます。バルサーク様との婚約……お受けさせていただきたいと思います」
「そうか……ありがとう、ローザ。私はとても嬉しいよ」
「はい、バルサーク様。私もとても幸せでございます……」
自然と目からは涙が出ていた。しかしこれは、悲しみの涙ではない。バルサーク様との婚約が決まった……これ以上ない程の幸せの涙だった。
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