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22話
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「さて、デナン・モルドレート侯爵」
「はい……バルサーク様」
デナン様は脅え切った動物のように、全身を震わせている。もう、言い逃れ自体が思いつかないのか、それとも自分に掛かってくる責任の重さがどの程度になるのかを考えているのか。
どっちにしても、話している相手がデナン様よりも格上である、バルサーク・ウィンドゥ大公殿下の時点で彼は権力にモノを言わせることが不可能となっていた。
私が相手の時にはあんなにも強力だった権力という名の暴力だけど……今は完全になりを潜めている。
むしろ、怒りのバルサーク様から権力という名の暴力が振るわれてもおかしくない状況だ。それが起こったとしても自業自得でしかないのだから……。
「何か言い分がないのなら、すぐにでも話を進めたいのだが」
「お待ちください、バルサーク様! 私にはリシェルの身勝手な暴走を止められなかった責任が、確かにあると思います! しかし、彼女がここまでのことをするなんて思っていなかったのは確かなのです!」
「デナン様……酷い……!」
最終手段と言えばいいのだろうか。デナン様は自分の罪を少しでも軽くしようと、話を進めていく。リシェルの返答も全く聞いていない様子だった。
「で、ですから……お願いいたします!」
「何をお願いするのだ?」
「私にチャンスをいただけませんでしょうか!? リシェルを監視し、二度とこのような暴走をさせないと誓います! また、それと同時に婚約破棄に関する慰謝料も増額をいたします!」
かなり強引な話だったけれど、傍から聞いている分には、反省の色が出ているようには見えた。ただ、婚約破棄は今回の件とは関係がないので、関係のない話での慰謝料が増額になったからといって、全く意味を成していないけどね。
「咄嗟に考えたにしてはなかなかの言い分だ、デナン殿」
「あ、ありがとうございます! バルサーク様!」
誰も褒めていないはずだけれど、デナン様は明らかに勘違いしていた。だって笑顔になっているし……この張り詰めた雰囲気の中で笑顔になれるなんて、ある意味で特殊な才能の持ち主なのかもしれない。
「誰も礼を言われるようなことは言ってないがな……」
「では、バルサーク様……!」
「もちろん却下だ。貴公の罪とリシェルの罪は別問題。婚約破棄の上、リシェルの暴走の原動力となる執事達まで貸しておいて、言い逃れが出来ると思うな」
「そ、そんな……私は本当に知らなかった! これは事実です……!」
もしかしたら、デナン様がリシェルの暴走に加担していないのは本当かもしれない。でも、それを証明するものがなかった。状況証拠として、彼の部下がローザハウスを占拠してしまったのだから、デナン様は自動的にその全責任を負うことになる。
一般社会でも貴族社会でもその事実は変わらなかった。力なく肩を落とすデナン様だったけれど……彼に手を貸す人物は誰も居なかった。
「はい……バルサーク様」
デナン様は脅え切った動物のように、全身を震わせている。もう、言い逃れ自体が思いつかないのか、それとも自分に掛かってくる責任の重さがどの程度になるのかを考えているのか。
どっちにしても、話している相手がデナン様よりも格上である、バルサーク・ウィンドゥ大公殿下の時点で彼は権力にモノを言わせることが不可能となっていた。
私が相手の時にはあんなにも強力だった権力という名の暴力だけど……今は完全になりを潜めている。
むしろ、怒りのバルサーク様から権力という名の暴力が振るわれてもおかしくない状況だ。それが起こったとしても自業自得でしかないのだから……。
「何か言い分がないのなら、すぐにでも話を進めたいのだが」
「お待ちください、バルサーク様! 私にはリシェルの身勝手な暴走を止められなかった責任が、確かにあると思います! しかし、彼女がここまでのことをするなんて思っていなかったのは確かなのです!」
「デナン様……酷い……!」
最終手段と言えばいいのだろうか。デナン様は自分の罪を少しでも軽くしようと、話を進めていく。リシェルの返答も全く聞いていない様子だった。
「で、ですから……お願いいたします!」
「何をお願いするのだ?」
「私にチャンスをいただけませんでしょうか!? リシェルを監視し、二度とこのような暴走をさせないと誓います! また、それと同時に婚約破棄に関する慰謝料も増額をいたします!」
かなり強引な話だったけれど、傍から聞いている分には、反省の色が出ているようには見えた。ただ、婚約破棄は今回の件とは関係がないので、関係のない話での慰謝料が増額になったからといって、全く意味を成していないけどね。
「咄嗟に考えたにしてはなかなかの言い分だ、デナン殿」
「あ、ありがとうございます! バルサーク様!」
誰も褒めていないはずだけれど、デナン様は明らかに勘違いしていた。だって笑顔になっているし……この張り詰めた雰囲気の中で笑顔になれるなんて、ある意味で特殊な才能の持ち主なのかもしれない。
「誰も礼を言われるようなことは言ってないがな……」
「では、バルサーク様……!」
「もちろん却下だ。貴公の罪とリシェルの罪は別問題。婚約破棄の上、リシェルの暴走の原動力となる執事達まで貸しておいて、言い逃れが出来ると思うな」
「そ、そんな……私は本当に知らなかった! これは事実です……!」
もしかしたら、デナン様がリシェルの暴走に加担していないのは本当かもしれない。でも、それを証明するものがなかった。状況証拠として、彼の部下がローザハウスを占拠してしまったのだから、デナン様は自動的にその全責任を負うことになる。
一般社会でも貴族社会でもその事実は変わらなかった。力なく肩を落とすデナン様だったけれど……彼に手を貸す人物は誰も居なかった。
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