婚約者と妹が酷過ぎるわけでして……

マルローネ

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9話

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「その……つまりだな……」

「は、はい……」

   ああ、どうしよう。バルサーク様の顔をまともに見ることが出来ないわ……。バルサーク様も私とは視線を合わせていないけれど。

   まさかの大公殿下からの告白に私は完全に取り乱してしまっていた。

「ほらほら殿下! ローザ様も待っておられますよ? ここは殿方が先導しなくてはなりませんよ 」

「エリーゼ、そんなことは分かっている……」

「本当に分かっていらっしゃいますか?  殿下は婚約者が居ないという珍しい立ち位置なのですよ?」

    エリーゼと呼ばれた女性のお付き(護衛)の人はバルサーク様を手玉に取っているようだった。

  護衛としては気さく過ぎる印象があるけど、問題はないのかしら? 

「ふふふ、殿下もいよいよということですな。爺は嬉しく思います」

  もう一人の初老の護衛の人もエリーゼさんほどではないにしても相当気さくに接している。バルサーク様も二人に注意をする様子もないし……というより、楽しんでいるような節さえあるわ。


「はははは……なんだか、おかしなご様子ですな。あの、大公殿下殿が……」


 お父様も私と同じく予想外だったのか、苦笑いになっている。


「ああ、申し訳ない。あまり気にしないでもらえると助かる。この二人、エリーゼとヨハンの二人とは長い付き合いだからな。少々気さく過ぎる時もあるが、私の専属の護衛として非常に優秀な二人でもあるのだ。

「なるほど……そうだったのですね」


「エリーゼ・ファウステンと申します。以後、お見知りおきを」

「同じく、ヨハン・ドルトーイと申します。よろしくお願いいたします」

「あ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします」


 二人とも聞いたことがない家名だった。ということは……おそらくは、養成所出身の人達のようね。護衛は貴族出身以外は基本的に、専用の養成所を卒業した者で構成されるはずだから。


「ローザ、そのなんだ……急な告白紛いのことをしてしまったことについては、申し訳なかった。いきなり、私の気持ちを伝えても戸惑ってしまうだろう」

「い、いえ……そんなことは……」

「いや、本当に申し訳ない。詳しい話はまた今度ということになるが、その時は経緯についてちゃんと話すことを約束しよう。それまで、少し待ってくれないか?」


 バルサーク様も勢いで告白? をしてしまい、内心では気持ちの整理がついてないみたいだ。ここは、お待ちするのが礼儀な気がする。ただ、一つだけ……私はどうしても知っておきたいことがあった。


「わ、私のことをその……どちらで、好きになっていただいたのでしょうか? 失礼ながら、私とバルサーク様の接点というのはあまりなかったように思うのですが」

「ああ、それか……それはだな……」


 エリーゼさんとヨハンさんの二人がにやけ始めた。これは……バルサーク様がとんでもないことを言う合図だわ。


「とても多いのだ……ローザ嬢は気付いていなかったかもしれないが。私と君の接点は予想以上に多かった」

「そ、そうなのですか……!? 申し訳ありません、私としたことが……!」

「いや、違う。ローザ嬢は決して悪くはない。悪いのは……私の方だからな……私のいくじがなかっただけなのだ……」

 ど、どういうことかしら? 話が見えてこないわ。


「まあまあ、いいじゃないですか。それよりも、殿下。ローザ様にあのお屋敷をお見せするというのは如何でしょうか? 彼女は今、妹の酷過ぎる仕打ちで参っているのですし」


「あ、うむ。そ、そうだな……よし」


 再び不安になり始めた私……その心の変化を見抜いてか、エリーゼ様が提案を出した。バルサーク様は助けられたような印象を受ける。あの屋敷ってなんのことだろうか?


「ローザ嬢、少し時間はあるか? よければ見てもらいたい物があるのだが……」

「えっ?」


 見てもらいたい物……? それって何処かへ出かけるということよね……私はリシェルに居場所を奪われたばかりなのだけれど。その状態の私に見せたいということは、バルサーク様にとっては余程、大切な物のようね……。


「わかりました、連れて行っていただけますか?」


「ありがとう」


 直感と言えば聞こえは良いのかもしれないけれど……私はバルサーク様をなぜか信じることが出来ていた。というよりは、護衛二人の軽いノリのおかげでもあるんだけれど。
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