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2話

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「フリーダ、帰って来たのか? 久しぶりだな……お、おい……!」

「お兄様……申し訳ありません!」


 御者と共に帰って来た私だけれど、お兄様に合わせる顔がなくてすぐに私室へと走って行った。涙を見られたくなかったからだ。


「ふ、フリーダ様……?」


 私の部屋を清掃していたであろうメイドも、急に入って来た私に驚いているようだった。


「ごめんなさい、外してもらえるかしら?」

「か、畏まりました」


 今は一人になりたい気分だった。お父様達にはもちろん、大好きなお兄様にも会いたい気分ではなかった。私はベガ・ストーム侯爵令息に捨てられたのだ。由緒正しきジェノス家の汚点……私はその存在になりかけていた。いや、過去を遡ってみても、婚約破棄をされた令嬢がどの程度いるだろうか?

 もしかするとジェノス家始まって以来のことかもしれない。私はただベッドに横たわって何も考えないように過ごした。

 それからどのくらい時間が経っただろうか? 何も食べていないのでお腹も空いて来た。どうしよう、メイドに言って何かを持ってきてもらおうかしら。そんなことを考えていると……。急にノックの音が聞こえて来る。


「フリーダ、入っても大丈夫かい?」

「お兄様……?」

「食事を持ってきたよ」

「は、はい。すぐに開けます」


 私はベッドから起きて扉を開けた。扉の外には笑顔のお兄様……アンデル・ジェノス伯爵令息の姿があった。


「入らせてもらうよ。食事にしよう」

「か、畏まりました……」


 兄さま自らが食事を運んできてくれた。私は慌てて座席の用意をする。といっても既にソファは用意されているわけだけど。


「お腹が空いているだろう。冷めないうちに食べようか」

「は、はい……アンデル兄さま」


 兄さまは私の現状について無理に聞き出そうとはしない。私は温かいシチューを口に運んだ。

「美味しい……」


 美味しいのは当然だと思うけれど、なんだか今の私には心の中が癒される味だった。しばらくの間、食事に集中することにする。



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「さて、父上や母上も心配していたぞ?」

「うっ……やはりそうでしたか。申し訳ございません……」


 やはり無駄に心配を掛けてしまったようだ。申し訳ない気持ちになってしまう。


「まあ、大丈夫さ。それでベガ様と喧嘩でもしたのか? 良ければ話してくれないだろうか?」

「アンデル兄さま……」


 私の帰って来た時の態度から、ベガ様絡みのことだとは予想していたようね。隠していてもいずれはバレることだわ。私は兄さまに全てを話すことにした。

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