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「ベガ様、真実の愛とは一体、どういうことでしょうか?」

 私は婚約者のベガ・ストーム侯爵令息に問い詰めていた。彼がいきなり婚約破棄をしてくれと言いだしたからだ。そんなこと許されるわけがない。

「真実の愛はそのままの意味だ。本当に愛する女性は誰なのか……私は悟ってしまったのだよ。分かってくれフリーダ」

「本当に愛すべき女性は私ではなかったということでしょうか?」

「そういうことになるな。私が本当に愛すべき女性は、フリーダ・ジェノス伯爵令嬢ではなく、マリン・フォーグ公爵令嬢ということになるわけだ」


 マリン・フォーグ公爵令嬢……私よりはるかに格上の貴族女性だ。というより、ベガ様よりも格上の女性になる。これは本当に真実の愛なのだろうか……?


「本当に真実の愛なのですか? 彼女の……マリン様の地位に惚れたのでは?」

「そんなこと貴族では当たり前だろう? より高位の女性に見惚れると言うのはめずらしい話ではない。それらも含めて真実の愛という意味さ」

「うっ……ベガ様……!」


 貴族では家柄を重視するのは当然かもしれない。私だって人のことは言えないのだから。しかし、婚約してから急に婚約破棄だなんて……納得いくはずがなかった。


「フリーダよ、お前もなかなか良い女だったが、マリン嬢には敵わない。どうだ? 正室ではないが、側室としてなら今後も一緒にいてやるが? ん?」

「ふざけないでください……誰が側室なんて……」


 ベガ様がこんな人だったなんて知らなかった。失望が私の身体を駆け巡る。こんな酷い人の側室なんて死んでもごめんだわ。


「そうか……残念だよ、フリーダ。ならばすぐにでも出て行ってもらえるか? 交渉は決裂したわけだからな。慰謝料も支払ってやる義務はない」

「えっ、慰謝料を支払わない? そんなことが許されるわけが……!」

「お前は私からの提案を拒否するんだろう? そんな女に慈悲をかけてやる必要などないからな。側室になるのなら、慰謝料は払ってやろう。どうだ?」

「……!」


 ベガ様は完全に私を馬鹿にしていた。こんな屈辱は初めてだわ……こんな人から貰うお金はきっと汚れているに違いない。

「わかりました……丁重に側室の件は断らせていただきます」

「なるほど、では、慰謝料の件も白紙だな。残念なことだ」

「ベガ様……こんなことをして、無事で済むと思わないでくださいね? いつか天罰が下りますよ?」

「はははは、天罰か。残念ながら私は神の存在は認めていないのだよ。我々貴族が神のような存在だからな」


 ベガ様は大笑いしていた。これ以上この人と話すのは無意味だわ……私は荷物をまとめて屋敷から出て行く。目には大粒の涙が溢れていた。
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