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1話
しおりを挟む「ベガ様、真実の愛とは一体、どういうことでしょうか?」
私は婚約者のベガ・ストーム侯爵令息に問い詰めていた。彼がいきなり婚約破棄をしてくれと言いだしたからだ。そんなこと許されるわけがない。
「真実の愛はそのままの意味だ。本当に愛する女性は誰なのか……私は悟ってしまったのだよ。分かってくれフリーダ」
「本当に愛すべき女性は私ではなかったということでしょうか?」
「そういうことになるな。私が本当に愛すべき女性は、フリーダ・ジェノス伯爵令嬢ではなく、マリン・フォーグ公爵令嬢ということになるわけだ」
マリン・フォーグ公爵令嬢……私よりはるかに格上の貴族女性だ。というより、ベガ様よりも格上の女性になる。これは本当に真実の愛なのだろうか……?
「本当に真実の愛なのですか? 彼女の……マリン様の地位に惚れたのでは?」
「そんなこと貴族では当たり前だろう? より高位の女性に見惚れると言うのはめずらしい話ではない。それらも含めて真実の愛という意味さ」
「うっ……ベガ様……!」
貴族では家柄を重視するのは当然かもしれない。私だって人のことは言えないのだから。しかし、婚約してから急に婚約破棄だなんて……納得いくはずがなかった。
「フリーダよ、お前もなかなか良い女だったが、マリン嬢には敵わない。どうだ? 正室ではないが、側室としてなら今後も一緒にいてやるが? ん?」
「ふざけないでください……誰が側室なんて……」
ベガ様がこんな人だったなんて知らなかった。失望が私の身体を駆け巡る。こんな酷い人の側室なんて死んでもごめんだわ。
「そうか……残念だよ、フリーダ。ならばすぐにでも出て行ってもらえるか? 交渉は決裂したわけだからな。慰謝料も支払ってやる義務はない」
「えっ、慰謝料を支払わない? そんなことが許されるわけが……!」
「お前は私からの提案を拒否するんだろう? そんな女に慈悲をかけてやる必要などないからな。側室になるのなら、慰謝料は払ってやろう。どうだ?」
「……!」
ベガ様は完全に私を馬鹿にしていた。こんな屈辱は初めてだわ……こんな人から貰うお金はきっと汚れているに違いない。
「わかりました……丁重に側室の件は断らせていただきます」
「なるほど、では、慰謝料の件も白紙だな。残念なことだ」
「ベガ様……こんなことをして、無事で済むと思わないでくださいね? いつか天罰が下りますよ?」
「はははは、天罰か。残念ながら私は神の存在は認めていないのだよ。我々貴族が神のような存在だからな」
ベガ様は大笑いしていた。これ以上この人と話すのは無意味だわ……私は荷物をまとめて屋敷から出て行く。目には大粒の涙が溢れていた。
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