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4話

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「く、クリス・トラシェル王子殿下……?」

「おや、君は……アニエ・ウィルバーク侯爵令嬢じゃないか。久しぶり……と言えばいいのかな?」

「は、はい……お久しぶりでございます!」


 突然の第一王子殿下との対面。私は緊張感を持ちながら挨拶をした。私の名前を覚えてくれていたのは嬉しい事柄だ。彼は20歳なので王太子にはなっていないけれど、将来のトラシェル王国を導く存在として知れ渡っていたりする。


「いつかのパーティー以来か。こんなところで出会うとは、ふふ、偶然とはおそろしいものだな」

「は、はい……左様でございますね。私も王子殿下にお会いできてうれしく思います」

「ああ、ありがとう。アニエ嬢」


 以前に出会ったのはおそらく、ネレイド河川の成功パーティーでだろうけれど、王子殿下ともなれば数々のパーティーに出席するだろうから覚えていないのだろう。


「本日は視察かなにかになりますか?」

「そうだな。この大規模な河川事業が成功しているのかどうかを見に来た。我がトラシェル王国も少なくない金額を支出しているのでな。第一王子の仕事と言えば、まずは視察になるだろう」

「あはは、左様でございますね」


 そうか……各貴族だけでなくトラシェル王家も金銭面での支出をしていたんだ。それならばネレイド河川に視察に来てもおかしくはないわね。

「ウォン・バーカー現場監督の報告では事業そのものは成功しているとのことです」

「ウォン・バーカー? 現場監督のことか」

「ええ、王子殿下……私がウォン・バーカーです」


 クリス様はウォンさんを見て笑顔になった。


「ああ、現場監督というわけだな。このような大規模な事業に参加していただきありがたい気持ちでいっぱいだ」

「そんな……とんでもないお言葉です。それに見合うだけの給料を得てますし……第一王子殿下からお褒めの言葉をいただければ、貰い過ぎと言うものですぜ」

「ふふ、そうだったか」


 クリス様は流石の態度と言えた。目上の者に対する態度ではないウォンさんだけれど、クリス様は全く気にしている素振りがなかったからだ。次代の国王陛下という存在はそのくらい大らかである必要があるのだろうか。

「さて……アニエ嬢。こうして出会えたのも何かの縁だし。このまま一緒に視察をしないか?」

「はい、畏まりました! ご一緒させていただきます。クリス様!」

「ふふ、ありがとう。では、さっそく行くとしようか」

「はい!」

「おやおや……これは隅に置けない展開ですね……」

「ちょっと……ウォンさん!」

「ああ、これは申し訳ないです!」

「ははは、楽しそうだな」


 ウォンさんにからかわれながらも私とクリス第一王子殿下の視察は始まった。
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