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9話

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「ええと……ロック様……?」

「なんとか、引き離すことに成功したか。済まない、なんだか利用する形になってしまって」

「いえ、とんでもないことですわ、ロック様。私やランゼもあの場所では話したくなかったので」

「そう言ってもらえると嬉しいな」


 ロック様の言い分は確かに納得できるものだった。婚約破棄をした張本人であるグランド様の前で思い出話なんてしたくなかったから。そういう意味では端に行こうというロック様の提案は最善策だったというわけだ。


「しかし……敬語で話されると気を遣ってしまうな。会場の端に行ったのだから、普通に話して欲しいんだが……」

「いえ、それは流石に……」

「うふふふ、ロック様は私からの厳しい言葉を期待しているのですか?」

「いや……それは流石に勘弁して欲しいかな。私も第三王子という立場にあるのだし……ははは」


 シルフィ姉さまは確かに昔はロック様に厳しく当たっていたと思う。少なくとも敬語なんて使っていなかったわね。手を出した事実もあるくらいだし……今、そんなことをすれば大問題になるだろうけれど。その辺りはシルフィ姉さまも分かっているようだ。

「しかし……ランゼ」

「はい、なんでしょうか?」

「先ほどのグランド殿を前にして言うのもなんだが……彼に婚約破棄をされたって?」

「あ、それは……そうですね。正しいことだと思います」


 流石に第三王子殿下ともなれば情報が伝わるのが早いわね。否定しても意味がないので、私は素直に頷くことにした。

「そうか……しかし、グランド殿はウィルナ嬢と付き合っているようだったが」

「それに関しては……ええと」


 私も言いにくい領域に来ていた。少し言葉を濁していると……。


「既に予想がついているかもしれませんが、妹のランゼは捨てられた形になります。一方的で身勝手な婚約破棄になりますわね」

「姉さま……」

「なんと、そういうことだったか!」


 私が言いにくそうにしていたのを感じ取ってくれたのか、シルフィ姉さまが代わりに言ってくれた。これだけでも感謝しないといけないわね。

「ふむ……そううことか。ランゼもシルフィが言ったことに間違いはないと言うことかな?」


 念のために私にも意見を求めて来るロック様。この辺りは流石だと思える。

「はい。姉さまの言葉に間違いはありません」

「そうか……う~む、難しいところだが……」


 いくらロック様と言えども、個人でなにか制裁を下すことは難しいと思われる。それだけに、悩んでいるのかもしれない。


「父上に申し出れば、いくらでも制裁を課せられるだろうが……そんなことはランゼも望んでいないだろう?」

「そうですね。あんまり大事になるのは……望んでいないことです」

「そうだろうな」


 あんまり大事になるのを望んでいないことは事実だった。大事になるにつれて、ロック様やシルフィ姉さま……それどころか、お父様やお母様にも迷惑が掛かるだろうから。あんまり大事になるのは望んでいない。


「まあ、いいさ。私としても今回の件を大事にするつもりはない。しかし……そうだな」

「ロック様……?」


 ロック様は何かを考えている様子だった。私はそれが気になり質問してしまう。


「ええと……ランゼ、私と婚約してくれないかな?」

「えっ……?」


 私は何を言われたのか、最初は分からなかった……。

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