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12話 そういう問題ではない その1

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「アレクセイ殿、リリム嬢。せっかく来ていただいたのに申し訳ないですが……トーマスの意志は固いようです。申し訳ないが、婚約解消に応じるわけにはいきませんな」

「なっ……! カエサル殿! ご自分が何をおっしゃっているのか、お分かりなのですか……?」

「ええ、もちろんですとも。我が息子、トーマスは公爵家の長男です。そんな人物がリリム嬢のことを、心から愛しているというのですから、それはむしろ、喜ぶべきことでしょう?」

「それは……」


 言っていることが滅茶苦茶だ……おそらく、カエサル様の主旨としては公爵家の息子が下位である伯爵家の娘に惚れているのだから、多少のことは水に流せと言いたいんだろうけれど。

「カエサル殿。確かに、トーマス様はリリムを愛しているようですね。それは大変、光栄なことでございます。ただし、浮気癖がなければ……ですが。その件についても、手紙には記載していたでしょう?」

「そう言えば書かれていましたな。浮気癖か……ふむ」


 カエサル様は偉そうに足を組みながら、考えをまとめているようだ。よく、ファング王子殿下の前でそんな態度が取れると思うけど、先ほどのファング様の言葉を鵜呑みにして、彼は存在しないものとして話を進めているのかもしれない。流石に居ないものと考えるのは失礼過ぎる気がするけれど、カエサル様の態度はまさにそんな感じだった。

 私とお父様しか居ない為に、自分に権力で勝る者は居ない……みたいな感じかな。


「では、トーマスに浮気を辞めさせれば良いというわけですね? それで全ては解決というわけだ」

「いえ、それは少し強引では……」

「トーマス、浮気はもうやめなさい」


 お父様の言葉を遮るように、カエサル様はトーマス様に話していた。完全に私達の意見を軽く見ている証拠だ。トーマス様はカエサル様の言葉に軽く頷いている。


「承知しました、父上。まあ、この約束は既にリリムにもしているのですが……なぜか、彼女は逃げ出してしまって」

「なんだそうだったのか。まったく……まあいい。これでよろしいでしょうか? トーマスは今後、浮気をしないと誓うようですので」


 なんて軽い約束なんだろうか……完全に舐められている。カエサル様……息子に甘すぎない?


「カエサル殿……そんな口約束を信じろと言うのですか? リリムは聞いたところ、何度もトーマス様とそんなやり取りをしていると聞きます。しかし、トーマス様が浮気をやめることはなかったと。それと、我が屋敷での彼の態度を鑑みるに話はそう単純なものではないのです」

「何をおっしゃっているのですか……? まあ、トーマスの態度については後で謝罪させましょう。これで解決でしょう」


 意地でも婚約解消には踏み込まないつもりね……お父様の言う通り、もうそんな単純な約束で解決できるラインは超えてしまっている。その辺りを分からせないと駄目ね。
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