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2話 悲しみの王女

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「スターク・チャンドラー公爵令息とアイシャ・シルバーク公爵令嬢ね……なるほど」


 スタークとの婚約が解消になった私は、首都アスターレに戻って来ていた。婚約解消の話は既に配下の者達を通して、宮殿内に伝わっているはずだ。

 私は現在、自室で資料を読んでいた。

「アイシャ嬢はスタークと幼馴染というのは本当みたいね……幼い頃には、何年かこの国で生活していた時があるんだ」

 資料を見る限りだと、スタークとアイシャ嬢は深い絆で結ばれているように思える。幼馴染というのはそれだけで、結びつきが強くなるものだし……幼い頃の記憶程、美化しやすいというか強く残るというか。

「私も似たような経験があるから、気持ちは分かるけれどね……」


 でもまさか、スタークが幼馴染を選んでそちらと婚約すると、言い出すなんて思わなかった。立場の話をすることはしなかったけれど、私は王女でスタークは公爵令息になる。その為に、立場的には向こうが下というわけだ。王家からの印象が悪くなっても構わないということか。

 いえ、そうじゃないわね……アイシャ嬢もフォビトン王国では大貴族の家系だ。だから、フォビトン王国と関係性を強める意味合いでスタークは彼女と一緒になる。まあ、表向きのストーリーはそういうことなんでしょうね。

 本当は単にアイシャに愛情が傾いただけなんだろうけど。


「ファリス、入っても大丈夫か?」


 その時、自室のドアをノックする音がした。この声は……ハウル・カリストロ兄さまだ。

「あ、はい。どうぞお入りください、ハウル兄さま」

「ああ、失礼するぞ」


 カリストロ王国の第二王子であるハウル兄さまが入って来た。私のことを心配して来てくれたのかしら?


「話は聞いている……予想していなかったことだけに、私も驚いているよ」

「はい……そうですね」

 ハウル兄さまは何とも言い難い表情になっていた。予想できない事態というのは納得できる。私もまったく予想していなかったから婚約解消なんて……。

「まさか、スターク・チャンドラー公爵令息との婚約がなくなるとは思ってもみませんでした……」

「父上や母上も同じ印象を持つだろう。まさか、スターク殿がそんなことをするなんてな」

「はい……」


 お父様とお母様は今は宮殿に居ないらしいので、まだ連絡は届いていないかもしれなかった。ただし、話を聞いたらハウル兄さまと同じような反応はするんでしょうね。

「ファリス……あまり無理はするなよ? 私達はお前の味方だ。悲しければ、いつでも胸を貸そう」

「それなら……今、貸して頂いてもよろしいですか?」

「おやおや、いきなり甘えん坊になったな」

 私はそのままハウル兄さまの大きな胸に顔を埋めた。スタークとの婚約解消は私にとって、かなりショックが大きかったのだ……理由が理由だけに。

「ファリス、お前の味方は多い。悲しみが生まれるのであれば、遠慮なく頼っていけ。私でなくてもな」

「はい……ありがとうございます……兄さま」


 私はしばらく間、ハウル兄さまの胸を借りることにした。こんなことをするのは何時以来だろうか? 私は現在16歳だから……思い出せないくらい前なことは間違いないけれど、偶には胸を借りるのも心地良かった。
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