上 下
2 / 3

2話 王太子殿下 その1

しおりを挟む

「アラン・リクジール王太子殿下……ご機嫌麗しゅうございます」

「うん、ありがとう。それにしても……」


 アラン王太子殿下がメトロポス伯爵家に来てくれた。アラン王太子殿下はリクジール王国の次期国王陛下だ。そんな人がたかが伯爵家に来る時点で凄いことなんだけれど。まあ、彼と私は幼馴染の関係だから、こういう奇跡が起きているのだと思う。

 彼とは応接室で話をしている。お父様達の姿はない。

「はい? 如何なさいましたか?」

「なんでそんなに畏まっているんだ? 普通に話してくれて構わないぞ」

「え、ええと……」


 アラン王太子殿下の性格的にそういうと思ったけれど……彼と普通に話すのはなかなか勇気がいる行為だ。でも、アラン王太子殿下が言っていることを無視するわけにもいかないし。

「本当に良いの……?」

「ああ、構わないよ。昔は私のことを叩いていたじゃないか。あの頃のフィリスに戻ってくれよ」

「い、いつの話をしているのよ、もう!」

「ははははっ、その意気だよ」


 周囲に立っている護衛の人達も笑っているようだ。昔の思い出を話すのは良いけれど、時と場合を考えて欲しい。まったく……まあ、空気は和んだけれど。

「そ、それじゃあお言葉に甘えるけれど……アラン」

「なんだい、フィリス?」

「こうして話すのは久しぶりよね。あなたが王太子殿下になってからは初めてじゃないかしら?」

「そうだな……色々と忙しかったからね」

「ええ、そうでしょうね」


 アランは私とは違って王太子になっている。まだ未婚みたいだけれど、そこに至るまではかなりの苦労があったはずだ。年齢は私と同じ18歳のはずなのに、彼の言動はもっと大人に見える。


「それで……本日の用件っていうのは……」

「大体分かっているかと思うが、オルドー・マークス公爵との婚約破棄に関してのことだよ。詳細を知りたい思ってね」

 やっぱりその話か……まあ、タイミング的に彼が来る理由がそれしか考えられないけれど。


「聖女の能力は異端として私は追放されたの……本当にびっくりしたわ」

「異端? 聖女の能力が? オルドーは何を考えているんだ……国境線の守りの要だったんだろう、君の守護方陣は」

「そうらしいけれど、お前なんか居なくても自分の兵力だけで守りは完璧だと言われたわ。聖女を手にした幸運な公爵という呼ばれ方が嫌いだったみたいね」

「……それはつまり、オルドーはプライドが傷付けられるから、君を追放したのか?」

「そんな感じだと思うわ」

「なんということだ……そんなことで、フィリスと婚約破棄をするとは……」

 アランはとても怪訝な表情をしていた。私としてもオルドー様の婚約破棄理由は信じられない。ハッキリ言って不快というか悲しいというか……そんな感情が渦巻いてしまっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢のでっちあげ

チャららA12・山もり
恋愛
乙女ゲームのヒロインになりましたが、バッドエンド目の前です!

本当の聖女が現れたからと聖女をクビになって婚約破棄されました。なので隣国皇子と一緒になります。

福留しゅん
恋愛
辺境伯の娘でありながら聖女兼王太子妃となるべく教育を受けてきたクラウディアだったが、突然婚約者の王太子から婚約破棄される。なんでも人工的に聖女になったクラウディアより本当の聖女として覚醒した公爵令嬢が相応しいんだとか。別に王太子との付き合いは義務だったし散々こけにされていたので大人しく婚約破棄を受け入れたものの、王命で婚約続行される最悪の未来に不安になる。そこで父の辺境伯に報告したところ、その解決策として紹介されたのはかつてほのかに恋した隣国皇子だった――というお話。

今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか? だったらいい機会です、さようなら!!

久遠りも
恋愛
今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか? ...だったら、いい機会です、さようなら!! 二話完結です。 ※ゆるゆる設定です。 ※誤字脱字等あればお気軽にご指摘ください。

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...