上 下
1 / 24

1話 婚約破棄を言い渡された

しおりを挟む

「婚約破棄でございますか!?」

 私は突然言われたその言葉を理解することが出来なかった。目の前にいる婚約者、リガイン・ブローフェルト公爵からの言葉だ。彼は最近、公爵の地位に就いた若き当主だった。

 そんなお方からの突然の婚約破棄宣言……ダメだ、思考が追い付かない。


「その通りだ、フォルナよ。私には別に好きな女性が出来た。幼馴染の関係ではあるのだが、その者と結婚しようと思う。お前とは今日限りでお別れだ、今までご苦労だったな」

「お、お待ちください……! いくら好きな女性が出来たと言われても、いきなり婚約破棄だなんて……納得できません!」

「納得しようがしまいが、これは決定事項だ。お前がどれだけ喚こうとも、結果は変わらないさ」

「そ、そんな……」

 リガイン様は全く罪悪感を感じている様子がない。信じられない……婚約していた時期はまだ2カ月に満たないけれど、それでも信頼関係を構築出来たと思っていたのに。

「幼馴染の方は……なんというお方なんですか?」

「そんなことを知ってどうするのだ? まあ、構わないが……マリーヌ・セドラ侯爵令嬢だよ」

「マリーヌ様……」

 マリーヌ嬢は地位で言えば私と同じになる。幼馴染……確かに良い響きだ。私も幼馴染と聞いて、思い浮かべる人が居るくらいだから。

「マリーヌ様とこれからは一緒になる……ということなんですか? その決意は揺るがない、と……?」

「そうだな……私としても残念に思うよ、フォルナ。お前は気立ても悪くないし、努力家だった。本来はお前と共に生きたいと思ってはいたのだが……人の心は変わるものだからな」

「左様でございますか……」

 良い言葉を見繕ってはいるけれど、私は蔑んだ目で彼を見ていた。アッバース家の名誉が傷付けられてしまう……そのことを彼は、全く罪に感じていないのだから。


 リガイン・ブローフェルト公爵……公爵を襲名して気が大きくなっているのかもしれない。ある種の万能感に酔いしれているのだろうか。まあ、今さらそんなことはどうでも良いけれど……。

「リガイン様、私は失礼させていただきます。どうか、幼馴染の令嬢と仲良くやってくださいませ」

「ふっ、言われなくともな。それではまた会おう、フォルナ。次に会えるのはパーティー会場でかな? ははははははっ」

「……っ!」

 リガイン様は悪びれるどころか、私を馬鹿にしている風でもあった。こんな酷いことを言う人だったなんて……もうこんな場所には居られない。

 私はすぐに彼の部屋を出ると、そのまま馬車に乗って帰ることにした。目からは大粒の涙を流しながら……。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で構いませんが国は頂戴いたします。

亜綺羅もも
恋愛
ローザ・エクリールはにはミルコ・エミューゼという婚約者がいる。 彼は人を人とは思わないどうしようもない人間で、常に周囲を困らせるような人であった。 そして一番の問題は、彼が次の国王となるという事実。 ミルコに文句を言うことも、不平を唱えることも許されなかった。 そんなある日、ローザはある人間の提案でとある人物と会うこととなる。 それは平民であるニケという青年。 彼の顔はミルコに瓜二つで見た目はどちらか区別がつかないほどであった。 ローザとニケの出逢い。 二人が出会い、惹かれ合うことによって、大きな計画が動き出すのであった。

婚約破棄ですか?聞き飽きましたのでお好きになさってくださる?

うめまつ
恋愛
婚約破棄が口癖のだめんずに飽きた伯爵令嬢。 ※タイトルと中身が迷走中で申し訳ないです。 ※完結しました。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

婚約破棄されました。あとは知りません

天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。 皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。 聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。 「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」 その時… ---------------------- 初めての婚約破棄ざまぁものです。 --------------------------- お気に入り登録200突破ありがとうございます。 ------------------------------- 【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】

婚約破棄?上等よ!─気づいたときにはもう遅いんですよ?

R.K.
恋愛
一人の女の子の復讐までの物語 婚約破棄を告げられ、私は復讐することを誓った。

婚約破棄されましたが全てが計画通りですわ~嵌められたなどと言わないでください、王子殿下。私を悪女と呼んだのはあなたですわ~

メルメア
恋愛
「僕は君のような悪女を愛せない」。 尊大で自分勝手な第一王子クラントから婚約破棄を告げられたマーガレット。 クラントはマーガレットの侍女シエルを新たな婚約者に指名する。 並んで立ち勝ち誇ったような笑顔を浮かべるクラントとシエルだったが、2人はマーガレットの計画通りに動いているだけで……。

美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……。

四季
恋愛
美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……とんでもないものでした。

処理中です...