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52:ふふふ

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「うっわぁぁぁぁ」
「すごぉーい!」

 山を登り出して初めて四日目。
 右を見ても左を見ても、前も後ろも山だらけ!
 でも私とクリフが驚いているのは、そんなことじゃない。

 私たちの乗る馬車が進むその先には、ぽっかりと空いた洞窟──ううん、トンネルがあった!
 形はまさに私が知るトンネルそのもの。
 ただコンクリートで固められているとかじゃなく、岩が剥き出しの状態。

「ここを抜ければ街までもうすぐだ」
「まさか山を貫通しているの?」
「あぁ。山越えをするには、山頂付近まで登ることになる。馬車はもちろん、徒歩でもなかなか険しい道のりだ」

 グレン卿がそう言うと、彼は西の方を指差した。
 その方角に、比較的緩やかな山道があるらしい。だけどそこまで行って街に向かうと、追加で十日ほどかかるんだとか。

 それでトンネルが掘られることになったのだけど、これがまさかの──

「魔法でぶち抜いた」
「ひえぇーっ。ま、魔法で!?」
「あぁ。大地の魔法を使えば、穴は案外簡単に開く。らしい」

 最後のらしいって……まぁグレン卿も実際に見たわけじゃないってことよね。
 はぁー、この世界のトンネルは、魔法なのねぇ。

 トンネルの中には、転々と明かりが灯されている。
 松明でもないし、もちろん電気でもない。
 何かと思ったら、石が光ってる?

「あれは魔石だ。それに光の魔法を閉じ込めると、ああやって明るくなる」
「え、あれって光魔法なんですか?」

 グレンの言葉に興味を持ったのはクリフ。
 自分も光魔法の適正があるから、気になるのね。

「あぁ。一度魔法を閉じ込めると、だいたい十日ほど光るらしい」
「え、じゃあ定期的に魔法を使わなきゃいけないのね」

 グレン卿が頷き、北部で光魔法を使える数名が、交代でやっているんだって。
 なかなか大変ね。

 でも……もうかなり長いこと進んでるのに、まぁだ外に出ないんだけど。

 まだ?
 まだなの?

 かれこれ三〇分はトンネルの中なんだけど、さすがに怖くなってきた。
 本当はこれ、出口なんてないんじゃって。

 でもそれからしばらくして、

「姉さま! 出口が見えてきましたっ」
「え? 本当に!? ああぁぁ、明かりだぁ」
「ようやくですね。もう私、このまま闇の中を彷徨うんじゃないかと不安でした」

 とローラが言うけど、それに関しては同意よ。
 転々と明かりがあっても、全体的には暗かったもの。
 ほんと、怖かったぁ。

 久々の太陽が凄く眩しい。
 はぁ、でもこれで一安心ね。

 と思ったのもつかの間。

「警戒!」

 グレン卿の一言で、北部から来た騎士たちが一斉に剣を構える。

「ルシアナ様。魔獣は近くにおります」
「え、魔獣!?」

 アッシュ卿も剣を抜いて馬車の傍へとやって来た。
 馬車が止まり、騎士たちが周囲に視線を送る。

 ここで戦闘になるの?

「おい。お前たちは魔獣との戦闘経験はあるのか?」

 グレン卿の質問にアッシュ卿は頷く。
 え? うちの騎士団って魔獣と戦ったことがあるの!?

「ですがわたしだけです。鉱山の近くの山で、何度かは」
「そうか。なら他の三人は出来るだけ補佐に回れ」

 アッシュ卿だけなのね。
 他の三人は凄く緊張しているみたいだけど、大丈夫かしら。
 どうにかして緊張をほぐしてあげられればいいけど……おぉ、そうだ!
 
「みんな、こっちに来て」
「お嬢様?」

 うちの騎士四人が集まる。
 そこに、えいやっと魔法陣を出した。

「こ、これは?」
「これは聖女様の、ありがたーい祝福の魔法──のパクリよ!」
「パ、パクリ?」

 ふっふっふ。だって私が見た魔法陣が、エリーシャの祝福の魔法陣なんだもん。
 だからパクリよ、パクリ。

「おぉ、これは──勇気が湧いてくる」
「これが祝福の魔法の効果……これならいけそうです!」
「でも無茶はしないで。まずは魔獣狩りに慣れた騎士の戦い方をよく見て学ぶのよ」
「「はい」」

 そうはいったものの、実は私が緊張している。
 魔獣なんて見たことがないんだもん、怖いに決まってるじゃない。

 獣が狂暴化したものだって話も聞いたことがあるけど、じゃあ見た目は動物?

 そんなことを考えていると、左奥の茂みが鳴った。
 飛び出してきたのは狼──じゃなく、狼男みたいに二足歩行の狼!?

 が、茂みから飛び出してきて、氷漬けにされた。
 んー、これはグレン卿、よね?

 見ると彼の周りに青白いオーラみたいなのが見える。
 うん、氷の魔法ね。

 だけど飛び出してきたのは他にも三体いた。更に別の方角からも!?

 どうしよう。騎士の人数より魔獣の方が多い。
 
 そんな不安も一瞬で終わった。
 北部からの騎士たちは顔色一つ変えず、平然と魔獣を切り伏せる。
 うちの騎士たちもアッシュ卿を中心に、確実に魔獣を倒していった。

 ちょ、うちの騎士たちカッコいい!

「ねぇねぇ。うちの騎士たちもまんざらじゃないわね。見直しちゃった」

 私がそう言うと、ローラがある一点を見つめて頬を染めた。

「はい。アッシュ卿、素敵です」

 ふーん。
 ふーん。
 アッシュ卿ねぇ。ふふふ。
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