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47:最後には折れてくれた

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「うわぁお! 本当にベンジャミン皇子から、償いの品が届いたわ」
「と言っても、これはもともとお嬢様のために皇室がご用意した品々ですし」

 婚約破棄のイベントから五日後、我が家に皇室からたくさんの荷物が届いた。
 それと一緒に、正式な婚約破棄の書類もだ。
 これに私とお父さまがサインすれば、無事に婚約破棄が成立する。

「ルシアナ……本当にいいのかい? いまならまだ撤回は出来るんだよ?」
「お父さまは私に愛のない結婚生活を送れといいたいの? しかも夫の浮気相手は、私の友達なのよ!」
「うっ、それは……」
「そもそも惚れっぽい性格の皇子だったのよ? 幸せな結婚生活なんて、待っている訳ないんだから」

 私のサインはもうしてある。届いたその瞬間にペンを走らせたから。

「恋愛結婚がしたいとは言わないから、せめて惚れっぽくもない、私だけを見てくれる人と結婚したいの」
「ルシアナ……分かった。お前はまだ若い。そう焦ることもないし、恋愛結婚だって夢じゃないさ」
「出会いがあればねぇ」

 皇太子の婚約者として振舞わなくても良くなったし、当分は社交界に顔を出す気はない。
 社交界に行かなかったら、貴族の令嬢なんかに出会いの場は早々ないもんねぇ。
 
「そういえばお父さま、お仕事の方はどうなの?」
「おぉ、そうだ! 聞いてくれルシアナ。今年の小麦の収穫量が、去年の十倍にもなったそうなんだ!」
「じゅ、十倍!? 凄すぎない!?」
「凄いと思うだろう。だけど以前の収穫量と比較すると、まだ若干少ないぐらいなんだよ」

 ここ数年がどれだけ悲惨だったか、分かる数字ね。
 だけど十倍の収穫量が得られたことで、領民たちにも十分な賃金が払えるようになったとか。
 これで領民を飢えさせずに済むわね。

 ほんと、司祭様たちに感謝しなきゃ。
 それとグレン卿にも。

 そういえば、彼に早く返事をしなきゃね。
 王都にあるリュグライド公爵の別宅に身を寄せているって言ってたし、今日中にお返事しよう。
 その為にもまずは──

「お父さま、お願いがあるの」
「ん? ルシアナのお願いか? よし、なんでも言ってみなさい。傷心のお前の心を癒す為なら、パパなんでも買ってあげるよ」
「ちょっと景気が良くなったからって調子に乗らないでねお父さま」
「は……い。すみません」

 お母さまの浪費癖は、お父さまにも責任があったのかもしれない。
 
「私のお願いは、北部に行くことです」
「……ほく……え?」
「北部にあるお城みたいな別荘、あれをリュグライド公爵様が買い取ってくださるかもしれないの。その前に一度行って、別荘暮らしを満喫しようと思って」

 今回の件を忘れるためにも、王都から遠い北部は丁度いい。
 あとグレン卿曰く、

「傷ついた心を癒すのではなく、カチンコチンに凍らせて後で叩き割るために、ね」

 グレン卿の口から、カチンコチンなんて言葉が出て来るとは思わなくって、あの時は笑っちゃった。

「し、しかし北部は──」
「魔獣の事を心配しているのよね? 大丈夫。公爵様の知り合いの方が、向こうで護衛を用意してくださるの。その為の費用は、これで賄うから!」

 これ──とは、ベンジャミン皇子が不義の償いとして送ってきた、元々私のために用意されたという宝石の数々。
 これぐらいあったら、護衛をワンシーズン雇う金額として十分すぎるほどあると思う。

 それでもなかなか首を縦に振ってくれないお父さまだったけれど、最後には折れてくれた。

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