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25:まさか……気づかれたの?

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「おい」
「しーっ」
「……おい」

 ん? この「おい」から始まるのは……。

「謎の黒い、じゃなかった、グレン卿!? 北部に戻られたのではないのですか?」
「いや」
「まだ帰らないってことですか?」
「来月まで」

 あぁ、グレン卿も貴族のようだし、ベンジャミン皇子の誕生日パーティーには出席するってことね。

「なにをしている?」
「んー、ちょっと気になることがありまして」

 植木の陰からブティックを覗く。

「祝福魔法の女?」
「エリーシャさんです。ずっと私が彼女の名前呼んでいたでしょ?」

 そう言うと、グレン卿はばつが悪そうな顔してそっぽを向いた。
 この人、他人の名前を覚えるの苦手な人なのね。

「それで……どうした?」
「えぇ、一緒にいるのは彼女の姉なのですが」
「似てない」
「腹違いなんです」

 すると、グレンは「あぁ」と小さく納得したように呟く。
 そして、

「だから荷物持ちか」

 冷たい声でそう言った。

 視線を店内に戻す。店員が話しかけているのは姉のほうにだけ。
 間違いない。
 ドレスは姉の分だけで、エリーシャの分はないんだわ。

 原作でも彼女は、皇子の誕生日パーティーに古めかしいドレスを着せられて参加した。
 それが恥ずかしくて、彼女は庭園に出たのだから。
 そこでベンジャミン皇子と出会うことになる。

 ちなみに悪役令嬢ことルシアナがエリーシャを虐めたのは、この現場を見られていたから。
 あとルシアナは、古めかしいドレスに関してけちょんけちょんにしている。
 ルシアナに限らず、大勢が、ううん、ベンジャミン皇子以外はそのドレスを貶してたのよ。

 まずはドレスね。
 ふふ、この悪役令嬢様に任せなさい!

「グレン卿も、皇太子殿下の誕生日パーティーに出席なさるのでしょう?」

 そう尋ねると、彼の不愛想な顔が暗転。
 え、なんかめちゃくちゃ嫌そうな顔してる。

「嫌いだ」

 嫌い? パーティーが嫌い? それとも皇子が?
 いや、この質問は止めておこう。

「北部ではパーティーに参加されないのですか?」
「……宴会はある。パーティーはない」

 宴会……飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎかな。

「嫌いというか、もしかして苦手ってことで?」

 そう尋ねると、グレン卿は驚いたように目を丸くした。
 それからこくりと頷く。

「まぁ、私もあんまり好きじゃないんですよね、パーティーって」
「意外だ」
「ですよねー。まぁこの一年、片っ端からパーティーに参加していましたけど」

 気が滅入るような思いで、ほぼ毎週のようにパーティーに参加していたわ。
 
「それは、あいつの──ベンジャミン第一皇子の婚約者になるためか?」

 金色の瞳がまっすぐ私を見つめる。
 見透かされているような、そんな気にさせられた。

「えぇ、そう」

 短く答える。その通りなのだから、これ以上答えようがない。

「愛してもいないのに?」

 愛いしてなんかいない。

「嫌いだというパーティーに、無理して参加してまで皇子と婚約する理由は──なんだ?」

 それは……。

「侯爵家の令嬢であれば、他にも嫁ぎ先はいくらでもあるはず。何故、皇太子でなければいけなかったのか。何故……別荘の、売却……金?」

 そこまで言うと、彼はハッとなって自らの口を塞いだ。

 まさか……気づかれたの?
 我が家が没落寸前だってこと……。 
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