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24:おい
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「ふぅ、これで呪いの解除はお終いです」
「お疲れ様です、ルシアナ様っ」
「お見事ですお嬢様」
呪いの解除から四日目の夕方。ついにグレン卿の剣に掛かっていた呪いの解除が終わった。
「長らくお待たせしました、グレン卿」
「感謝する」
相変わらず言葉足らずねぇ。
「え? グレン卿? 謎の黒い方のお名前ですか?」
「あ、そうなのよエリーシャさん。この方、グレンという名前なんですって」
「まぁ、そうなのですねグレン様」
グレン卿が小さく頷く。
ほんっと、必要最小限しか喋らないんだから。
「あ、この指輪、お返ししておきます。おかげで今日は全然疲れませんでした」
「……やる」
「へ?」
それだけ言うと、彼は剣を腰に差して踵を返した。
いやいやいやいや、やるってあなた。
アーティファクトって、ちょっとしたドレスからアクセサリーまで、全部揃えた金額でも買えないような品物なのよ!
「グ、グレン卿、こんな高価なもの受け取れませんっ。それにもともと、助けて頂いたお礼だったのにっ」
「……もう一つ持っている」
うげっ。嘘でしょ。
こんな高価なもの……。高価だけじゃない。これって作るのすっごく大変だって聞いたことがあるわ。
純度の高い魔石からしか作れなくって、その魔石は魔物を倒さないと手に入らない。
しかもどんな魔物だって持っている訳じゃなく、十数体倒してひとつ出るかどうかとか。
そんなレアアイテムを、もう一個持ってるってどういうこと!?
もしかして北部の公爵家の血縁者なのかしら?
「お前に必要だろう。やる」
そういうと、今度こそ足早に神殿を出て行ってしまった。
呆気にとられて引き止められなかった。
「ど、どうしよう」
「くれると仰ったのですから、頂いておけばよろしいのでは? 凄い金額になりますよぉ」
「ちょ、ローラ! なんてこと言うのよまったく」
ごくり。いったいいくらだろ……いや、売らないから!
数日が過ぎて、ベンジャミン皇子の誕生日パーティーまであと一カ月となった。
そろそろドレスの仕立てを依頼するタイムリミットね。
「ローラ。今日にでも王都のブティックに行きましょう」
「あ、ようやくドレスに着手する気になったのですね」
「はぁ、気が重いけど、作らなきゃいけないものは仕方ないし。それより五日後のオークションよ。掃除は万全?」
五日後は王都にある別荘の売却オークション開催日。
なんで王都から三十分の距離に本邸があるのに、王都の中に別荘なんて買うのよ。
少しこじんまりとしているけど、立地条件は申し分ない。
遠方の貴族が王都に用事があって来る際に、別邸として使うには十分なのよね。
「はい。掃除だけでなく、家具の配置から庭のお手入れまで万全でございますよお嬢様」
「そう。ならよかった」
先日、その別荘にある物を鑑定しに行ったけど、案の定、偽物が何点か見つかった。
ただ、今回の目玉はその贋作になるかもしれない。
ふふ、高値がつくといいなぁ。
朝食後には馬車に乗って街へと向かう。
最近はエリーシャとも会えていなけど、一度手紙は出している。
謎の黒い人、グレンも当然だけど見ていない。
剣の呪いは解けたし、きっと北部に帰ったんだろうな。
ジュエリーショップのマダム・リリアーノが紹介してくれたブティックに行き、そこでドレスを仕立てて貰うことにした。
寸法を測って、それから店を出て少しだけ散歩を楽しむ。
あれから私を誘拐しようとする者は現れない。
まぁ街中だと、ねぇ。
「あ、エリーシャだわっ」
久しぶりに見たエリーシャは、少しやつれた顔をしているように見える。
魔法の練習しすぎかな?
「ちっ。腹違いの姉もいやがりますか」
「お嬢様、言い方」
もしかして二人もドレスを?
でもアレなに? なんでエリーシャが荷物を持ってるわけ?
こっそり後をつけていると、二人は若い令嬢に人気のブティックへと入って行った。
「おい」
「しーっ」
「……おい」
ん? この「おい」から始まるのは……。
「お疲れ様です、ルシアナ様っ」
「お見事ですお嬢様」
呪いの解除から四日目の夕方。ついにグレン卿の剣に掛かっていた呪いの解除が終わった。
「長らくお待たせしました、グレン卿」
「感謝する」
相変わらず言葉足らずねぇ。
「え? グレン卿? 謎の黒い方のお名前ですか?」
「あ、そうなのよエリーシャさん。この方、グレンという名前なんですって」
「まぁ、そうなのですねグレン様」
グレン卿が小さく頷く。
ほんっと、必要最小限しか喋らないんだから。
「あ、この指輪、お返ししておきます。おかげで今日は全然疲れませんでした」
「……やる」
「へ?」
それだけ言うと、彼は剣を腰に差して踵を返した。
いやいやいやいや、やるってあなた。
アーティファクトって、ちょっとしたドレスからアクセサリーまで、全部揃えた金額でも買えないような品物なのよ!
「グ、グレン卿、こんな高価なもの受け取れませんっ。それにもともと、助けて頂いたお礼だったのにっ」
「……もう一つ持っている」
うげっ。嘘でしょ。
こんな高価なもの……。高価だけじゃない。これって作るのすっごく大変だって聞いたことがあるわ。
純度の高い魔石からしか作れなくって、その魔石は魔物を倒さないと手に入らない。
しかもどんな魔物だって持っている訳じゃなく、十数体倒してひとつ出るかどうかとか。
そんなレアアイテムを、もう一個持ってるってどういうこと!?
もしかして北部の公爵家の血縁者なのかしら?
「お前に必要だろう。やる」
そういうと、今度こそ足早に神殿を出て行ってしまった。
呆気にとられて引き止められなかった。
「ど、どうしよう」
「くれると仰ったのですから、頂いておけばよろしいのでは? 凄い金額になりますよぉ」
「ちょ、ローラ! なんてこと言うのよまったく」
ごくり。いったいいくらだろ……いや、売らないから!
数日が過ぎて、ベンジャミン皇子の誕生日パーティーまであと一カ月となった。
そろそろドレスの仕立てを依頼するタイムリミットね。
「ローラ。今日にでも王都のブティックに行きましょう」
「あ、ようやくドレスに着手する気になったのですね」
「はぁ、気が重いけど、作らなきゃいけないものは仕方ないし。それより五日後のオークションよ。掃除は万全?」
五日後は王都にある別荘の売却オークション開催日。
なんで王都から三十分の距離に本邸があるのに、王都の中に別荘なんて買うのよ。
少しこじんまりとしているけど、立地条件は申し分ない。
遠方の貴族が王都に用事があって来る際に、別邸として使うには十分なのよね。
「はい。掃除だけでなく、家具の配置から庭のお手入れまで万全でございますよお嬢様」
「そう。ならよかった」
先日、その別荘にある物を鑑定しに行ったけど、案の定、偽物が何点か見つかった。
ただ、今回の目玉はその贋作になるかもしれない。
ふふ、高値がつくといいなぁ。
朝食後には馬車に乗って街へと向かう。
最近はエリーシャとも会えていなけど、一度手紙は出している。
謎の黒い人、グレンも当然だけど見ていない。
剣の呪いは解けたし、きっと北部に帰ったんだろうな。
ジュエリーショップのマダム・リリアーノが紹介してくれたブティックに行き、そこでドレスを仕立てて貰うことにした。
寸法を測って、それから店を出て少しだけ散歩を楽しむ。
あれから私を誘拐しようとする者は現れない。
まぁ街中だと、ねぇ。
「あ、エリーシャだわっ」
久しぶりに見たエリーシャは、少しやつれた顔をしているように見える。
魔法の練習しすぎかな?
「ちっ。腹違いの姉もいやがりますか」
「お嬢様、言い方」
もしかして二人もドレスを?
でもアレなに? なんでエリーシャが荷物を持ってるわけ?
こっそり後をつけていると、二人は若い令嬢に人気のブティックへと入って行った。
「おい」
「しーっ」
「……おい」
ん? この「おい」から始まるのは……。
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