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12:ひとりで妄想の世界に入っていたわ

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「はぁー、これで別荘の件はなんとかなりそう。ありがとうエリーシャさん。私ひとりで話を広めるのは大変だったから、手伝って貰えて助かったわ」
「いえ、この程度でお役に立てるのでしたらいつでも! でもそんなに別荘があるのですか?」
「えぇ……ざっと二十以上……」
「えぇぇ!? う、凄いです。さすが侯爵家ですね」

 ふ、ふふふ。買い過ぎて借金してんだけどね。

 ご令嬢たちの輪からも、大人たちの輪からも抜け出し、今はエリーシャと二人で庭園に来ている。
 庭園にも人はいるけど、私たちは少し奥の、誰もいない所で寛いでいた。

「いろんな人と挨拶をしたり話をしたり、結構疲れたでしょ、エリーシャ」
「はい……でもルシアナ様が傍にいてくださったので、楽しむ事も出来ました」
「そう。よかった」

 うーんっと伸びをして空を仰ぐ。
 こっちの夏は湿度がそうでもないから、カラっとした暑さでまだマシだわ。
 とはいえ、あんまり長時間、本気モードのドレスなんて着ていたくない。

「はぁ、早く帰ってドレス脱ぎたいわぁ」
「ぷふっ。ルシアナ様もそんなこと、思うんですね」
「あったりまえよ。暑いものは暑いもん」
「ですよねぇ。ほんっと、暑いです」

 二人で笑いあって、それからご令嬢たちから聞いた面白そうな話題を振り返った。
 まぁだいたい恋話なんだけどね。

「私、貴族の方って幼い頃から婚約者が決まっているものだとばかり思っていました」
「ふふ、確かにそういう方もいるけれど、んー、一割ぐらいかしら?」
「少ないのですね。男性は二十歳を過ぎても独身の方が多かったですし」
「あー、男ねぇ。若いうちからさっさと結婚するより、遊びまわってからのしたいのよきっと」
「ぶふっ。そ、そうなんですか?」

 女は二十歳までに結婚してなきゃ売れ残りだと言われてる。
 でも男は三十までにって話をよく耳にする。
 だから貴族の夫婦は歳の差が十歳なんて、わりとザラだった。

 帝国の第一皇子ベンジャミン殿下も、今年で二十五歳。
 私は十七歳だから、八歳差だ。
 まぁ皇子の場合は、次期皇后となる相手選びだから慎重になるのは当然なんだけど。

 あぁ、それにしても。
 エリーシャと話していると楽しいなぁ。
 平民育ちっていうのもあって、飾らない所がいいのよ。
 媚びへつらうこともなく、素直な気持ちを伝えてくれるところとか。

 私の──ルシアナの理想の友達像なんだわ。

 それでもルシアナは彼女を虐めた。
 そうしなければ侯爵家が、弟が惨めな人生を送ることになるから。

 きっと原作のルシアナも辛かったんだと思う。
 友達になりたかったはずよね。

 はぁ……このままだと私、ベンジャミン皇子をあっさり諦めちゃいそう。
 二人が出会わなければ一目惚れイベントは発生しない。
 だけどいつかどこかで出会ってしまうことだってあり得る。

 そう、一目惚れ。
 そうよ、一目惚れよ!

 よく考えたらさ、婚約者がいる身で他の女の子を一目惚れするなんてあり得ないっしょ!
 しかも婚約破棄後は、戦争を吹っ掛けてきた隣国の王女にこれまた一目惚れしちゃう訳よ。

 尻かるっ。
 え? もしかして婚約破棄しちゃっていいんじゃない?
 
 我が家の没落を避けるためにって思ったけど、もし別荘の売却が上手くいったら借金返済の目処も立つんじゃ。

 プランB、考えちゃう?

「──様、ルシアナ様」
「は!? ご、ごめんなさい。ひとりで妄想の世界に入っていたわ」
「ぷふっ。そうなんですね。表情がころころ変わっていたので、もしかしてと思いましたが。何か面白い想像でもございましたか?」
「ん……ちょっとね。でも内しょ──」

 にこやかに笑って目を開いた瞬間、視界に飛び込んできたのは見知らぬ男に口元を押さえられているエリーシャの姿だった。
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