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11:願ったり叶ったりなんだけど

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「ごきげんよう、みなさま」
「ご、ごきげんよう」

 薄桃色のドレスの上から、それより濃いピンクの生地をぐるりと巻いて大きな花のコサージュで留めてある。
 同系色なのもあって、違和感はまったくない。

 エリーシャと二人でパーティー会場に行ったけれど、誰も染みつきドレスだなんて気づいていないわ。
 ただひとり、染みを付けた張本人以外はね。

「エ、エリーシャ。ど、どうしてここにいるのよ!?」

 ふふ、焦ってる焦ってる。
 そりゃそうよねぇ。恥をかかせるために、本当はこのあと自分がエリーシャを迎えに行く予定だったんだもんね。
 紅茶の染みがついたままのドレス姿を、参列者に見せるために。

 ふぅ、原作通りの展開で良かったわ。おかげで先手が打てたんだもん。
 
「ふふ、エリーシャさんの妹さんでしたわよね? どうして……というのは、どういう意味なのでしょう?」
「ル、ルシアナ様っ。ど、どうしてというのは、その……な、なんでもございませんわ。ほほ、おほほほほほ」

 おぉ、見事な逃げっぷりだわ。
 私が悪役令嬢なのは、ヒロインの姉が意外と小物過ぎて悪役感がなかったからなのよね。
 ふっ、真の悪役令嬢はわ・た・し・よ。

 っと、悪役令嬢役に浸ってる場合じゃなかったわ。

「さぁエリーシャさん。あなたの社交界デビューですわ。楽しみましょう」
「は、はい、ルシアナ様」

 安心したように微笑む彼女の手を取って、まるでエスコートしているかのように令嬢たちの前に出る。
 二人そろって優雅にお辞儀をし、談笑の輪に入った。
 エリーシャ、緊張しているけどちゃんと笑顔を浮かべているわね。

 ルシアナの記憶ではあるけれど、私も初めての時はすっごい緊張していたわ。
 普段は木登りだって出来ちゃうお転婆娘だったのが、パーティー会場ではそんな様子を見せちゃダメなんだもん。
 参列者に笑われるのは私だけじゃない。カイチェスター侯爵家が笑いものにされるってことだからね。

 ご令嬢たちのと談笑から少し離れ、エリーシャと二人で親世代の貴族らの輪へと近づく。

「いいですわね、エリーシャさん。ドレスの恩、ここで返して頂きますわよ」
「ま、任せてくださいルシアナ様」

 紅茶の染み隠しは善意ではあっても、下心もちゃーんとあってのこと。
 彼女にはちょっとした演技をお願いした。
 まぁ捉え方によっては演技でもないんだけどね。

「まぁルシアナ様。ではカイチェスター家の別荘を、お売りになるおつもりなのですか?」

 エリーシャがことさら大きな声でそう言い放つ。
 わ、私の三文芝居より、凄く自然でお上手なんだけど。

「そ、そうなの。亡くなった母が欲しいからって購入したものの、一度も足を踏み入れていない別荘がいくつもあって」
「別荘がたくさんだなんて、聞くだけだと羨ましいですが。一度もお使いになっていないのは勿体ないですわね」
「えぇ。誇りを被らせるより、どなたかにお譲りした方がいいと思いまして」

 売りたい、というのは本当の事。
 だけど「買ってください」と頼みまわるのは品位がない。
 だがら──

「お求めの方がいたら、その方のお売りしたいなぁってお父さまともお話していたのです」
「でもそれでしたら、不動産はお通しにならないのですか?」
「えぇ。不動産を通せば、購入される方への負担にもなると思いまして。んー確か……不動産は買値の十倍の値を付けて販売する……と聞きましたから」
「じゅ、十倍ですか!?」

 執事に調べて貰ったから、これは本当。
 まったく、この世界の不動産はボリ過ぎよ。

「あ、でもルシアナ様。購入希望者様が複数人いらしたら、どうなさるのですか?」
「んふふ。それはね、とぉってもステキなことを思いつきましたの」
「ステキな?」

 おっと、聞き耳立てている殿方や婦人がじわじわと近づいてきているわね。
 よかった。この分だと別荘の売却計画も上手くいくかも。

「オークション! 最低金額を提示し、そこから希望者様に入札していただく方法です。楽しそうでしょ?」

 この話はエリーシャにもしていない。彼女の素の反応を見てみたかったから。
 するとエリーシャは首を傾げて「オークションってなんですか?」と。

 おっと、まさかの反応だったわ。
 でもそのキョトンとした顔が可愛らしく、近くの紳士がオークションについて説明してくれた。

「侯爵令嬢、口を挟んでしまい申し訳ございません」
「いいえ、お気になさらないでくださいオルウェイズ侯爵。とても分かりやすいご説明で、助かりましたわ」
「侯爵様、ありがとうございます。オークションってゲームのような感じなのですね」

 エリーシャの無邪気な言葉に、侯爵は頷く。
 オルウェイズ侯爵には幼いお孫さんがいるはず。そろそろ爵位をご子息に渡して、隠居したい年齢よね。
 ただ……侯爵は我が家に結構な額を貸してくださっている方でもある。
 そのお金が戻って来るまでは……とか考えているのなら、本当に申し訳なくって仕方ない。

 お金の代りにお屋敷を、とは言いにくいけど、先方からオークションに参加してくれるなら願ったり叶ったりなんだけどなぁ。



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