上 下
41 / 50

41元魔王は冒険者ギルドへ行く。

しおりを挟む
 王都まで走って数十分。
 以前そこかで徒歩半日とか聞いた気がするが、きっと気のせいだったのだろう。
 それともあの時に比べて僕の身長も伸び、その分早くなっただけ――なのかもしれない。

 ラフィは王都にある冒険者ギルドを拠点に活動をしているらしい。
 拠点と言えど、一度依頼を受ければ王都を離れることも多く、なかなか会う機会も少ない。
 そうフィリアも言っていた。

 冒険者ギルドとやらはさてどこか。

「そこの人。冒険者ギルドはどこだろうか?」

 目の合った女性に尋ねれば、彼女は頬を赤らめ指をさした。
 町の中央付近か。
 一礼をし、女性が指差す方角へと向かうと、暫くしてそれらしい建物を見つけた。

 大きな建物は三階建て。
 町の中央にほど近い建物前には、噴水広場がある。そこに武具を身に纏った男女が大勢たむろしていた。
 あの建物がギルドで無ければ、冒険者に囲まれた悪党の根城か何かだろう。
 まぁそうならそうで、路銀を稼ぐチャンスでもある。

 僕はたむろしている彼らには目もくれず、中へと入った。
 中もまた混雑していた。
 
 奥にはカウンター台。その手前にはいくつかのテーブルが置かれ、数人がそれを囲む。壁には張り出された紙に群がる人間たちの姿が。
 悪党の根城だろうか? それとも――

「ル、ルインじゃないか!?」

 奥のカウンター台からやってきたひとりの赤毛の女――忘れるはずもない。懐かしい顔がやって来た。

「ラフィ、元気そうだな」
「元気に決まってんじゃん! どうしたの? あ、フィリアに会いに来たとか?」
「それもある。だがここに来たのは君に会うためだ」
「わ、私に!?」

 驚くラフィの顔は赤く染まり、何やら恥ずかし気に視線を泳がせる。

「フィリアに聞いたのだ。今はここに居ると」
「う、うん。三日前にね、帰って来たところなんだ」
「そうか。手紙を読んでも、あちこちに行っているようだとは思っていたが。今回はどこに行っていた?」
「北だよ。護衛の仕事でね。あー……立ち話もなんだし、座る?」

 そう言ってラフィは建物奥にある酒場へと案内してくれた。
 ギルドの建物内には、酒場も併設されているのか。
 ここでも大勢の武具を身に纏ったもの――冒険者が居る。

「ルイン、昼飯は?」
「いや、まだだ」
「じゃあここで食べるかい? ここ、飯も美味いんだぜ?」
「ほぉ、それは楽しみだな」

 そう言うとラフィは嬉しそうに微笑んだ。
 その瞬間、周囲の空気が変わる。

「おじちゃーん。おまかせ定食のAとBひとつずつねー」

 気にした様子もなくラフィは店員を呼ぶが、明らかに周りの男たちの視線が彼女へと集まっていた。
 この一年半でラフィはさらなる成長を遂げていた。主に胸のサイズとやらだ。
 それに比べ、フィリアは……まぁこれも個性だ。何も言うまい。

「んでさ、その後、ルインのほうはどうだった?」
「僕が君に質問したのにな……まぁいい。苺のほうは順調に出荷出来ているよ」
「あの苺美味しかったもんなぁ~」
「ほぉ。残念だったな。手土産に持って出た苺は、先ほど全部大神殿に置いてきた」
「これは大神殿に取りに行くしか!?」
「もう誰それの胃袋に消えているだろう」
「ふみゅうぅぅぅっ」

 唇を尖らせテーブルに顎を乗せ不貞腐れるラフィ。
 
 ガタタッと、周囲で何人かの男たちが立ち上がり、その姿を見ようと必死だ。

「随分と人気者だな。まぁ聖女候補時代もそうだったが」
「はぁ……アタイなんかのどこがいいのか。フィリアはさ、お淑やかだし、男からしたら守ってやりたいって思うだろ?」
「まぁそうだな」

 非力だし、重い物は一人で運ばせられない。

「だろ? でもアタイはさ、そうじゃないし……お、女としての魅力なんて……全然……」
「そうか? 君にも魅力はあるさ」
「言っとくけど、胸の大きさがとかだったらぶん殴るよ」
「……健康的な美少女だと思うぞ」
「何その間! ねぇ、今の間はなんなのさ!」

 視線を逸らすと、先ほどラフィが注文した料理が運ばれてきた。
 おまかせ定食Aは鶏肉がメインディッシュとなる料理で、Bは豚肉だ。

「どっちがいい?」

 にこにことそう尋ねるラフィに、僕はもちろん「両方」と答える。

「贅沢者ぉ。アタイだって食べるんだぞぉ」
「だから分け合って食べればいいだろう」
「お、なるほどですな。じゃあ半分こね」
「あぁ。半分こだ」

 ラフィが肉を切り分ける間、背後から凄まじいまでの殺気を浴びせられる。
 まぁスローライフの邪魔をする訳でもないから、殴り飛ばしたりはしないけれど鬱陶しいな。
 ほんの一瞬だけ、魔力を解放し殺気を飛ばしてきた連中に「地獄に落とすぞ」と念を込め一睨み。

 ガタガタと、何人かが椅子ごと後ろ向きに倒れ込む。

「ん? 何かあったのかな?」
「さぁ、何だろうな。ところでラフィ、肉のサイズが違うぞ」
「ぐ……分かったよ。大きいのやるから、文句言うなってば」
「ふふ。ならよし」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人の恋路を邪魔するな

guch
恋愛
歴戦のサキュバスx宗教改革しちゃう系司祭(童貞) 割と全年齢、たまにエロくないR15、そういう描写もある ※なろうで載せているもの

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア
ファンタジー
お料理や世話焼きおかんなお姫様シャルロット✖️超箱入り?な深窓のイケメン王子様グレース✖️溺愛わんこ系オオカミの精霊クロウ(時々チワワ)の魔法と精霊とグルメファンタジー プリンが大好きな白ウサギの獣人美少年護衛騎士キャロル、自分のレストランを持つことを夢見る公爵令息ユハなど、[美味しいゴハン]を通してココロが繋がる、ハートウォーミング♫ストーリーです☆ エブリスタでも掲載中 https://estar.jp/novels/25573975

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...