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37マリアロゼ

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「どうしてこの私が!?」

 大聖堂での聖女選定の儀式が終わってから。
 マリアロゼは宛がわれた広い部屋で怒りを露わにしていた。

 父から教団には多額の寄付金が支払われている。
 表向きにはただの寄付であるが、もちろん目的は娘であるマリアロゼを聖女にという賄賂だ。
 それも娘であるマリアロゼから頼まれてのこと。

「私があんな田舎娘に負けるだなんてっ」
「マ、マリアロゼさま」

 怒りに燃える彼女の傍らには、金魚の糞のようにデリントンが付いて回る。
 どうせなら自分を蹴って憂さ晴らしてそて欲しいと思っているのだろう。

「ルインさままであの女の下へ向かうだなんて……」

 窓辺で頬杖を突き――王子さまがやって来て「真の聖女は貴様だ」などと言って、自分を強引にベッドへ押す――という妄想をしている最中。
 窓の外を歩くルインの姿を見つけた。

 来て下さった!

 そう思ったのも束の間。
 彼は一階にある別の部屋に窓から侵入していた。
 その部屋があのフィリアの部屋だと知ったのは先ほど。デリントンの報告を聞いた時だ。

「くっ。間違っていますわ。田舎者より、私こそが聖女に相応しい! 気高く美しい私こそ、ルインさまに――」
「マッ、マリアロゼさまこそ聖女――いえ、女神の生まれ変わり!」
「お黙りなさいデリントン! 発言は私が許可をしてからですわよっ!!」

 ゲシっとデリントンの長身を蹴り、床に転がったところで踵のヒールを顔に擦り付ける。
 恍惚な笑みを浮かべ、デリントンはその足に縋りついた。
 
「お舐め」
「はい……」

 デリントンはマリアロゼのヒールを脱がし、その足先をぺろぺろと舐め始める。
 その様子をマリアロゼは狂気の笑みを浮かべ見つめていた。

「お前たちもよ」
「「は、はいっ」」

 彼女の部屋には何人もの神官見習いや若い神官らが控えていた。
 ある者は植木を手にし、鉢の中に。
 ある者はクッションを抱いてソファーの上に。
 ある者は椅子の背もたれを担いで机の前に。

 そうして十数人の若い男たちがマリアロゼを取り囲み、彼女をソファーに座らせた。
 マリアロゼの尻に敷かれ歓喜の声を上げる者がいる。
 彼女は手足を伸ばし、男たちがそこにキスをする。
 足そして手の指の一本一本を、それぞれ交代で口に含む嘗め回すだけの異様な光景。

 ある者が性欲を抑えきれず彼女の胸へと手を伸ばすが――

「ぎゃっ!?」

 フレイル――棘のある鉄球が先端に取り付けられた神官の武器で殴られ、悲鳴が上がった。

「マリアロゼさまを汚すことは、何人と言えど許さぬ」

 フレイルを握るデリントンによって、男は半殺しとなる。

「癒しておやり」
「はっ。マリアロゼさまの慈悲の言葉に感謝しろ」

 デリントンはそう言って、血まみれの男の傷を癒した。

「あぁ、マリアロゼさま……ありがとうございます。ありがとうございます」

 この異様な光景の中、誰一人それを疑問に思うことは無く。
 全員が彼女の柔肌に舌を這わせつつも、犯すことは無く。ただただ指を嘗め回すだけ。

「もういいわ。タオルを頂戴」
「御意」

 デリントンは恭しく頭を下げ、ぬるま湯で濡らしたタオルを持ってくる。
 それで唾液の滑りを拭き取ったマリアロゼは、ようやく落ち着いたように笑顔を浮かべた。

「そうね。何も聖女はひとりとは限りませんわ」
「と言われますと?」
「私が許可を出す前に発言しましたわね。デリントン、お尻をお出しなさいっ」
「は、はいっ」

 言われるがまま尻を出したデリントンは、その表情に歓喜の色を浮かべていた。
 彼の尻を平手打ちしながらマイアロゼは言う。

「あの田舎娘を聖女として選んだのは、田舎者に相応しい畑の女神ローリエですわ。私は私に相応しい神の聖女になります。そうね……なんの神の聖女になろうかしら?」
「あうっ――ふぉっ――おほぉっ――」

 パンッパンッと乾いた音と、男の喘ぎ声が響く部屋で――

 その床が
 僅かに揺れた。
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