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元魔王は脅迫する。

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「た、大変なのね!」

 デリントン事件から十日後。
 彼らの姿はあれ以来無く、ローリエの啓示によって破門された。
 ――と思っていた。
 ポッソが来るまでは。

「デリントンくんが、デリントンくんが司祭になっているのね!」

 講義室にてポッソがそう叫ぶと、一瞬の静寂。そしていっきに大騒ぎ。

「ちょ、え? なんで?」
「待てよポッソ。まだ大神殿で学び始めて半年じゃないか」
「そうよ。三年学んで、それから見習い神官からスタートでしょ?」
「そりゃあ成績が優秀なら見習いをすっ飛ばせるけど、いくら何でも司祭はおかしい!」
「っていうか、デリントンくんの取り巻き軍団って、禁忌を犯して破門されてるじゃない。親分の彼だって、一緒に破門されたんじゃ?」

 ポッソに聞いたが、大神殿での学徒は三年ごとに募集される。
 三年学べば卒業となり、証を手にすることが出来るのだ。
 それを持って実家へと帰る者、見習い神官となって聖職者の道へ進む者とに分かれる。

 逆に言えば三年学ばなければ卒業の証は貰えず、聖職者への道も絶たれるという訳だ。
 
 聖職者の道を選んだ場合には、まず見習い神官からスタート。
 昇級試験に合格すれば神官に。そこから更に司祭、高司祭となるが、聖職者の二割は見習い神官、六割が神官だ。
 最大人口の神官をすっ飛ばし、まさかの司祭とはこれいかに。

 いや、何故デリントンは破門されていないのだ?

 お昼――礼拝堂へ行って女神像を睨みつけた。

 どういう事だ?
 ぼくを騙したのか?
 地獄に落とすぞ?

 ――いや待ってください。あのですね。
 ――ちゃんと啓示出しましたよ?
 ――デリントンとその配下の者、禁忌を犯したものにてわたくしの庇護下から除外するように……と。

 だがデリントンが司祭になったと噂されているぞ。

 ――うぅ、それはその通りです。

 じゃあ地獄行き決定。

 ――いやいや待ってぇ。最後まで話を聞いてぇ。
 ――そもそもわたくしは直接人にどうこう指示を出してはいけない存在なんです。
 ――その点は分かってくださいますよね?

 まぁ理解しよう。

 ――ほっ。それでですね、天の啓示を与えはしても、その後どうするかは人間社会に委ねられることになるのです。
 ――最初は審問会でも、彼含めた全員の破門が決定していました。
 ――しかし、この国の有力貴族の一声で、デリントンのみ処断無しと決まったのです。

 は?
 つまり神の言葉より貴族の言葉が優先されたと?

 ――うぅ。悲しいことですが、その通りです。

 神の声も地に堕ちたものだ。

 ――うぅ。最近は邪な者が安易に神官だの司祭だのになってしまって、ほんと困るんですよねぇ。

 ぼくの知ったこっちゃない。

 次は無い。そうデリントンには言った。
 もっとも、あの時の記憶は消去してある。ぼくに対して抱いた恐怖心だけを残して。
 それでもぼくは自分の言葉は曲げない。

 何かあれば、次は地獄に叩き落とす。
 文句はないね?

 ――えぇ。仕方ありません。

 ならお前の地獄行きも保留にしておこう。

 ――いえそこは無かったことにしてくださいませんか?

 さぁ、安心してこれからも目指せ聖職者の気持ちで頑張るぞー!

 ――急に爽やかにならないで。ね? ねぇ!?





 そんな事があってからひと月が過ぎた。
 毎晩ラフィに剣術を教え、フィリアと話をし、学友との親交も深めて行った。

「ポッソ、聞いてもいい?」
「うん。どうしたのであるかルインくん」
「このところ、随分と神殿内がカラフルに彩られているようなのだが、気のせい?」

 食堂までの渡り廊下。ひと月前まで頭上から落下物が絶えなかったあの場所だが、柱と言う柱に赤いリボンが巻かれ、植木にはキンキラ輝く小さなボールが飾られている。

「あぁそれはねぇ、神々の祝勝会が近いからなのね」
「祝勝会?」

 一年の最後の締めくくりの月。
 奴らは戦でもしていたのか? 誰と?
 神々の大戦はそもそも千年以上前に終わっている。

「光と闇の神々がそれぞれの陣営に分かれて戦った大戦の、祝勝会なのね。聖書に書かれているんだけど、読んでない?」
「いや確かに書かれているし暗記もしているが、年末だとは書いてなかったはず」
「あぁ、そうなのね! うん、書いてないのね。でも普通はどこの家庭でも、この時期になるとご馳走作ってお祝いするから知ってると思ってたの」

 ……知らなかった。

 ポッソの言う普通というのは、普通に豊かな暮らしが送れる家庭のようだ。
 うん。ぼくの実家、ド貧乏だったから。
 ここ数年でやっと飢え死にする年寄りが居なくなったところだし。

 しかし何故ご馳走が?

「お祝いだからね!」
「いやでもそれ、千年以上昔のこと――」
「いいのねそんなこと! 美味しい物が食べられれば、なんでもいいのね!」

 そう言ってポッソはぼくの手を引いて食堂へと駆けた。
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