上 下
20 / 50

元魔王は体育館裏へ・・・

しおりを挟む
 夕食へと向かうある日の事――

「ル、ルインくんっ。あ、あぶ、あぶな――」
「ん?」

 呼ばれて振り向き、と同時に頭上から落下してきた植木鉢《・・・》キャッチする。
 ぼくを呼んだのは、学友の――名前はなんだっけ?

「呼ばれたようだが、君の名はなんだっただろうか?」
「ぼ、僕はポッソ」
「おぉ、そうだそうだ。ポッソだ。それで、ぼくに何かよう?」

 色白でぽっちゃり体型のポッソは、ぼくが右手に持つ鉢植えを指差し、

「それが落とされそう・・・・・・だったのね。だから危ないって言おうとしたんだけど……平気だったみたいなのね」
「はっはっは。慣れてしまったからな」

 ここ二十日程の間、食堂へと向かうこの渡り廊下で毎日のように、こうして何かが降ってくる。
 横の建物の上階にも部屋があるが、ここいらの者たちは物をよく落とすようだ。
 
「昨夜の夕食の帰りには、鈍器《メイス》が落ちて来たよ」
「メ、メイス!? いや、でもそれは危険なのね。いくらなんでも、当たり所が悪ければ即死なのねっ」
「そうだな。だが当たらなければ何も問題はない」
「そ、そりゃあそうなのね。でも……」
「注意しようとしてくれてありがとう。そうだっ。夕食を一緒にどう?」

 最近はデリントンと食事を一緒にしていない。
 よっぽど勉強熱心なのか、部屋にすら戻らなくなってしまっている。
 教室で見る彼の顔色は、特に悪いという訳でもないから大丈夫だろうが。やはり心配だ。

 そんな訳でここ最近は、学友たちと食事を共にしていた。

「ポッソとはまだ一緒に食べたことがない。君の話もいろいろ聞きたいのだが、いいかな?」
「ぼ、僕の? え、えっと――うん、僕も君と一緒にご飯を食べたいのね」

 こうしてポッソと二人肩を並べて食堂へと向かい、彼が神殿に来た理由、好きな食べ物などさまざまな事が聞けた。
 興味深かったのは、彼の実家が商家だという事。

 他の学友でも商家出身の者が数名いたが、何故商売をする者が聖職者になろうと言うのか不思議でならない。
 そのことを思い切ってポッソへと質問してみると――

「聖職者にはならないのね。僕たちみたいなのは、高いお金を払って学ばせて貰うだけなのね」
「ほぉ」
「大神殿で学んだというだけで、取引先やお客さんが信頼してくれるのね」
「なるほど! 商売人は信用が第一だと、行商人も言っていた」
「それにローリエ信者の貴族とも、コネが持てるのね。だからおと様は、無理をしてでも僕を神殿に入れてくれたのね……」

 ポッソの実家は一般家庭と比べれば多少は裕福だというが、商売人としては底辺に近く。
 大神殿で学ぶためには相当な金が必要だとかで、彼のご両親は借金をしてまで彼の学費を工面した――と。

「泣かせる。なんと子想いのご両親か」
「うん。僕もそう思うのね。神殿で学びたいと言ったのも、僕なのね。だから僕はここを辞める訳にはいかなかったのね」
「辞める? 辞めなければならない何かがあったのか?」
「あ……う、ううん。何も無いのね」

 眉尻を下げ、細い目をより一層細めてから、ポッソは八杯目となるおかずのおかわりへと向かった。





 食堂からの帰り道、不思議と今度は何も落下してこなかった。
 ここのところ毎日だっただけに、落ちてこないならこないで、なんとなく寂しく思う。

 だが――

「ルイン。ルイン・アルファート」
「デリントン!?」

 まさか彼がぼくの事を待っていてくれていたとは!
 久方ぶりなのもあって、ちょっと感動。

「ルイン・アルファート。ちょっといいか」
「いいとも」

 デリントンの後ろにはいつもの取り巻きくんらの他、神官用の法衣を身にまとった若い男たちも居る。

 も、もしやデリントンは!
 未だ治癒の使えないぼくを気遣って、特別授業をしてくれるというのか!?

「ル、ルインくん。ダメなのね。行っちゃダメなのね」

 ポッソが怯えたようにぼくの袖を掴む。
 その手はガクブルと震え、青ざめた顔で首を横へと振った。

 正規の授業ではない。先輩神官から学ぶのは、神殿では禁止されているのだろうか?
 もしそうだとしたら、見つかればデリントンたちもお叱りを受けることになるだろう。
 そうまでしてぼくを……。

「ふ。大丈夫だポッソ。見つからぬよう、完璧に細工してみせる」
「さ、細工? え? ルインくん、何を言っているのね?」
「さぁ、行こうデリントン!」
「ふんっ。貴様のその妙な態度も、今日までだ」

 ん?
 んん?
 んんん?

 今、
 凄く、
 懐かしいセリフを聞いた気がする。

 どこだっただろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人の恋路を邪魔するな

guch
恋愛
歴戦のサキュバスx宗教改革しちゃう系司祭(童貞) 割と全年齢、たまにエロくないR15、そういう描写もある ※なろうで載せているもの

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア
ファンタジー
お料理や世話焼きおかんなお姫様シャルロット✖️超箱入り?な深窓のイケメン王子様グレース✖️溺愛わんこ系オオカミの精霊クロウ(時々チワワ)の魔法と精霊とグルメファンタジー プリンが大好きな白ウサギの獣人美少年護衛騎士キャロル、自分のレストランを持つことを夢見る公爵令息ユハなど、[美味しいゴハン]を通してココロが繋がる、ハートウォーミング♫ストーリーです☆ エブリスタでも掲載中 https://estar.jp/novels/25573975

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...