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元魔王は診断する。

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「ラフィ。君には聖属性の他に、火属性と風属性がある。レベルは聖属性含めて1だ」

 人間基準で考えると、この歳で属性が三つもあるのは凄いことなのだろう。
 まぁ基準が分からぬし、今度その辺の者を手あたり次第鑑定してみよう。

 結果を聞いたラフィは喜んでいた。

「やっぱり……やっぱり他の属性もあったんだ! そうだと思ったんだよ。だって村に来た冒険者の魔術師の人が言ってたもん」
「ほぉ、なんと?」
「うん。君にはいくつかの属性が開花する兆しがあるって。複数の属性を開花させる子供は稀で、しっかり修行すれば良い冒険者になれるって言ってたんだ」

 冒険者か。
 ラフィは冒険者に憧れているようだが、聖女として冒険者になる道もあるのでは?
 いや、万が一にも勇者などが現れてみろ。ラフィはそいつと一緒にぼくを――私を討ちに来るかも!?

 いやいやいや。それはダメだ。

「ラフィは聖女より……えぇっと、そうだな。火と風がある。火は力強さ、風は素早い身のこなし――そう言ったものを象徴している。なら――」
「剣士! ねぇ、そうだろう。あたいには剣士が似合うよね!!」
「あ、あぁ……そうだな」

 確かに剣士向けの属性かもしれない。
 見たところ、彼女の魔力量はそれほど高くも無く、魔法を使うには適していないようだ。
 魔力が低いと、高ランクの魔法を発動させることが出来ない。出来たとして、発動と同時に魔力が枯渇して気絶するだろう。
 しかし物理攻撃では魔力は必要無い。
 
 だが――

「やった! じゃああたいはここを出て、冒険者になろう」
「待てラフィ。そう早まるな」
「な、なんだよ。あたいは元々、冒険者になりたかったんだ。それを急に神殿の奴らがやって来て、無理やりここに連れて来られたんだ。聖属性以外の属性は無いって、嘘までつかれてさ」

 なるほど。それで脱走してきたのか。
 だが冒険者になりたいと言うのであれば、尚の事――

「我慢して暫くここで学ぶと良い」
「な、なんでだよ!」

 ラフィは顔を真っ赤にさせ、ぼくの胸に拳をぶつける。

「ラフィ、よく聞くんだ。魔術師に魔法があるように、剣士や戦士、物理攻撃を行う職業にも『技』が存在する」
「知ってるよ、それぐらい! あたいは冒険者を目指していたんだ、ちゃんと調べてあるもんっ」
「なら、その技の発動に魔力が関係していることも?」
「え?」

 やはり知らないか。

 物理攻撃というのは、自身の肉体や武器を使って直接殴る蹴る、斬るなどを行う攻撃手段だ。
 魔法にしろ技にしろ、発動には魔力が必要になる。魔法に比べて技に必要な魔力は微々たる量ではあるが。

「だから一般的な魔力の平均値程度でも技は発動する」
「じ、じゃあいいじゃん!」
「まぁ待て。魔法と同じで技にもランクがあるだろう。高ランクの技を発動させるには、それ相応の魔力が必要になるのだぞ」
「ぅえ?」

 それだけではない。
 技の発動に魔力が1必要な物があったとして、魔力量が10であれば十発打てる。
 なら50あったとしたら?

「えっと……ご、五十?」
「正解だラフィ。どうだ? 十発打てば魔力が枯渇しておねんねするのと、四十九発打ってもまだ気絶しないのと。どっちがいい?」
「四十九発打てる方が良いに決まってるだろっ」
「なら、ここで学ぶことだ」

 魔力を高めるには、魔法を使うのが手っ取り早い。
 神聖魔法でもそれは同じことだ。
 学ぶことで魔力が底上げされるなら、将来剣士になった時きっと役に立つだろう。
 
 もちろん、学べば誰でも魔力が高くなるとは限らないが、聖女候補のラフィであればおそらく――。

「あ、あんたさ。あたいの魔力がどれ位か、鑑定で分かる?」
「鑑定せずとも分かる。同じ学び舎で学ぶ子供たちと比べると……そうだな。魔法の才のある者と比べると、圧倒的に少ない」
「ふぬぬ……」
「だが才の無い物と比べると、少しマシな方だ」
「才能無いのか有るのか、どっちなんだよ」

 魔法の才の無い者=普通の者だ。
 人は誰でも魔力を持っている。持っていても魔法を使えない者が圧倒的。
 ぼくの知る村の人たちも、総じて魔法が使えない。

「数字に置き換えて説明すると、大半の人間は魔力が5前後だ」
「じゃああたいは?」
「10ぐらいだろうか」
「しょぼ!?」

 普通の二倍あるのだから、喜ぶべきところだろう。
 簡単な魔法が使える魔術師だと、だいたい魔力は30ぐらいか。
 まぁ鑑定では実際に数値化されないので、大雑把に説明してみたが。

「今は将来の為に堪える時期だと思うが、どうだ?」
「う……」
「ぼくとて今すぐにでも最強のスローライフを送りたいさ。だが今は堪えている。夢の実現の為に力が必要だから!」
「……なんでのんびり暮らす為に力が必要なんだよ。さっぱり分かんない。けど――」

 ラフィの瞳は先ほどまでと違い、きらりと光る何かを宿していた。

「あんた……ルインのいう通り、今は我慢する。我慢してクソみたいな勉強して、そんで魔力爆上げする!」
「うむ。その意気込みだ。あとは剣術もこっそり学ぶと良いだろう。なんならぼくが基本ぐらいなら教えられるぞ」
「え? ほ、本当? あんたいつ習ったの?」
「自己流――あ、いや、父上や兄上に学んだ」

 魔王だった頃、暇で暇で仕方なかったから、勇者の剣の動きを真似して勇者になったつもりでイメージトレーニングなんてのもした。
 その剣術は次の勇者に通用したので、なかなか良くできた自己流剣術だと自負している。
 もちろん、転生後に父上や騎士となった兄上に教えて貰ったのは嘘ではない。

 ラフィは瞳を輝かせぼくにハグした。

「じゃあ明日もこの時間にここで、いい?」
「分かった。では明日もこの時間にここで。見つかるなよ?」
「ふふん。そんなヘマしないもん」

 そう言うと彼女は辺りを見渡し、壁際に立つ木へと軽々と上っていくと、そのまま壁をヒョイっと超えて行った。

「またね、ルイン」

 壁の向こうから聞こえる彼女の声に「あぁ、またな」と返事をする。
 タタタと土を蹴る音が聞こえ、彼女が遠ざかっていくと――

「あ……フィリアの事を聞くの忘れた」

 事を思いだした。
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