6 / 50
元魔王は決意する。
しおりを挟む
神官には仲間がいた。
戦士・罠師・弓使い・魔術師。それ以外にも十数人。
彼らは全員、冒険者という職業なのだとか。
戦士も魔術師も職業だろうに。違いはなんであろう?
とにかく彼らの活躍で、無事、全ての魔物は討伐された。
だが村の被害は甚大だ。
逃げ遅れた何人もの村人が命を落としている。
「母上!」
神官とその仲間を連れ屋敷へと戻ると、石壁や建物があちこち破壊されたあとがあった。
家族は無事か。避難した村人は!?
「ルイン! あぁ、ルイン無事だったのね。心配したのよ、私の可愛い坊や」
「母上ぼくは無事です。それよりお父さんは? 村の人たちは?」
ぼくをぎゅっと抱きしめる母上は、耳元で「大丈夫。大丈夫よ」と繰り返す。
その言葉が真実であるかのように、駆けて来る少女の姿が見えた。
「ルインさまぁっ」
母上にぎゅっとされたままのぼくへ、フィリアが抱き着いた。
魔物は居なくなったが、彼女は未だ恐怖に憑りつかれたように体を震わせている。
その背中へとそっと手を回し、とんとんと優しく叩いてやる。
赤ん坊のころ、母上が良くしてくれたように。
「大丈夫だよフィリア。冒険者さんが来てくれたから、もう大丈夫だよ」
「うん……うん、ルインさま。フィリア、怖かった」
「ははは。フィリアは泣き虫だなぁ」
だばだばと大粒の涙を流す彼女へ、そう笑い掛けながら話す。
「だって……だってルインさま、ひとりで走って行っちゃうんだもん。フィリアは心配で心配で」
「そうよルイン。フィリアは泣きながらずっとあなたの名前を呼んで心配していたのよ」
「ルインさま……死なないで。ひとりで行っちゃわないで」
泣きじゃくる彼女は必死にぼくの服を掴んで離さない。
心配されることに、まだぼくは慣れていない。
魔王であったとき、いったい誰が心配なんかしてくれただろう。
大切にしたい。今のこの暮らしを。
だから――
「神官さま、ぼくを弟子にしてください!!」
「え? え? えぇぇ?」
一緒に屋敷までついて来てくれた神官に、ぼくは弟子入りを懇願するのだった。
闇属性に対抗するための、絶対的な力をぼくは手に入れて見せる!!
「神に祈っていれば聖属性魔法を習得できるの?」
「聖属性魔法っていうか、神聖魔法ね。神様にルインくんの気持ちが通じれば、きっと魔法を授かれるわよ」
魔物によるスタンピードから十日。
ほとんどの冒険者たちは帰って行ったが、神官の仲間たちはまだアルファート領に残っていた。
彼らは今、屋敷に寝泊まりして周辺の警護をしてくれている。
それもあと数日で終わるのだけれど。
「神官になりてぇってんなら、どっかの神殿に入信するのが手っ取り早いんだけどな」
そう教えてくれたのは神官さまのパーティーに居る戦士の男性だ。
どうやらこのパーティーのリーダーは彼のようだ。
勇者パーティーもそうだが、リーダーとは戦士系色が務めるもののようだな。
まぁ勇者がいつも戦士系職業だったから、そう思っているだけかもしれないけど。
「入信ですか? うぅん……」
ぼくは神が好きではない。
ぼくを……魔王ルディンバートを生み出したのは創造神だ。
神官が祈る神は創造神とは別の神だけれど、それでも神は神。
恨みなどは無いが好きになれない。
けれど祈らなければ神聖魔法が使えないというのなら、ぼくは祈ろう。
「ま、入信するには金がいる。だから止めとけ。な?」
「リーダー……だったら最初から勧めなきゃいいじゃん」
「何言ってんだロビン。俺はルイン坊には戦士を勧めてるんだぜ!」
「「え?」」
いや待てリーダー。
ぼくは戦士になりたいんじゃない。聖職者になりたいんだ! 元魔王だけど。
それからパーティーのリーダー、アデルは、執拗なまでにぼくを戦士になれー戦士になれーっと呪文を唱えていた。
どうやらゴブリンに攻められても悲鳴をあげず、耐えていた心意気を気に入ったとか何とかで。
あの程度は全然痛くないし、悲鳴を上げる程でもないだけだったんだけどなぁ。
数日程アデルが必死にぼくを戦士にしようと、体力の付け方、筋肉の鍛え方、そして剣術の基本なるものを教えてくれた。
うん……大変申し訳ないと思うよ。
教えて貰ったもの全て、前世でぼくが暇つぶしにやっていた事ばかりだから。
寧ろそれ、初歩の初歩であろう?
「よぉしルイン坊。これから毎日ずっと今のをやるんだぞ」
「……うん……」
「おいおい仕方ないみたいな顔するよな。お前には絶対戦士の才能があるから! あ、そうだ。おいライデン。ルイン坊を鑑定してやってくれないか?」
ライデン――パーティーの魔術師だ。
ほう、彼は鑑定魔法を持っているのか。この魔法、簡単そうで実は難しく、習得はかなり難しい部類だ。
眼鏡をくいっと上げる仕草をしたライデンは、溜息をひとつ吐き捨てながらぼくの下へとやって来る。
「手を出せ」
「う、うん――あ、ちょっと待ってっ」
危ない危ない!
うっかり素直に鑑定されるところだった。
ぼくの個人情報をそのまま見せるわけにはいかない。
なんたって元魔王って出るのだから。
「どうした?」
「う、うん……あ、あの。緊張して、手に汗掻いちゃった。井戸で洗ってきます」
「いや汗ぐら――」
ダッシュで屋敷の裏にある井戸へと向かう。ここで時間稼ぎだ。
幻影魔法で元魔王だの、魔王の生まれ変わりだのを見えなくする。
相手は魔術師だ。かなり強力な魔法で偽らねば。
属性情報は……よし。ここは聖属性の項目だけ残そう。
ふふ。聖属性しか持っていないとなれば、きっと聖職者の道しか選択できなくなる。
これでアデルもあきらめがつくだろう。
よし、準備出来た!
戦士・罠師・弓使い・魔術師。それ以外にも十数人。
彼らは全員、冒険者という職業なのだとか。
戦士も魔術師も職業だろうに。違いはなんであろう?
とにかく彼らの活躍で、無事、全ての魔物は討伐された。
だが村の被害は甚大だ。
逃げ遅れた何人もの村人が命を落としている。
「母上!」
神官とその仲間を連れ屋敷へと戻ると、石壁や建物があちこち破壊されたあとがあった。
家族は無事か。避難した村人は!?
「ルイン! あぁ、ルイン無事だったのね。心配したのよ、私の可愛い坊や」
「母上ぼくは無事です。それよりお父さんは? 村の人たちは?」
ぼくをぎゅっと抱きしめる母上は、耳元で「大丈夫。大丈夫よ」と繰り返す。
その言葉が真実であるかのように、駆けて来る少女の姿が見えた。
「ルインさまぁっ」
母上にぎゅっとされたままのぼくへ、フィリアが抱き着いた。
魔物は居なくなったが、彼女は未だ恐怖に憑りつかれたように体を震わせている。
その背中へとそっと手を回し、とんとんと優しく叩いてやる。
赤ん坊のころ、母上が良くしてくれたように。
「大丈夫だよフィリア。冒険者さんが来てくれたから、もう大丈夫だよ」
「うん……うん、ルインさま。フィリア、怖かった」
「ははは。フィリアは泣き虫だなぁ」
だばだばと大粒の涙を流す彼女へ、そう笑い掛けながら話す。
「だって……だってルインさま、ひとりで走って行っちゃうんだもん。フィリアは心配で心配で」
「そうよルイン。フィリアは泣きながらずっとあなたの名前を呼んで心配していたのよ」
「ルインさま……死なないで。ひとりで行っちゃわないで」
泣きじゃくる彼女は必死にぼくの服を掴んで離さない。
心配されることに、まだぼくは慣れていない。
魔王であったとき、いったい誰が心配なんかしてくれただろう。
大切にしたい。今のこの暮らしを。
だから――
「神官さま、ぼくを弟子にしてください!!」
「え? え? えぇぇ?」
一緒に屋敷までついて来てくれた神官に、ぼくは弟子入りを懇願するのだった。
闇属性に対抗するための、絶対的な力をぼくは手に入れて見せる!!
「神に祈っていれば聖属性魔法を習得できるの?」
「聖属性魔法っていうか、神聖魔法ね。神様にルインくんの気持ちが通じれば、きっと魔法を授かれるわよ」
魔物によるスタンピードから十日。
ほとんどの冒険者たちは帰って行ったが、神官の仲間たちはまだアルファート領に残っていた。
彼らは今、屋敷に寝泊まりして周辺の警護をしてくれている。
それもあと数日で終わるのだけれど。
「神官になりてぇってんなら、どっかの神殿に入信するのが手っ取り早いんだけどな」
そう教えてくれたのは神官さまのパーティーに居る戦士の男性だ。
どうやらこのパーティーのリーダーは彼のようだ。
勇者パーティーもそうだが、リーダーとは戦士系色が務めるもののようだな。
まぁ勇者がいつも戦士系職業だったから、そう思っているだけかもしれないけど。
「入信ですか? うぅん……」
ぼくは神が好きではない。
ぼくを……魔王ルディンバートを生み出したのは創造神だ。
神官が祈る神は創造神とは別の神だけれど、それでも神は神。
恨みなどは無いが好きになれない。
けれど祈らなければ神聖魔法が使えないというのなら、ぼくは祈ろう。
「ま、入信するには金がいる。だから止めとけ。な?」
「リーダー……だったら最初から勧めなきゃいいじゃん」
「何言ってんだロビン。俺はルイン坊には戦士を勧めてるんだぜ!」
「「え?」」
いや待てリーダー。
ぼくは戦士になりたいんじゃない。聖職者になりたいんだ! 元魔王だけど。
それからパーティーのリーダー、アデルは、執拗なまでにぼくを戦士になれー戦士になれーっと呪文を唱えていた。
どうやらゴブリンに攻められても悲鳴をあげず、耐えていた心意気を気に入ったとか何とかで。
あの程度は全然痛くないし、悲鳴を上げる程でもないだけだったんだけどなぁ。
数日程アデルが必死にぼくを戦士にしようと、体力の付け方、筋肉の鍛え方、そして剣術の基本なるものを教えてくれた。
うん……大変申し訳ないと思うよ。
教えて貰ったもの全て、前世でぼくが暇つぶしにやっていた事ばかりだから。
寧ろそれ、初歩の初歩であろう?
「よぉしルイン坊。これから毎日ずっと今のをやるんだぞ」
「……うん……」
「おいおい仕方ないみたいな顔するよな。お前には絶対戦士の才能があるから! あ、そうだ。おいライデン。ルイン坊を鑑定してやってくれないか?」
ライデン――パーティーの魔術師だ。
ほう、彼は鑑定魔法を持っているのか。この魔法、簡単そうで実は難しく、習得はかなり難しい部類だ。
眼鏡をくいっと上げる仕草をしたライデンは、溜息をひとつ吐き捨てながらぼくの下へとやって来る。
「手を出せ」
「う、うん――あ、ちょっと待ってっ」
危ない危ない!
うっかり素直に鑑定されるところだった。
ぼくの個人情報をそのまま見せるわけにはいかない。
なんたって元魔王って出るのだから。
「どうした?」
「う、うん……あ、あの。緊張して、手に汗掻いちゃった。井戸で洗ってきます」
「いや汗ぐら――」
ダッシュで屋敷の裏にある井戸へと向かう。ここで時間稼ぎだ。
幻影魔法で元魔王だの、魔王の生まれ変わりだのを見えなくする。
相手は魔術師だ。かなり強力な魔法で偽らねば。
属性情報は……よし。ここは聖属性の項目だけ残そう。
ふふ。聖属性しか持っていないとなれば、きっと聖職者の道しか選択できなくなる。
これでアデルもあきらめがつくだろう。
よし、準備出来た!
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる