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元魔王は決意する。

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 神官には仲間がいた。
 戦士・罠師・弓使い・魔術師。それ以外にも十数人。
 彼らは全員、冒険者という職業なのだとか。

 戦士も魔術師も職業だろうに。違いはなんであろう?
 とにかく彼らの活躍で、無事、全ての魔物は討伐された。
 だが村の被害は甚大だ。
 逃げ遅れた何人もの村人が命を落としている。

「母上!」

 神官とその仲間を連れ屋敷へと戻ると、石壁や建物があちこち破壊されたあとがあった。
 家族は無事か。避難した村人は!?

「ルイン! あぁ、ルイン無事だったのね。心配したのよ、私の可愛い坊や」
「母上ぼくは無事です。それよりお父さんは? 村の人たちは?」

 ぼくをぎゅっと抱きしめる母上は、耳元で「大丈夫。大丈夫よ」と繰り返す。
 その言葉が真実であるかのように、駆けて来る少女の姿が見えた。

「ルインさまぁっ」

 母上にぎゅっとされたままのぼくへ、フィリアが抱き着いた。
 魔物は居なくなったが、彼女は未だ恐怖に憑りつかれたように体を震わせている。
 その背中へとそっと手を回し、とんとんと優しく叩いてやる。
 赤ん坊のころ、母上が良くしてくれたように。

「大丈夫だよフィリア。冒険者さんが来てくれたから、もう大丈夫だよ」
「うん……うん、ルインさま。フィリア、怖かった」
「ははは。フィリアは泣き虫だなぁ」

 だばだばと大粒の涙を流す彼女へ、そう笑い掛けながら話す。

「だって……だってルインさま、ひとりで走って行っちゃうんだもん。フィリアは心配で心配で」
「そうよルイン。フィリアは泣きながらずっとあなたの名前を呼んで心配していたのよ」
「ルインさま……死なないで。ひとりで行っちゃわないで」

 泣きじゃくる彼女は必死にぼくの服を掴んで離さない。
 
 心配されることに、まだぼくは慣れていない。
 魔王であったとき、いったい誰が心配なんかしてくれただろう。

 大切にしたい。今のこの暮らしを。

 だから――

「神官さま、ぼくを弟子にしてください!!」
「え? え? えぇぇ?」

 一緒に屋敷までついて来てくれた神官に、ぼくは弟子入りを懇願するのだった。

 闇属性に対抗するための、絶対的な力をぼくは手に入れて見せる!!





「神に祈っていれば聖属性魔法を習得できるの?」
「聖属性魔法っていうか、神聖魔法ね。神様にルインくんの気持ちが通じれば、きっと魔法を授かれるわよ」

 魔物によるスタンピードから十日。
 ほとんどの冒険者たちは帰って行ったが、神官の仲間たちはまだアルファート領に残っていた。
 彼らは今、屋敷に寝泊まりして周辺の警護をしてくれている。
 それもあと数日で終わるのだけれど。

「神官になりてぇってんなら、どっかの神殿に入信するのが手っ取り早いんだけどな」

 そう教えてくれたのは神官さまのパーティーに居る戦士の男性だ。
 どうやらこのパーティーのリーダーは彼のようだ。
 勇者パーティーもそうだが、リーダーとは戦士系色が務めるもののようだな。
 まぁ勇者がいつも戦士系職業だったから、そう思っているだけかもしれないけど。

「入信ですか? うぅん……」

 ぼくは神が好きではない。
 ぼくを……魔王ルディンバートを生み出したのは創造神だ。
 神官が祈る神は創造神とは別の神だけれど、それでも神は神。
 恨みなどは無いが好きになれない。

 けれど祈らなければ神聖魔法が使えないというのなら、ぼくは祈ろう。

「ま、入信するには金がいる。だから止めとけ。な?」
「リーダー……だったら最初から勧めなきゃいいじゃん」
「何言ってんだロビン。俺はルイン坊には戦士を勧めてるんだぜ!」
「「え?」」

 いや待てリーダー。
 ぼくは戦士になりたいんじゃない。聖職者になりたいんだ! 元魔王だけど。

 それからパーティーのリーダー、アデルは、執拗なまでにぼくを戦士になれー戦士になれーっと呪文を唱えていた。
 どうやらゴブリンに攻められても悲鳴をあげず、耐えていた心意気を気に入ったとか何とかで。
 あの程度は全然痛くないし、悲鳴を上げる程でもないだけだったんだけどなぁ。

 数日程アデルが必死にぼくを戦士にしようと、体力の付け方、筋肉の鍛え方、そして剣術の基本なるものを教えてくれた。

 うん……大変申し訳ないと思うよ。
 教えて貰ったもの全て、前世でぼくが暇つぶしにやっていた事ばかりだから。
 寧ろそれ、初歩の初歩であろう?

「よぉしルイン坊。これから毎日ずっと今のをやるんだぞ」
「……うん……」
「おいおい仕方ないみたいな顔するよな。お前には絶対戦士の才能があるから! あ、そうだ。おいライデン。ルイン坊を鑑定してやってくれないか?」

 ライデン――パーティーの魔術師だ。
 ほう、彼は鑑定魔法を持っているのか。この魔法、簡単そうで実は難しく、習得はかなり難しい部類だ。
 眼鏡をくいっと上げる仕草をしたライデンは、溜息をひとつ吐き捨てながらぼくの下へとやって来る。

「手を出せ」
「う、うん――あ、ちょっと待ってっ」

 危ない危ない!
 うっかり素直に鑑定されるところだった。
 ぼくの個人情報をそのまま見せるわけにはいかない。
 なんたって元魔王って出るのだから。

「どうした?」
「う、うん……あ、あの。緊張して、手に汗掻いちゃった。井戸で洗ってきます」
「いや汗ぐら――」

 ダッシュで屋敷の裏にある井戸へと向かう。ここで時間稼ぎだ。
 幻影魔法で元魔王だの、魔王の生まれ変わりだのを見えなくする。
 相手は魔術師だ。かなり強力な魔法で偽らねば。
 
 属性情報は……よし。ここは聖属性の項目だけ残そう。
 ふふ。聖属性しか持っていないとなれば、きっと聖職者の道しか選択できなくなる。
 これでアデルもあきらめがつくだろう。

 よし、準備出来た!
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