4 / 50
元魔王の怒り。
しおりを挟む
収穫を終え、芋が入った籠をフィリアと二人で運ぶ。
芋は長期保存も効くので、これがこの村の冬越えには必要不可欠な栄養素だ。
ビバ芋!
浮足立って食料保存庫へと向かう途中、ふいに鼻先がむずむずと痒くなった。
「フィリア、ちょっと待って」
「どうしたんですか、ルインさまぁ」
「うん。鼻が痒いんだ」
「ふふ。じゃあ掻いてあげますね」
「うん、ありがとう」
籠を持ったまま、フィリアに顔を近づけると――
彼女の表情が固まった。
と同時に背後から臭い気配を感じた。
『ゴギャゴギャアァァ』
「きゃああぁあぁぁぁっ」
臭いソレが雄たけびを上げるのと、フィリアが悲鳴を上げるのとはほぼ同時。
臭いソレ=ゴブリンだったか?
背丈は今のぼくよりは少し高い程度。
ソレがぼくたちに向かって駆けて来た。
「ルインさま逃げなきゃっ。ルインさまっ」
ぐいぐいとぼくの袖を引っ張るフィリア。
だけどぼくの返事は――
「え? なんで?」
というもの。
逃げる必要があるようには見えない。勇者が来た時すら、最初の頃の4魔王は歓喜したぐらいだ。
話し相手が来た――と。
まぁ現実とは悲しいもので、どの勇者も似たようなセリフしか言わないし、問答無用で技を仕掛けてくるばかりだったが。
駆けて来たゴブリンを裏拳一発で吹っ飛ばす。
『ゴギャッ――』
短く悲鳴を上げたゴブリンは、そのままピクリとも動かなくなった。
「ル、ルインさま、凄い!」
「凄くないよ。だってゴブリンは――」
そうそう。ゴブリンって最雑魚だったな。
魔王だった頃に一度見た事があったが、僕を見た瞬間、恐怖のあまり心臓麻痺で死んだんだっけか。
だけど今は正気だった。
ぼくに恐怖していないという事?
つまりぼくは……ゴブリンにすら見下されている!?
いやそれよりもだ。
ゴブリンがこんな近くまで接近していたのに、ぼくは感知できなかった。
人の身に転生したことで、確実にぼくは弱くなっている。
くっ。なんたる不覚!
集中して感知魔法を発動させると、村の中に魔物の気配がいくつもあった。
「ぎゃああぁあぁぁぁっ」
遠くから聞こえる悲鳴。
怯えたフィリアが直ぐにぼくの下へと駆け寄る。
「ルインさま、怖い……」
「大丈夫だよフィリア。村はぼくが守るから」
なんたることか。
無事転生してスローライフが始まったばかりだろいうのに。
魔物による襲撃だと?
ぼくの……ぼくのスローライフを邪魔する奴らは何人たりとて許しはしない。
たとえ神々だろうとなぁ。くくくく。
「ルイン坊ちゃま! フィリア!」
ぼくたちの方へと駆けてくる人が居る。
フィリアの父上だ。後ろからは母上もやって来ていた。
二人とも無事で何より。
だが急がねば、村人が全滅し兼ねないな。
「おじさん、おばさん、フィリアをお願い。早く屋敷に逃げてっ」
「ルイン坊ちゃま!?」
「ルインさま!?」
ぼくは駆けた。
村の中央に向かって。
そして見た。
何十匹程かも魔物が、村の家屋を破壊し、村人を――
飛び交う潜血――悲鳴――命の火が消えていく。
くっ。やはり魔物の暴走――スタンピードか。
やめろ……何故邪魔をする……ぼくの……私の……
「平和なスローライフを汚すな!!」
全身に流れる魔力を、薄い膜のように体の表面に纏う。
薄く、だが鋭く。
触れたモノを確実に切り裂く、闇の衣と化す。
魔物の集団へと駆け寄るが、ぼくはそれに少し触れるだけ。
そうするだけで魔物はスパっと切れて、同時に闇に蝕まれ蒸発す――るは、ず?
『グギャオオォォォッ』
「んん? どうしてスパっと切れないで、中途半端なんだろう」
切れないし、蒸発もしない。おかげで臓物が駄々洩れ状態だ。
たまたまだろうか?
ならこいつはどうだ?
闇の衣に僅かだけ魔力を注ぎ込む。これで切れ味は増したは……ずなんだけどなぁ。
『ギャアオオオオォォォッ』
こいつはオーガだったか。やたら悲鳴が五月蠅い。
おかしい。
オーガはそれほど頑丈な魔物であったか?
確殺できていないのは何故だ?
こいつも!
『グゲエェェッ』
こいつもか!
『ガハアァァアァァッ』
何十匹に触れようが、こいつらを一撃で仕留めることが出来なくなっている。
転生によってここまで力が衰えたか。
それとも――魔物側が強くなった?
「我に全てをさらけ出せ。鑑定――」
芋は長期保存も効くので、これがこの村の冬越えには必要不可欠な栄養素だ。
ビバ芋!
浮足立って食料保存庫へと向かう途中、ふいに鼻先がむずむずと痒くなった。
「フィリア、ちょっと待って」
「どうしたんですか、ルインさまぁ」
「うん。鼻が痒いんだ」
「ふふ。じゃあ掻いてあげますね」
「うん、ありがとう」
籠を持ったまま、フィリアに顔を近づけると――
彼女の表情が固まった。
と同時に背後から臭い気配を感じた。
『ゴギャゴギャアァァ』
「きゃああぁあぁぁぁっ」
臭いソレが雄たけびを上げるのと、フィリアが悲鳴を上げるのとはほぼ同時。
臭いソレ=ゴブリンだったか?
背丈は今のぼくよりは少し高い程度。
ソレがぼくたちに向かって駆けて来た。
「ルインさま逃げなきゃっ。ルインさまっ」
ぐいぐいとぼくの袖を引っ張るフィリア。
だけどぼくの返事は――
「え? なんで?」
というもの。
逃げる必要があるようには見えない。勇者が来た時すら、最初の頃の4魔王は歓喜したぐらいだ。
話し相手が来た――と。
まぁ現実とは悲しいもので、どの勇者も似たようなセリフしか言わないし、問答無用で技を仕掛けてくるばかりだったが。
駆けて来たゴブリンを裏拳一発で吹っ飛ばす。
『ゴギャッ――』
短く悲鳴を上げたゴブリンは、そのままピクリとも動かなくなった。
「ル、ルインさま、凄い!」
「凄くないよ。だってゴブリンは――」
そうそう。ゴブリンって最雑魚だったな。
魔王だった頃に一度見た事があったが、僕を見た瞬間、恐怖のあまり心臓麻痺で死んだんだっけか。
だけど今は正気だった。
ぼくに恐怖していないという事?
つまりぼくは……ゴブリンにすら見下されている!?
いやそれよりもだ。
ゴブリンがこんな近くまで接近していたのに、ぼくは感知できなかった。
人の身に転生したことで、確実にぼくは弱くなっている。
くっ。なんたる不覚!
集中して感知魔法を発動させると、村の中に魔物の気配がいくつもあった。
「ぎゃああぁあぁぁぁっ」
遠くから聞こえる悲鳴。
怯えたフィリアが直ぐにぼくの下へと駆け寄る。
「ルインさま、怖い……」
「大丈夫だよフィリア。村はぼくが守るから」
なんたることか。
無事転生してスローライフが始まったばかりだろいうのに。
魔物による襲撃だと?
ぼくの……ぼくのスローライフを邪魔する奴らは何人たりとて許しはしない。
たとえ神々だろうとなぁ。くくくく。
「ルイン坊ちゃま! フィリア!」
ぼくたちの方へと駆けてくる人が居る。
フィリアの父上だ。後ろからは母上もやって来ていた。
二人とも無事で何より。
だが急がねば、村人が全滅し兼ねないな。
「おじさん、おばさん、フィリアをお願い。早く屋敷に逃げてっ」
「ルイン坊ちゃま!?」
「ルインさま!?」
ぼくは駆けた。
村の中央に向かって。
そして見た。
何十匹程かも魔物が、村の家屋を破壊し、村人を――
飛び交う潜血――悲鳴――命の火が消えていく。
くっ。やはり魔物の暴走――スタンピードか。
やめろ……何故邪魔をする……ぼくの……私の……
「平和なスローライフを汚すな!!」
全身に流れる魔力を、薄い膜のように体の表面に纏う。
薄く、だが鋭く。
触れたモノを確実に切り裂く、闇の衣と化す。
魔物の集団へと駆け寄るが、ぼくはそれに少し触れるだけ。
そうするだけで魔物はスパっと切れて、同時に闇に蝕まれ蒸発す――るは、ず?
『グギャオオォォォッ』
「んん? どうしてスパっと切れないで、中途半端なんだろう」
切れないし、蒸発もしない。おかげで臓物が駄々洩れ状態だ。
たまたまだろうか?
ならこいつはどうだ?
闇の衣に僅かだけ魔力を注ぎ込む。これで切れ味は増したは……ずなんだけどなぁ。
『ギャアオオオオォォォッ』
こいつはオーガだったか。やたら悲鳴が五月蠅い。
おかしい。
オーガはそれほど頑丈な魔物であったか?
確殺できていないのは何故だ?
こいつも!
『グゲエェェッ』
こいつもか!
『ガハアァァアァァッ』
何十匹に触れようが、こいつらを一撃で仕留めることが出来なくなっている。
転生によってここまで力が衰えたか。
それとも――魔物側が強くなった?
「我に全てをさらけ出せ。鑑定――」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
父の浮気相手は私の親友でした。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるティセリアは、父の横暴に対して怒りを覚えていた。
彼は、妻であるティセリアの母を邪険に扱っていたのだ。
しかしそれでも、自分に対しては真っ当に父親として接してくれる彼に対して、ティセリアは複雑な思いを抱いていた。
そんな彼女が悩みを唯一打ち明けられるのは、親友であるイルーネだけだった。
その友情は、大切にしなければならない。ティセリアは日頃からそのように思っていたのである。
だが、そんな彼女の思いは一瞬で打ち砕かれることになった。
その親友は、あろうことかティセリアの父親と関係を持っていたのだ。
それによって、ティセリアの中で二人に対する情は崩れ去った。彼女にとっては、最早どちらも自身を裏切った人達でしかなくなっていたのだ。
最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜
鬱沢色素
恋愛
伯爵家の令嬢であるエルナは、第一王子のレナルドの婚約者だ。
しかしレナルドはエルナを軽んじ、平民のアイリスと仲睦まじくしていた。
さらにあらぬ疑いをかけられ、エルナは『悪役令嬢』として処刑されてしまう。
だが、エルナが目を覚ますと、レナルドに婚約の一時停止を告げられた翌日に死に戻っていた。
破滅は一年後。
いずれ滅ぶ祖国を見捨て、エルナは敵国の王子殿下の元へ向かうが──
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました
鳴宮野々花
恋愛
オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。
その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。
しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。
ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」
一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる──────
※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。
※※不貞行為の描写があります※※
※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
平凡な私が選ばれるはずがない
ハルイロ
恋愛
私が選ばれるはずはない。
だって両親の期待を裏切った出来損ないなのだから。
ずっとそうやって生きてきた。
それなのに、今更...。
今更、その方は私の前に現れた。
期待してはダメ。
縋ってはいけない。
私はもう諦めたのだから。
ある国の片田舎に、異能者の番となる特別な印を持った少女がいた。
しかし、その少女にはいつまで経っても迎えは来なかった。
両親に虐げられ、奴隷にまで落ちた少女は、全てを諦めながら残された人生を生きる。
自分を助けてくれた優しい人達に感謝しながら。
そんなある日、彼女は出会ってしまった。
彼女を切り捨てた美しい番と。
他視点あり
なろうでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる