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魔王、転生する。
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「魔王ルディンヴァート! 貴様もこれで最後だ!」
同じようなセリフを聞くのは、これで何度目だろうか。
この二千年もの間、私は二十四時間三百六十五日、魔王城《ここ》にずっと座っている。
ただ座っているだけで、こうして命を狙われる簡単なお仕事だ。
疲れを知らぬ私には睡眠も必要としない。目を閉じることはあっても、眠ることは無かった。
空腹感に襲われることも無い。
いつぞやか倒した勇者一行が持っていた携帯食なるものを食ってはみたが、食感を楽しむことは出来ても味を楽しむことは出来ず。
味覚が備わっていないことに絶望したりもした。
「平和の為、魔王ルディンヴァートよ、今ここで死ね!」
毎度毎度お馴染みのセリフも聞き飽きた。
本当に平和とやらは訪れるのか。
訪れるというなら、私にも平和を堪能する権利があってもいいだろう?
そうだ。
私だって平和というものを満喫してみたい!
好きで魔王として誕生したのではない。
光と闇、力の均衡の為に私が創られたのだ。神々すらも恐れる存在として。
そのくせ私の行動できる範囲は、この玉座から半径五メートル以内。
勇者一行が約百年に一回訪れるだけの、寂しい場所だ。
魔物どもさえ私を恐れ服従しているものの、望んでもいないのに勝手に異種族を襲い、殺し、世界を恐怖に染めようとしている。
するなと言いたくても、誰も魔王城に来ないのだから命令すら出来ない。
こんな……
こんな嫌がらせのような魔王人生はもう嫌だ!!
「魔王、覚悟!!」
ふかふかのベッドで眠りたい!
「これで最後だ、魔王! 閃光雷神撃!」
味のある物を食べてみたい!
「魔王よ、滅びなさい! 召喚・大精霊リヴァイアサン!」
この部屋以外の景色を見てみたい!
「必中・業火の矢!!」
自由に旅をしたい!!
「神の名の下、悪しき魔王よ覚悟なさい。光あれ――シャイニングフラッシュ!」
のんびりとした暮らし……スローライフを送りたい!!
「くっ。何故だ。何故奴は俺たちの全力の攻撃を浴びてなお、平然としているのだ!?」
痛くないからに決まっていよう。
「これほどなの……これほどまでに魔王は強大だというの!?」
逆にお前たちはいつの時代でも弱すぎる。
「勇者。俺たちにはもうどうすることもできんっ。あとはお前の技しかない!」
「あぁ、分かっている! 正義の鉄槌、受けてみよ! 絶対正義・超絶聖光剣!」
ふっ。殺されてやろう。
そして私は平和な世に生まれ変わる。
転生魔法を使って!!
「うおおおぉぉぉぉっ!」
「えー、ちょっと待って――」
勇者が必殺の一撃を私の胸に突き立てている間に、急いで転生魔法を構築する。
といっても使ったことも無ければ、今この場で即興作成だ。
急げ、急げ、勇者を待たせては失礼だ。
魂にしっかり私の記憶を固定し、四散しないようコーティングして。
私が死んですぐに平和にというのも難しいだろう。せめて何十年かは眠っておかなければ。
出来ればのんびり暮らせる場所に生まれ変わりたい。
時空間魔法――蘇生魔法――封印魔法――これらをミックスしてっと。
おっと、勇者が疲れ始めているではないか。
剣先を胸に突き立てたまま、必死に刃を食い込ませようと渾身の力で押しているのだろう。
だけどね、うん。その程度の力では、私の胸に突き刺すことはできないから。
だから私が手伝ってやろう――
「勇者よ、私の首を落とすがいい」
「はぁ、はぁ……くっ、馬鹿にしやがってクソがああぁぁぁ! ――あ?」
勇者の剣が首筋に触れ、一度は勢いが止まった。
だがそこへ私が手を添え、刃を押す。
私が見た最後の光景、それは――呆気にとられた、なんとも間抜けな勇者の顔だった。
転生魔法。僅か数秒で作ってみたが、どうやら上手く完成したようだ。
私は魔王――いや、元魔王ルディンヴァート。
その記憶を持ったまま、今、産まれた!
「ほぎゃー。ほぎゃー」
んん?
万歳と言おうとしたのだが……
「ほぎゃー。ほぎゃー」
あ、うん。赤子というものだったな。
そうだそうだ。人の身に生まれ変わるように設定してあるから、赤子なのだ。
わー。赤ちゃんになるの初めて。
声帯がまだ未発達であるし、舌の筋肉もまだ弱く動かしづらい。
なるほど。これは暫くまともに喋れぬな。
いやいや、なかなか良いではないか。
つまり私はこれから成長というものを体験できるという訳だ。
素晴らしい!
「ほぎゃ、ほぎゃー」
嬉しさのあまり手足を精一杯動かしていると、ふと体が宙へと浮く。
視界はぼんやりしていてハッキリとは見えないが、どうやら何者かに抱き上げられたようだ。
私の命を狙う者か!?
ここは防御魔法を我が身に展開して――
「生まれたばかりだというのに、随分と元気な息子だ」
「ふふ。そうですわね、あなた」
「ほぎゃ?」
声の様子からすると、若い男女のようだ。
は!?
これはもしや、両親というものだったりするのか!?
「髪があなたに似て黒いけれど……光の加減で赤っぽくも見えるわね」
「目の色は……赤紫色かな?」
「ふふ。まるで宝石みたい。きっと『漆黒の闇よりいでし王子さまのよう』だなんて言われるのよぉ~」
「し、漆黒……ま、まぁなんにせよ、君に似て美形に育つだろう」
「ふふ。あなたに似て美形に育つのよ」
「そ、そうかなぁ。あはは」
「うふふ」
やはり両親ではないか!
両親、初体験頂きましたーっ!
同じようなセリフを聞くのは、これで何度目だろうか。
この二千年もの間、私は二十四時間三百六十五日、魔王城《ここ》にずっと座っている。
ただ座っているだけで、こうして命を狙われる簡単なお仕事だ。
疲れを知らぬ私には睡眠も必要としない。目を閉じることはあっても、眠ることは無かった。
空腹感に襲われることも無い。
いつぞやか倒した勇者一行が持っていた携帯食なるものを食ってはみたが、食感を楽しむことは出来ても味を楽しむことは出来ず。
味覚が備わっていないことに絶望したりもした。
「平和の為、魔王ルディンヴァートよ、今ここで死ね!」
毎度毎度お馴染みのセリフも聞き飽きた。
本当に平和とやらは訪れるのか。
訪れるというなら、私にも平和を堪能する権利があってもいいだろう?
そうだ。
私だって平和というものを満喫してみたい!
好きで魔王として誕生したのではない。
光と闇、力の均衡の為に私が創られたのだ。神々すらも恐れる存在として。
そのくせ私の行動できる範囲は、この玉座から半径五メートル以内。
勇者一行が約百年に一回訪れるだけの、寂しい場所だ。
魔物どもさえ私を恐れ服従しているものの、望んでもいないのに勝手に異種族を襲い、殺し、世界を恐怖に染めようとしている。
するなと言いたくても、誰も魔王城に来ないのだから命令すら出来ない。
こんな……
こんな嫌がらせのような魔王人生はもう嫌だ!!
「魔王、覚悟!!」
ふかふかのベッドで眠りたい!
「これで最後だ、魔王! 閃光雷神撃!」
味のある物を食べてみたい!
「魔王よ、滅びなさい! 召喚・大精霊リヴァイアサン!」
この部屋以外の景色を見てみたい!
「必中・業火の矢!!」
自由に旅をしたい!!
「神の名の下、悪しき魔王よ覚悟なさい。光あれ――シャイニングフラッシュ!」
のんびりとした暮らし……スローライフを送りたい!!
「くっ。何故だ。何故奴は俺たちの全力の攻撃を浴びてなお、平然としているのだ!?」
痛くないからに決まっていよう。
「これほどなの……これほどまでに魔王は強大だというの!?」
逆にお前たちはいつの時代でも弱すぎる。
「勇者。俺たちにはもうどうすることもできんっ。あとはお前の技しかない!」
「あぁ、分かっている! 正義の鉄槌、受けてみよ! 絶対正義・超絶聖光剣!」
ふっ。殺されてやろう。
そして私は平和な世に生まれ変わる。
転生魔法を使って!!
「うおおおぉぉぉぉっ!」
「えー、ちょっと待って――」
勇者が必殺の一撃を私の胸に突き立てている間に、急いで転生魔法を構築する。
といっても使ったことも無ければ、今この場で即興作成だ。
急げ、急げ、勇者を待たせては失礼だ。
魂にしっかり私の記憶を固定し、四散しないようコーティングして。
私が死んですぐに平和にというのも難しいだろう。せめて何十年かは眠っておかなければ。
出来ればのんびり暮らせる場所に生まれ変わりたい。
時空間魔法――蘇生魔法――封印魔法――これらをミックスしてっと。
おっと、勇者が疲れ始めているではないか。
剣先を胸に突き立てたまま、必死に刃を食い込ませようと渾身の力で押しているのだろう。
だけどね、うん。その程度の力では、私の胸に突き刺すことはできないから。
だから私が手伝ってやろう――
「勇者よ、私の首を落とすがいい」
「はぁ、はぁ……くっ、馬鹿にしやがってクソがああぁぁぁ! ――あ?」
勇者の剣が首筋に触れ、一度は勢いが止まった。
だがそこへ私が手を添え、刃を押す。
私が見た最後の光景、それは――呆気にとられた、なんとも間抜けな勇者の顔だった。
転生魔法。僅か数秒で作ってみたが、どうやら上手く完成したようだ。
私は魔王――いや、元魔王ルディンヴァート。
その記憶を持ったまま、今、産まれた!
「ほぎゃー。ほぎゃー」
んん?
万歳と言おうとしたのだが……
「ほぎゃー。ほぎゃー」
あ、うん。赤子というものだったな。
そうだそうだ。人の身に生まれ変わるように設定してあるから、赤子なのだ。
わー。赤ちゃんになるの初めて。
声帯がまだ未発達であるし、舌の筋肉もまだ弱く動かしづらい。
なるほど。これは暫くまともに喋れぬな。
いやいや、なかなか良いではないか。
つまり私はこれから成長というものを体験できるという訳だ。
素晴らしい!
「ほぎゃ、ほぎゃー」
嬉しさのあまり手足を精一杯動かしていると、ふと体が宙へと浮く。
視界はぼんやりしていてハッキリとは見えないが、どうやら何者かに抱き上げられたようだ。
私の命を狙う者か!?
ここは防御魔法を我が身に展開して――
「生まれたばかりだというのに、随分と元気な息子だ」
「ふふ。そうですわね、あなた」
「ほぎゃ?」
声の様子からすると、若い男女のようだ。
は!?
これはもしや、両親というものだったりするのか!?
「髪があなたに似て黒いけれど……光の加減で赤っぽくも見えるわね」
「目の色は……赤紫色かな?」
「ふふ。まるで宝石みたい。きっと『漆黒の闇よりいでし王子さまのよう』だなんて言われるのよぉ~」
「し、漆黒……ま、まぁなんにせよ、君に似て美形に育つだろう」
「ふふ。あなたに似て美形に育つのよ」
「そ、そうかなぁ。あはは」
「うふふ」
やはり両親ではないか!
両親、初体験頂きましたーっ!
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