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23話:新天地に向け
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港町ウィデンにやってきて三日目。
この日、迷宮都市グラスデンを目指して出発した。
「じゃあグラスデンまで直通じゃなくって、途中の町で乗り換えるのか」
「えぇ。さすがに長距離だもの。直通の馬車なんて無いわ」
地図を広げ、港町から迷宮都市までを確認する。港町から北上し、少しだけ東にずれた位置にグランデスはあった。
そのすぐ北は山脈になっていて、これが北東に伸びる形になっている。その山脈を境に、北と南とで国が違っていた。
「俺たちが今いるのがケイウッド王国で、北がミシュリクン王国か」
「えぇ。二か国は友好国らしいわね。ミシュリクンの方にもダンジョンがあるだろうし、拠点にするには凄く良さそう」
「それで、北のグラスデンを目指すのに、なんで東に?」
「ん。それはね、この川よ」
地図には港町ウィデンの東に川が描かれていた。結構大きな川だと思う。
その川は北の国境まで伸びていた。途中でお城の絵の西側を通っているようだけど、たぶんそこが王都なんだろう。
「水の町リプトンという所から船が出ているんですって。川を上る方が移動が速いっていうなら」
「そっか。長距離だしな」
「乗合馬車だと途中で二回乗り継ぎがあるんだけど、その都度数日の足止めがあるのよね」
当然、その数日は宿に泊まることになるので宿泊費用が掛かる。
そういうのも考えると、結局ほとんど金額は変わらなくなるのだろう。
「それでいて船だとリプトンから迷宮都市に一番近い町デンシトまで四日ですって」
「四日でも早いのか……」
「馬車だと待ち日数も含めて二十日よ」
半月以上かぁ。車のないファンタジー世界だと、そうなるのも仕方ないのか。
港町を出発した翌日の昼をだいぶん過ぎた頃、水の町リプトンへと到着した。
船はすぐに出ると言うので、急いでお金を払って乗船。
「ふぅ、間に合った……けど、船賃で所持金がほとんど消えちゃったよ」
「向こうに着いたらさっそくダンジョンに入ってお金を稼がないとね」
「そうだね。ところでルーシェ、通貨の単位が価値を聞いておきたいんだけど。いいかな?」
「あっ。そうね。生活するうえで大事なことよね」
「にゃ~。オイラも勉強勉強」
船はそれほど大きくもなく、遊覧船よりもう少し小さいぐらいかな。
船倉に二段ベッドがいくつもあって、その一つが俺たちの寝床になる。
なお、個室は物凄い金額だったので当然却下だ。
二段ベッドの上で、ルーシェが金貨と銀貨、そして大小の銅貨を一枚ずつ取り出した。
「通貨の単位はゴルドよ。小さい銅貨一枚が1ゴルド。大きい銅貨は10ゴルド。銀貨が100ゴルドで、金貨は1000ゴルドね」
「ふんふん」
「普通のお店で売られている、一番安いパンが1ゴルド。果物なんかも1ゴルドで買える物がいくつかあるわ」
パン一個が1ゴルドってことは、百円ぐらいだと思えばいいのかな。
港町の宿が一泊50Gだったのを考えると、なんとなく価値としてはそんな感じかなと思う。
そして船賃はひとり850Gだった。三人で2,550G。
神様に貰ったお金が1,000Gあったけれど、出発前に港町でいろいろ買ったのでほとんど残っていない。
小島ダンジョンでのドロップ品の売却で出来たお金も、馬車の運賃、そして船の運賃とでほとんど消えた。
第二の人生、いきなり貧乏生活でスタートとはな。
ははは。
四日間の船旅は順調──でもなかった。
川の中にはリバーフィッシュマンという、川に生息する半魚人がいて、時々船を襲いにやって来る。
そいつらを撃退しながら進むという、なかなかにハードな船旅だった。
そうして四日目の昼過ぎにはデンシトという町に到着。
船はここから北には進めず、終着駅みたいなもの。船着き場はそのまま大きな橋になっていて、対岸まで続いているようだ。
町で一泊……はせずに、そのまま馬車に乗り込んで、その日の夜に迷宮都市グラスデンへと到着した。
高い壁に囲まれた町の中心部には塔があって、月明かりに照らされその姿ははっきりと見える。
「塔もダンジョンだって言うけど、あれがダンジョン? 確かに高さはあるけど、一階当たりの広さはせいぜい数部屋分じゃないかな」
間近で見ている訳ではないけれど、塔の幅はダンジョンがあるほど太くはない。せいぜい百メートルか、それぐらだろう。
「あぁ、それね。ダンジョンって、地上と中とでは空間が違うの」
「んにゃ~。一つのダンジョンで、一つの世界みたいなものにゃ。そこは四角い世界で、何層にも分かれているんにゃ」
「はぁ……」
だから外見があんなでも、中身は広大なダンジョンになっていることもあるとミトは言う。
それに、別の空間──世界でもなければ、地面の下は空洞だらけで崩落するにゃ、とも。
言われてみればそうか。
あんな小さな島の下が空洞だったら、陥没して海の底に沈んでいるはず。
いや、地下一階からして海の中のはずなんだよ。
町のどこからでも見える塔。
まずはその地下の攻略からだな。
だけどその前に……。
「えっと、今夜の宿を探さないか?」
とにかく今は、何か食べたい。
そして揺れないベッドで眠りたい。
この日、迷宮都市グラスデンを目指して出発した。
「じゃあグラスデンまで直通じゃなくって、途中の町で乗り換えるのか」
「えぇ。さすがに長距離だもの。直通の馬車なんて無いわ」
地図を広げ、港町から迷宮都市までを確認する。港町から北上し、少しだけ東にずれた位置にグランデスはあった。
そのすぐ北は山脈になっていて、これが北東に伸びる形になっている。その山脈を境に、北と南とで国が違っていた。
「俺たちが今いるのがケイウッド王国で、北がミシュリクン王国か」
「えぇ。二か国は友好国らしいわね。ミシュリクンの方にもダンジョンがあるだろうし、拠点にするには凄く良さそう」
「それで、北のグラスデンを目指すのに、なんで東に?」
「ん。それはね、この川よ」
地図には港町ウィデンの東に川が描かれていた。結構大きな川だと思う。
その川は北の国境まで伸びていた。途中でお城の絵の西側を通っているようだけど、たぶんそこが王都なんだろう。
「水の町リプトンという所から船が出ているんですって。川を上る方が移動が速いっていうなら」
「そっか。長距離だしな」
「乗合馬車だと途中で二回乗り継ぎがあるんだけど、その都度数日の足止めがあるのよね」
当然、その数日は宿に泊まることになるので宿泊費用が掛かる。
そういうのも考えると、結局ほとんど金額は変わらなくなるのだろう。
「それでいて船だとリプトンから迷宮都市に一番近い町デンシトまで四日ですって」
「四日でも早いのか……」
「馬車だと待ち日数も含めて二十日よ」
半月以上かぁ。車のないファンタジー世界だと、そうなるのも仕方ないのか。
港町を出発した翌日の昼をだいぶん過ぎた頃、水の町リプトンへと到着した。
船はすぐに出ると言うので、急いでお金を払って乗船。
「ふぅ、間に合った……けど、船賃で所持金がほとんど消えちゃったよ」
「向こうに着いたらさっそくダンジョンに入ってお金を稼がないとね」
「そうだね。ところでルーシェ、通貨の単位が価値を聞いておきたいんだけど。いいかな?」
「あっ。そうね。生活するうえで大事なことよね」
「にゃ~。オイラも勉強勉強」
船はそれほど大きくもなく、遊覧船よりもう少し小さいぐらいかな。
船倉に二段ベッドがいくつもあって、その一つが俺たちの寝床になる。
なお、個室は物凄い金額だったので当然却下だ。
二段ベッドの上で、ルーシェが金貨と銀貨、そして大小の銅貨を一枚ずつ取り出した。
「通貨の単位はゴルドよ。小さい銅貨一枚が1ゴルド。大きい銅貨は10ゴルド。銀貨が100ゴルドで、金貨は1000ゴルドね」
「ふんふん」
「普通のお店で売られている、一番安いパンが1ゴルド。果物なんかも1ゴルドで買える物がいくつかあるわ」
パン一個が1ゴルドってことは、百円ぐらいだと思えばいいのかな。
港町の宿が一泊50Gだったのを考えると、なんとなく価値としてはそんな感じかなと思う。
そして船賃はひとり850Gだった。三人で2,550G。
神様に貰ったお金が1,000Gあったけれど、出発前に港町でいろいろ買ったのでほとんど残っていない。
小島ダンジョンでのドロップ品の売却で出来たお金も、馬車の運賃、そして船の運賃とでほとんど消えた。
第二の人生、いきなり貧乏生活でスタートとはな。
ははは。
四日間の船旅は順調──でもなかった。
川の中にはリバーフィッシュマンという、川に生息する半魚人がいて、時々船を襲いにやって来る。
そいつらを撃退しながら進むという、なかなかにハードな船旅だった。
そうして四日目の昼過ぎにはデンシトという町に到着。
船はここから北には進めず、終着駅みたいなもの。船着き場はそのまま大きな橋になっていて、対岸まで続いているようだ。
町で一泊……はせずに、そのまま馬車に乗り込んで、その日の夜に迷宮都市グラスデンへと到着した。
高い壁に囲まれた町の中心部には塔があって、月明かりに照らされその姿ははっきりと見える。
「塔もダンジョンだって言うけど、あれがダンジョン? 確かに高さはあるけど、一階当たりの広さはせいぜい数部屋分じゃないかな」
間近で見ている訳ではないけれど、塔の幅はダンジョンがあるほど太くはない。せいぜい百メートルか、それぐらだろう。
「あぁ、それね。ダンジョンって、地上と中とでは空間が違うの」
「んにゃ~。一つのダンジョンで、一つの世界みたいなものにゃ。そこは四角い世界で、何層にも分かれているんにゃ」
「はぁ……」
だから外見があんなでも、中身は広大なダンジョンになっていることもあるとミトは言う。
それに、別の空間──世界でもなければ、地面の下は空洞だらけで崩落するにゃ、とも。
言われてみればそうか。
あんな小さな島の下が空洞だったら、陥没して海の底に沈んでいるはず。
いや、地下一階からして海の中のはずなんだよ。
町のどこからでも見える塔。
まずはその地下の攻略からだな。
だけどその前に……。
「えっと、今夜の宿を探さないか?」
とにかく今は、何か食べたい。
そして揺れないベッドで眠りたい。
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