17 / 42
17:卵の中から
しおりを挟む
「つまり、マスターは異世界人。死因は溺死」
「いや、そこまで言わなくていいから」
「そっちの女は船が沈没して溺死できず島に流れ着いたと」
「その言い方はなんなのよ。まるで溺死して欲しかったみたいね」
「当たり前ですぅ」
俺の事情、ルーシェの事情をトーカに話して、その結果が今のこの状況なのだと説明した。
「と言う訳で、この島でダンジョン生活をする訳にもいかないんだよね」
「あの……生活……」
「本当にダンジョンに住むつもりなので、タクミは……」
「まぁ住む住まないどちらにしろ、この小さな島から脱出しないとなぁ」
そろそろ陽が沈む。西の水平線が真っ赤に染まっていた。
大きな夕日を見つめながら、俺たち三人は途方に暮れる。
どうやったらこの大海原を渡ることができるのか……。
「切り株倒しまくって、イカダ……いや沈没確定だよね」
「当たり前じゃない。気持ちは分かるけど」
「船が通るのを待つしかないですねぇ」
船なんて通るのかなぁ。
その日は地上に焚火を置くことにした。星の明かり以外、光源のない海の上なら焚火の火は目立つはず。
きっと誰かが見たらすぐに気づいてくれる──と思う。
「ただずっと船を待っている訳にもいかない。食糧の問題もあるしね」
インベントリを開いて確認する。俺が持っているのはもう肉だけだ。
肉だけで何日か過ごすのはいいけれど、何十日ともなると辛い。
「そうね。私のほうも食料は少ないし」
「トーカは持ってませぇーん。精霊は食事を必要としないですからぁ」
「羨ましいやつ……と言う訳で、自力で脱出する方法も考えないとなぁ。トーカ、ダンジョンオブジェに船はなかったか?」
「え、ありますけどぉ……誰が動かすんですかぁ?」
……そうだった。ボートなら俺も漕げるけど、イカダより少しマシ程度。沈没コースまっしぐらじゃないか。
船乗り召喚とか出来ないのかなぁ。
「いっそこのモンスターエッグの中身が、水棲モンスターだったらなぁ」
「え? モンスターエッグをお持ちなのですかマスター?」
「あぁ。そこのダンジョンの最下層で手に入れたんだ」
取り出した卵はダチョウのそれより少し小さいぐらい。赤茶色と白のブチ模様だ。
それを膝に抱いて軽く撫でてやった。
「なぁお前。俺たちを人の住む大陸まで運んでくれないか?」
なんて卵にお願いしても仕方ないんだけど、それほどに困っているのも事実。
ほんと、誰でもいいからこの島から脱出させてくれないかな。
「食事の支度にしましょうか──タクミ! た、卵撫でてる!?」
「え、あぁー、うん。こいつが俺たちを島から脱出させてくれたりしないかなーなんて思ってさ」
その時、パキパキと音がして。
膝に抱いた卵にヒビが入っていた。
そのヒビから光が漏れ、突然大きくなり始める。
その途中で穴が空き、茶色い……動物の尻尾──いや猫の尻尾のようなものが飛び出した。
卵は50センチほどまで膨らむと、そこからブルブルと震え出した。
「ル、ルーシェ!?」
「うそ、孵化が始まっちゃった」
「あら、この子は──」
これから生まれようとしているモンスターを、トーカは知っている?
パッカン。
そんな間の抜けた音がして、卵が上下に割れた。
卵の中から出てきたのは……
「三毛……猫?」
卵の上半分をバンザイポーズで持ち上げた三毛猫が、立っていた。
「にゃ~。オイラはケットシーにゃ。求めに応じて、こっちの世界に来たにゃ~よ」
「こ、こっちの世界?」
「にゃ~。オイラはこの世界と精霊界の狭間にある、幻想世界の住人にゃ」
モンスターじゃないってことか?
ルーシェを見ると、彼女は頬を染め、瞳を潤ませ三毛猫を見ていた。
「かわっ──」
と言ったっきり、両手で頬を覆って悶えているように見える。
萌え死ってやつかな?
しかし……希望していた水棲モンスターではなかった。むしろ水は嫌っていそう。
それに。
「ルーシェごめん……売る前に孵化してしまったよ」
「う、売る!? オイラを売るにゃん?」
三毛猫はうるうると瞳を潤ませ、卵の中に座り込んでしまった。
上半分を被るようにして、まるで卵に捨てられた猫状態に。
「い、いや。孵化したんじゃ売るつもりはないさ。大丈夫」
「にゃ~」
目を細めて三毛猫が立ち上がる。
「ところでケットシー。君は三毛猫だけど……雄、なのかい?」
「当然にゃよ。オイラがレディーに見えるにゃか? 見えるにゃね? 三毛にゃしねぇ。でも──」
ここで三毛猫──ケットシーは卵から飛び出し、シャキーンっとポーズを決める。
「オイラは超レアな毛並みのケットシーにゃ!」
そう言って、ドヤァみたいな顔でこちらを見た。
「オイラは所謂、魔法剣士スタイルにゃ」
陽が暮れて、焚火の明かりだけが小島を照らす。
ダンジョン内は日中ほどではないものの、結構明るい。だけどその明かりも外までは届かなかった。
ルーシェが食事の支度をしてくれている間に、ケットシーのことをいろいろ尋ねた。
ケットシーは魔法も剣術も得意だという。
「魔法は時空魔法と補助魔法が得意にゃねぇ」
「時空魔法?」
「有名なのだと、空間転移や隕石召喚とかにゃねぇ」
空間転移……テレポートかな?
……つまり島から脱出できるかも!?
「いや、そこまで言わなくていいから」
「そっちの女は船が沈没して溺死できず島に流れ着いたと」
「その言い方はなんなのよ。まるで溺死して欲しかったみたいね」
「当たり前ですぅ」
俺の事情、ルーシェの事情をトーカに話して、その結果が今のこの状況なのだと説明した。
「と言う訳で、この島でダンジョン生活をする訳にもいかないんだよね」
「あの……生活……」
「本当にダンジョンに住むつもりなので、タクミは……」
「まぁ住む住まないどちらにしろ、この小さな島から脱出しないとなぁ」
そろそろ陽が沈む。西の水平線が真っ赤に染まっていた。
大きな夕日を見つめながら、俺たち三人は途方に暮れる。
どうやったらこの大海原を渡ることができるのか……。
「切り株倒しまくって、イカダ……いや沈没確定だよね」
「当たり前じゃない。気持ちは分かるけど」
「船が通るのを待つしかないですねぇ」
船なんて通るのかなぁ。
その日は地上に焚火を置くことにした。星の明かり以外、光源のない海の上なら焚火の火は目立つはず。
きっと誰かが見たらすぐに気づいてくれる──と思う。
「ただずっと船を待っている訳にもいかない。食糧の問題もあるしね」
インベントリを開いて確認する。俺が持っているのはもう肉だけだ。
肉だけで何日か過ごすのはいいけれど、何十日ともなると辛い。
「そうね。私のほうも食料は少ないし」
「トーカは持ってませぇーん。精霊は食事を必要としないですからぁ」
「羨ましいやつ……と言う訳で、自力で脱出する方法も考えないとなぁ。トーカ、ダンジョンオブジェに船はなかったか?」
「え、ありますけどぉ……誰が動かすんですかぁ?」
……そうだった。ボートなら俺も漕げるけど、イカダより少しマシ程度。沈没コースまっしぐらじゃないか。
船乗り召喚とか出来ないのかなぁ。
「いっそこのモンスターエッグの中身が、水棲モンスターだったらなぁ」
「え? モンスターエッグをお持ちなのですかマスター?」
「あぁ。そこのダンジョンの最下層で手に入れたんだ」
取り出した卵はダチョウのそれより少し小さいぐらい。赤茶色と白のブチ模様だ。
それを膝に抱いて軽く撫でてやった。
「なぁお前。俺たちを人の住む大陸まで運んでくれないか?」
なんて卵にお願いしても仕方ないんだけど、それほどに困っているのも事実。
ほんと、誰でもいいからこの島から脱出させてくれないかな。
「食事の支度にしましょうか──タクミ! た、卵撫でてる!?」
「え、あぁー、うん。こいつが俺たちを島から脱出させてくれたりしないかなーなんて思ってさ」
その時、パキパキと音がして。
膝に抱いた卵にヒビが入っていた。
そのヒビから光が漏れ、突然大きくなり始める。
その途中で穴が空き、茶色い……動物の尻尾──いや猫の尻尾のようなものが飛び出した。
卵は50センチほどまで膨らむと、そこからブルブルと震え出した。
「ル、ルーシェ!?」
「うそ、孵化が始まっちゃった」
「あら、この子は──」
これから生まれようとしているモンスターを、トーカは知っている?
パッカン。
そんな間の抜けた音がして、卵が上下に割れた。
卵の中から出てきたのは……
「三毛……猫?」
卵の上半分をバンザイポーズで持ち上げた三毛猫が、立っていた。
「にゃ~。オイラはケットシーにゃ。求めに応じて、こっちの世界に来たにゃ~よ」
「こ、こっちの世界?」
「にゃ~。オイラはこの世界と精霊界の狭間にある、幻想世界の住人にゃ」
モンスターじゃないってことか?
ルーシェを見ると、彼女は頬を染め、瞳を潤ませ三毛猫を見ていた。
「かわっ──」
と言ったっきり、両手で頬を覆って悶えているように見える。
萌え死ってやつかな?
しかし……希望していた水棲モンスターではなかった。むしろ水は嫌っていそう。
それに。
「ルーシェごめん……売る前に孵化してしまったよ」
「う、売る!? オイラを売るにゃん?」
三毛猫はうるうると瞳を潤ませ、卵の中に座り込んでしまった。
上半分を被るようにして、まるで卵に捨てられた猫状態に。
「い、いや。孵化したんじゃ売るつもりはないさ。大丈夫」
「にゃ~」
目を細めて三毛猫が立ち上がる。
「ところでケットシー。君は三毛猫だけど……雄、なのかい?」
「当然にゃよ。オイラがレディーに見えるにゃか? 見えるにゃね? 三毛にゃしねぇ。でも──」
ここで三毛猫──ケットシーは卵から飛び出し、シャキーンっとポーズを決める。
「オイラは超レアな毛並みのケットシーにゃ!」
そう言って、ドヤァみたいな顔でこちらを見た。
「オイラは所謂、魔法剣士スタイルにゃ」
陽が暮れて、焚火の明かりだけが小島を照らす。
ダンジョン内は日中ほどではないものの、結構明るい。だけどその明かりも外までは届かなかった。
ルーシェが食事の支度をしてくれている間に、ケットシーのことをいろいろ尋ねた。
ケットシーは魔法も剣術も得意だという。
「魔法は時空魔法と補助魔法が得意にゃねぇ」
「時空魔法?」
「有名なのだと、空間転移や隕石召喚とかにゃねぇ」
空間転移……テレポートかな?
……つまり島から脱出できるかも!?
0
お気に入りに追加
1,468
あなたにおすすめの小説
本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~
日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。
そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。
ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。
身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。
様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。
何があっても関係ありません!
私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます!
『本物の恋、見つけました』の続編です。
二章から読んでも楽しめるようになっています。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
【完結】ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイの密かな悩み
ひなのさくらこ
恋愛
ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイ。低い爵位ながら巨万の富を持ち、その気になれば王族でさえ跪かせられるほどの力を持つ彼は、ひょんなことから路上生活をしていた美しい兄弟と知り合った。
どうやらその兄弟は、クーデターが起きた隣国の王族らしい。やむなく二人を引き取ることにしたアレクシスだが、兄のほうは性別を偽っているようだ。
亡国の王女などと深い関係を持ちたくない。そう思ったアレクシスは、二人の面倒を妹のジュリアナに任せようとする。しかし、妹はその兄(王女)をアレクシスの従者にすると言い張って――。
爵位以外すべてを手にしている男×健気系王女の恋の物語
※残酷描写は保険です。
※記載事項は全てファンタジーです。
※別サイトにも投稿しています。
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
【本編完結】妹に婚約者を奪われた私は、戦場の悪魔と呼ばれる辺境伯へと嫁ぎます。
かのん
恋愛
王家の命により、戦場の悪魔と呼ばれる辺境伯へと嫁ぐのは妹サマンサのはずだった。けれど、家族に愛されるサマンサは、結局家族に守られ、姉であるミラが辺境伯へと嫁ぐことになる。
婚約者に裏切られ、家族に裏切られた令嬢が、戦場の悪魔の元へ嫁ぐ話。
(戦場悪魔という二つ名が他の作品と被っていますが、無関係です。ww)
妹に婚約者を奪われた的な話に少しはまりました。少しでも読んでいただけたら嬉しいです。本編二十話完結、本日より毎日朝7時に公開します。おまけ+続編があります。
「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです
四馬㋟
ファンタジー
妹に婚約者を奪われた挙句、第二王女暗殺未遂の濡れ衣を着せられ、王国を追放されてしまった第一王女メアリ。しかし精霊に愛された彼女は、人を寄せ付けない<魔の森>で悠々自適なスローライフを送る。はずだったのだが、帝国の皇子の命を救ったことで、正体がバレてしまい……
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる