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14-食。

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 行きはよいよい帰りは――なんて歌があるが、悠斗たちはまったくその逆を行っている。
 行きは徒歩で苦労し、帰りはルティの空間転移魔法でひとっ飛びだ。
 悠斗の希望で出来るだけ大きな町へと移動した二人は、まずは道中で倒した魔物の素材を売ることにする。

 悠斗が意外に思ったのは、この世界に冒険者ギルドが存在しないことだ。そして冒険者という職業も存在しない。
 じゃあ魔物を倒して素材を売ったりして生計を立てている者たちをなんと呼ぶのか。
 ――特にない。
 
 では……
 Q:薬草採取のクエストは?
 A:薬師が命懸けで採取に行っている。なので薬は激高。
 
 Q:村に魔物が現れました。討伐退治の依頼はどこに出せば?
 A:町の衛兵に相談しましょう。もしくは偶然通りかかった強い人が助けてくれるかも?
 尚、衛兵が来てくれる可能性は限りなく低いです。自分たちで解決することをお勧めします。

 Q:護衛はどこで雇える?
 A:酒場で張り紙をすれば来てくれます。8割は前金貰ってトンズラしますが。

 悠斗とルティの問答で分かったことは、非常に残念な世界だということ。

(異世界に転移したら冒険者ギルドでしょやっぱり。それが無いなんて……)
 
 では素材の買取はどこがしてくれるのか。
 これが少し面倒である。

「冒険者ギルドでもあれば、全部まとめて買い取ってくれるんだろうけどなぁ」
「ユウト殿の世界にはあったのか?」
「無い」

 きっぱりと答える。
 冒険者ギルドは定番のファンタジー設定だが、地球にそんなものは存在しない。そもそも魔物が居ないのだし。

「えぇっと、売るのは一つ目ルナティックの毛皮と……肉はどうしよう?」
「大量にあっても仕方ないからなぁ。既に五日が過ぎているけど、痛んでいないのだろうか?」
「あぁ、それなら大丈夫。実はね」

 結局ルナティックの肉はまだ食べていない。DLフォルダに入ったままだ。
 DLフォルダに入っているうちは、鮮度が下がることは無い。そう説明すると、ルティは驚き目を大きくした。

「アイテムボックスでもそんな機能は無いのに……うぅん。鮮度が落ちないと言っても、三十もあるしなぁ」
「やっぱり必要ない物は売ろうか」
「そうしよう」

 二人はまず、精肉屋へと向かった。ここで一つ目ルナティックの肉を売る。
 一羽分10エルン。二十羽売って200エルンをゲット。
 次に毛皮専門店だ。ルナティックの毛皮はここで売ってしまう。三十羽分で450エルンになった。
 その他、アルマジロのような魔物が持つ甲羅は防具屋へ。数は少なかったが、一つ80エルンになり、これが五つ。400エルンだ。

 一か所でまとめて売却できないのは面倒だが、それがこの世界なのだから仕方がない。
 いろいろ合計すると1000エルンは超えた。これで美味しい物でも食べよう。





 町は内陸部にあった。ということで海の魚は一切食べられない。

「海鮮丼……食べたかったなぁ」

 美味しそうな香りが漂る屋台通りで、悠斗は今食べたい! と思う物が無いことに落ち込んだ。
 川魚にしても品数は少なく、この町のお勧めは肉料理のようだ。
 
「んー。じゃあ焼き鳥丼でもいいかなぁ。どこかに売ってないかなぁ」
「ユウト殿。さっきからどんどんと、何を言っているのだ?」
「あ、うん。丼っていうのはね、ご飯の上に素材を乗せて食べる食べ物の事なんだ。海鮮丼というのが――」

 刺身を乗せて――とルティに説明すれば、「さしみとはなんぞや?」と返ってくる。まずそこから説明せねばならないのだ。
 焼き鳥丼はあっさりと理解してくれたが、海鮮丼の説明には多少時間が掛かった。
 説明を聞いたルティの反応は、ある意味では悠斗にとって予想通りの物だ。

「ひ、火を通さず、生で魚を食べる!? 大丈夫なのか? お腹を痛めたりしないのか?」
「はは。大丈夫。もちろん鮮度が命だし、青魚なんかは注意が必要だ。特に夏場はね」

 そう。鮮度が大事だ。
 冷凍庫も無ければ冷凍車も無いこの異世界で、海沿いの町以外だと海鮮丼は不可能だろう。
 今度海沿いの町に連れて行って貰おう。そう心に決め、悠斗は焼き鳥丼を探し屋台を練り歩いた。
 結果。そもそも炊いたお米が無かった。

 お米料理がない訳ではない。パエリアやリゾットのように、スープや具材と一緒にフライパンで煮込んだような物はある。無いのは白米なのだ。

「せっかくこっちに来ても……案外思い通りにはいかないものだなぁ」
「こ、こっちに来たこと、後悔している?」

 何故かルティは不安そうに狼狽えだす。
 後悔はしていない。それ以前に社畜人生の末に死んだことは変わりないのだから。

「してないよ。まぁ俺が居た所《・》と比べて、いろいろ違うのは当たり前なんだ。出来ること出来ないこともいっぱいあるだろう。そういう違いを楽しむのも、こっちに来た人間の特権だからね」

 社畜人生で培ってきた営業スマイルがキラリと光る。
 ほぉっと見惚れるようにルティは溜息を吐き、それから我に返って咳ばらいを一つ。
 分かりやすい。分かりやすい反応なのだが、元社畜は分かってない。

「ここに無い物は仕方ない。じゃあここで一番美味しい物を食べよう!」
「ん。賛成だ」

 屋台通りを練り歩き、一番客が多い店で肉とわずかな野菜を挟んだパンを買って食べた。

「んまい!」
「んむ。なかなかいける」

 二人は大喜びで食べたが、実はこのお店。肉も野菜も他よりは少なく、その分価格も安い。安いから人気であって、町一番の美味さだから――ではなかった。
 そうとも知らず二人は、美味い美味いと連呼する。
 所詮人というものはそんなもんだ。
 行列が出来る=美味しいお店と安易に思い込み、その思い込みが実際に食した時にも発揮する。
 だが不味い訳ではない。
 安くて普通に美味しい物が食べられるのなら、幸せなことなのだろう。

 二人はその後、いくつかのお店を梯子して美味しい物を食べ歩いた。
 それから宿へと向かい、今度は二部屋に分かれようと悠斗が提案し、ルティは渋々承諾したのだが――。

「生憎一部屋しか空いてなくってねぇ」

 そんな主人の一言で、二人は今夜もまた同じ部屋で寝ることになった。
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