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31:一刀両断
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「ロロ、君にアドバイスを貰いたい!」
結論から言うと、弓は完成しなかった。
というか、いくらスキルがあっても、作ったことのない物がそう簡単に出来る訳ないんだよな。
風呂や洗濯桶は、ただ丸太をくり抜いたものだし単純構造だ。
弓だって湾曲した棒だろ? ──と、軽く考えた俺が馬鹿だったんだ。
「ディオンさん、どうしたんですか?」
「うん。実は弓を作ろうと思って、木工スキルも最大値にしてみたんだけどさ……」
そもそも構造がいまいち分からない。
なんでしなるのか。
弦はどうやって括りつけているのか。
それが分からなくて、弓の形をしたただの棒を量産しただけだった。
あとで薪にしてやる!
「ロロが弓を使えるっていうしさ。まぁ無いよりあったほうが安心だろう?」
「オ、オレのためにですか!?」
「うん。俺とセリスが狩りに出ている間の事を考えるとね。大丈夫だろうと思うけど、やっぱり武器を持っていた方が安心だろ?」
「はいっ」
弓を使っていたロロから話を聞けば、それなりに形になる物はできるだろう──と思ったのだけれど。
「それで、少し言いにくいのですが……」
「うん。なんでも言ってくれ、ロロ」
「は、はい……実はディオンさんが伐った木ですが……弓には向かない木なんです」
……。
根本的にダメだったらしい。
「弓にする木はもっと細く、折れにくいもののほうがいいんです」
「そ、そっか。うぅん、もう一回森に行くかなぁ」
「じゃあ一緒に行きます。その方がきっといいでしょうから」
それもそうだ。
セリスには留守を頼んで、ゴンも一緒に来て貰う。
「ゴーレン。万が一モンスターが来た場合、みんなを守ってくれ。うぅん、分かるかな?」
『んご?』
「いやいや、ゴンはいいんだ。俺とテイミング契約しているから、仲間だ。な・か・ま」
『ごぉっむ』
「そうそう。ゴン以外の、そうだな……襲ってきそうなモンスターは倒してくれ。まぁその辺りの判断はセリスに任せるから、彼女の言うことを聞いてくれればいい」
『ごぉーっむ』
理解してくれたようだ。
ゴーレンが護衛としてしっかりやれるなら、こうして二手に分かれても安心出来る。
そうして俺とロロ、ゴンで森へと出発。
失敗も含めて、木を二、三本伐って来るだけなので、そう遅くはならないだろう。
「意外に小さい木なんだな」
「はい。一本の木から三、四本の弓が作れるぐらいですね」
「え? そんなに作れるのか?」
木は俺の腕ふらいの太さで、高さは三メートルあるかないか。
二本作るのが限界じゃないかなって思うんだけど。ほら、弓道で使う弓ってでか──いや、狩りであんなデカいの使う訳ないか。
それでも念のため、それに矢だって必要だ。
矢は矢で、細く真っ直ぐ伸びた木……というか植物? そんな奴の茎を使うそうな。
ゴンにそんな植物はあるかと尋ねると、森の奥を鼻で指す。
「奥かぁ」
「奥に行くとモンスターもいますよね」
「まぁこの辺りでも出るっちゃー出るんだけど」
今までの獲物はこの辺りで遭遇した奴だし。
けど、だからこそ弱いモンスターだったんだよ。
森の奥の方に行けば行くほど、生息しているモンスターは強くなる。これ世界の常識。
「けど必要なもんだし……アイテムボックス以外のポイントを、攻撃スキルに全ふりしておくか。ロロ、周囲の警戒は頼むな」
「は、はいっ」
『ンッメェ』
「あぁ。ゴンの鼻も期待してる」
感知を捨て、その分攻撃スキルに……さて、スラッシュ一極で行くか、他に攻撃スキルを取るか。
スラッシュは使い慣れているけど、敵単体にしか使えない。
森の奥に行けば囲まれることもあるだろう。
でも剣術の範囲攻撃って、下手すると味方も巻き込んでしまう恐ろしいスキルなんだよなぁ。
だから前衛職ってのは、範囲攻撃を捨て、いかにして敵を素早く倒すかに特化してくるんだ。
そこが俺の前世で知るゲームと、この世界の違い。
けど、守らなきゃいけない子がいる。
モンスターの注意を俺だけに集められれば──あ、ヘイトコントロールスキルがあるじゃん。
ここはゲームと同じなんだよなぁ。
「よし。『タウント』をレベル20取って、スラッシュは40にしたから大丈夫だろう」
「40!? す、凄い……オレが知っているのは、レベル12ぐらいまでですよ」
「でもそのレベル12って、スキルの訓練をしてあげた人だろ? 努力して頑張ってあげた人と、努力しないで楽して上げた人と比べるのは……なんか凄く申し訳ない木がする」
それでも使える力を使って生き抜かなきゃならない。
さぁ、森の奥に進むぞ。
「ゴン、案内よろしく」
『ンメェ』
ゴンの案内で森を進むと、案の定モンスターと遭遇。
ツインヘッドスネーク。そのまんま、頭が二つある蛇のモンスターだ。
厄介なのは、火を吐くこと。
「ロロ! 木の陰に隠れているんだっ」
「は、はいっ」
「うおおぉぉぉぉっ! こっちを見ろ!!」
タウント発動!
否が応でも、奴は俺に視線を向けることになる。
『ンメェーッ』
ゴンがどどどっと飛び出し、巨木を蹴って奴の背後に回り込んだ。
俺は奴の注意を引き付けるために、このまま正面で仁王立ち。
二つの頭が同時に口を開けた。
火球か!?
『ンッメッ』
『ンッシャアァァァッ』
何をしたのかと思ったら、ゴンの奴、ツインヘッドスネークの尾を思いっきり蹄で踏みつけてやがる。
その痛みで、吐きだそうとしていた火球が消えた。
「サンキュー、ゴン!」
とりゃあぁぁぁーっと、レベル40のスラッシュをお見舞いだ!
ぐっと握った剣を一閃すると、白刃が飛び出しツインヘッドスネークの首が──吹っ飛んだ。
「……レベル40は……上げすぎたか?」
『ンメェ』
ここいらのモンスター相手に、攻撃スキル40は必要ないのかも……しれない。
「す、凄いですディオンさん!」
「スラッシュ40はいらなかったかもな」
「こいつの皮は商人に高額で買い取って貰える──あ、でもここだと商人はこないし、お金の必要もない……ですよね」
「まぁそうだな。でも高額で取引されるってんなら、使い道があるってことだ。こいつも持って帰ろう」
蛇の胴と、ふっ飛ばした首も忘れないようにインベントリの中へ。
そして目的の矢に加工できる植物を発見し、これはあるだけ引き抜いて持って帰ることにした。
だって矢は消耗品だし。
砦に戻るまでの間に、レベル40スラッシュの餌食になったモンスターは、合計で五体になった。
二匹は昆虫型で、食材にはならない。
ツインヘッドスネーク含め、三体は食材になる──ということで、今夜はご馳走が期待できそうだ。
結論から言うと、弓は完成しなかった。
というか、いくらスキルがあっても、作ったことのない物がそう簡単に出来る訳ないんだよな。
風呂や洗濯桶は、ただ丸太をくり抜いたものだし単純構造だ。
弓だって湾曲した棒だろ? ──と、軽く考えた俺が馬鹿だったんだ。
「ディオンさん、どうしたんですか?」
「うん。実は弓を作ろうと思って、木工スキルも最大値にしてみたんだけどさ……」
そもそも構造がいまいち分からない。
なんでしなるのか。
弦はどうやって括りつけているのか。
それが分からなくて、弓の形をしたただの棒を量産しただけだった。
あとで薪にしてやる!
「ロロが弓を使えるっていうしさ。まぁ無いよりあったほうが安心だろう?」
「オ、オレのためにですか!?」
「うん。俺とセリスが狩りに出ている間の事を考えるとね。大丈夫だろうと思うけど、やっぱり武器を持っていた方が安心だろ?」
「はいっ」
弓を使っていたロロから話を聞けば、それなりに形になる物はできるだろう──と思ったのだけれど。
「それで、少し言いにくいのですが……」
「うん。なんでも言ってくれ、ロロ」
「は、はい……実はディオンさんが伐った木ですが……弓には向かない木なんです」
……。
根本的にダメだったらしい。
「弓にする木はもっと細く、折れにくいもののほうがいいんです」
「そ、そっか。うぅん、もう一回森に行くかなぁ」
「じゃあ一緒に行きます。その方がきっといいでしょうから」
それもそうだ。
セリスには留守を頼んで、ゴンも一緒に来て貰う。
「ゴーレン。万が一モンスターが来た場合、みんなを守ってくれ。うぅん、分かるかな?」
『んご?』
「いやいや、ゴンはいいんだ。俺とテイミング契約しているから、仲間だ。な・か・ま」
『ごぉっむ』
「そうそう。ゴン以外の、そうだな……襲ってきそうなモンスターは倒してくれ。まぁその辺りの判断はセリスに任せるから、彼女の言うことを聞いてくれればいい」
『ごぉーっむ』
理解してくれたようだ。
ゴーレンが護衛としてしっかりやれるなら、こうして二手に分かれても安心出来る。
そうして俺とロロ、ゴンで森へと出発。
失敗も含めて、木を二、三本伐って来るだけなので、そう遅くはならないだろう。
「意外に小さい木なんだな」
「はい。一本の木から三、四本の弓が作れるぐらいですね」
「え? そんなに作れるのか?」
木は俺の腕ふらいの太さで、高さは三メートルあるかないか。
二本作るのが限界じゃないかなって思うんだけど。ほら、弓道で使う弓ってでか──いや、狩りであんなデカいの使う訳ないか。
それでも念のため、それに矢だって必要だ。
矢は矢で、細く真っ直ぐ伸びた木……というか植物? そんな奴の茎を使うそうな。
ゴンにそんな植物はあるかと尋ねると、森の奥を鼻で指す。
「奥かぁ」
「奥に行くとモンスターもいますよね」
「まぁこの辺りでも出るっちゃー出るんだけど」
今までの獲物はこの辺りで遭遇した奴だし。
けど、だからこそ弱いモンスターだったんだよ。
森の奥の方に行けば行くほど、生息しているモンスターは強くなる。これ世界の常識。
「けど必要なもんだし……アイテムボックス以外のポイントを、攻撃スキルに全ふりしておくか。ロロ、周囲の警戒は頼むな」
「は、はいっ」
『ンッメェ』
「あぁ。ゴンの鼻も期待してる」
感知を捨て、その分攻撃スキルに……さて、スラッシュ一極で行くか、他に攻撃スキルを取るか。
スラッシュは使い慣れているけど、敵単体にしか使えない。
森の奥に行けば囲まれることもあるだろう。
でも剣術の範囲攻撃って、下手すると味方も巻き込んでしまう恐ろしいスキルなんだよなぁ。
だから前衛職ってのは、範囲攻撃を捨て、いかにして敵を素早く倒すかに特化してくるんだ。
そこが俺の前世で知るゲームと、この世界の違い。
けど、守らなきゃいけない子がいる。
モンスターの注意を俺だけに集められれば──あ、ヘイトコントロールスキルがあるじゃん。
ここはゲームと同じなんだよなぁ。
「よし。『タウント』をレベル20取って、スラッシュは40にしたから大丈夫だろう」
「40!? す、凄い……オレが知っているのは、レベル12ぐらいまでですよ」
「でもそのレベル12って、スキルの訓練をしてあげた人だろ? 努力して頑張ってあげた人と、努力しないで楽して上げた人と比べるのは……なんか凄く申し訳ない木がする」
それでも使える力を使って生き抜かなきゃならない。
さぁ、森の奥に進むぞ。
「ゴン、案内よろしく」
『ンメェ』
ゴンの案内で森を進むと、案の定モンスターと遭遇。
ツインヘッドスネーク。そのまんま、頭が二つある蛇のモンスターだ。
厄介なのは、火を吐くこと。
「ロロ! 木の陰に隠れているんだっ」
「は、はいっ」
「うおおぉぉぉぉっ! こっちを見ろ!!」
タウント発動!
否が応でも、奴は俺に視線を向けることになる。
『ンメェーッ』
ゴンがどどどっと飛び出し、巨木を蹴って奴の背後に回り込んだ。
俺は奴の注意を引き付けるために、このまま正面で仁王立ち。
二つの頭が同時に口を開けた。
火球か!?
『ンッメッ』
『ンッシャアァァァッ』
何をしたのかと思ったら、ゴンの奴、ツインヘッドスネークの尾を思いっきり蹄で踏みつけてやがる。
その痛みで、吐きだそうとしていた火球が消えた。
「サンキュー、ゴン!」
とりゃあぁぁぁーっと、レベル40のスラッシュをお見舞いだ!
ぐっと握った剣を一閃すると、白刃が飛び出しツインヘッドスネークの首が──吹っ飛んだ。
「……レベル40は……上げすぎたか?」
『ンメェ』
ここいらのモンスター相手に、攻撃スキル40は必要ないのかも……しれない。
「す、凄いですディオンさん!」
「スラッシュ40はいらなかったかもな」
「こいつの皮は商人に高額で買い取って貰える──あ、でもここだと商人はこないし、お金の必要もない……ですよね」
「まぁそうだな。でも高額で取引されるってんなら、使い道があるってことだ。こいつも持って帰ろう」
蛇の胴と、ふっ飛ばした首も忘れないようにインベントリの中へ。
そして目的の矢に加工できる植物を発見し、これはあるだけ引き抜いて持って帰ることにした。
だって矢は消耗品だし。
砦に戻るまでの間に、レベル40スラッシュの餌食になったモンスターは、合計で五体になった。
二匹は昆虫型で、食材にはならない。
ツインヘッドスネーク含め、三体は食材になる──ということで、今夜はご馳走が期待できそうだ。
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